第12話 アナタとハジメテの共同作業

「夕愛ちゃんの初恋はいつかわかるかしら?」


お母さんはこういう時、イジワルになる。

そんなことを皆の前で言わせて、私が恥ずかしがるのを面白がるなんてヒドい!


でもさっきお母さんに「聞かれたことにはきちんと答えること」って釘を刺されちゃったし、「嘘はついちゃだめ」とも言われちゃったしなぁ......。


仕方ない。恥ずかしいけど、ここは正直に答えて勢いで乗り切ろう!


私がそう思って覚悟を決めたころ、知夜くんは一息深く呼吸を吐いて気合を入れた後、「よしっ」と気合いを入れてキッと表情を正して、言葉を発しようとしている。


「それで、夕愛?初恋はい......<わぁ〜!知夜くんの真剣な表情かっこいーーーーーーーーよぉーーーーーーースキスキスキ好きすきすきすき好き好き好き大大大大大大大だーーーーーーいすきーーーーーーー!!!>......つなのかな?」


<うん、めちゃくちゃ嬉しいな!肝心な質問は伝わってなかったみたいだけど>


知夜くんの表情を見て取り乱しちゃった私の心の中の暴走に、知夜くんも「嬉しい」なんて心の中で思ってくれてるみたい。伝わってきちゃった。

でも、知夜くんがなにか言ってたのを聞き逃しちゃった......。


「ちょっ、ちょっと夕愛......?気持ちは嬉しいんだけどさ。ちょっと落ち着いてもらえるかな。その......感情の部分がおっきすぎて、質問が伝わってなさそうだからさ」


そんなこと言って〜。知夜くんも心の中、台風の日みたいに暴れまわってるじゃん!そんなに嬉しかったんだ〜。えへへ〜。


<可愛いよ夕愛可愛いよ〜。その表情もたまらなく可愛いよ〜!ってダメだダメだ!夕愛!初恋はいつなんだい?>


何も言わない私達に、お父さんたちがまた不安そうな顔で見つめてるのを見て、知夜くんが私達の無限に好きな気持ちになるループを止めて、改めて尋ねてくる。


<あぁっ!ごめんね!?一旦落ち着くね!?>


私はそう言って、「すぅ〜。はぁ〜」と深呼吸をしてから、改めて彼の目を見つめて質問に素直に答える。


<そ、それはもちろんいま。今だよ!これまで男の子を好きになったことなかったけど、いま知夜くんのことが大好きっていうのはとってもよくわかるよ!>


自分の顔がさっきまでより一段と赤くなるのがわかる。よく見たら自分の手足まで赤くなってきてて、心臓がバクバクしてる。

というか、あれ!?お母さんの質問のせいで知夜くんに告白することになっちゃった!?

よく考えたらまだお互い「好き」って言い合ってなかったのに!「来世も一緒にいようね」とは言ったけど、好きっていってなかったのに!


<あ、ありがとう。僕も夕愛のこと、大好きだよ>


これまであんまり照れたりしてなかった知夜くんがちょっと照れた表情をしてる!可愛い!

それに彼も私のこと好きって言ってくれた!嬉しい!


知夜くんとの愛を確かめあっていると、彼がお母さんの質問に声を出して答える。


「えっと、夕愛......さんは、初恋は今だって言ってます。僕が初恋......らしいです」


ぷぷぷっ。知夜くんがそれを言う状況なんて、まるでナルシストみたい。ちょっと恥ずかしがってるのもポイント高いなぁ〜。


お母さんはその答えを聞いて私の方を見つめてくる。そうだった、答え合わせしないとっ!

私は全力で首を縦に振る。


「ふふっ。まず1問目は正解みたいね?今の見つめ合ってる間に、初恋がいつか、以外のことも伝え合っちゃったみたいに見えるけど」


お、お母さん、やっぱり鋭い!

というか、私に告白みたいなことさせるのも、知夜くんが恥ずかしがるのも、全部お母さんの作戦なんじゃ!?

もしそうだとしたら、そんなの何しても敵わないよ。


お母さんの慧眼に戦慄してしまったけど、それは置いておいて今の状況を解決するために続ける。

知夜くんがお父さんやお母さんに質問されて私に確認して答える。

そんなやり取りが何度か交わされた後、お母さんから同じように続けて質問された。


「じゃあ、夕愛ちゃんの将来の夢は?」


質問を受けて、知夜くんが私の目を見つめる。


この質問は別に恥ずかしくない。

お母さんにはいつも言ってたし、答えは決まってる!だけど今日はいつもとちょっとだけ違ってて......。


知夜くんが私の目を見つめてきたので、これしかない!って答えを彼に伝える。


<そんなの、もちろん、知夜くんの・・・・・お嫁さんだよ!>


そう、昨日まで、いやさっき知夜くんと出会うまでは「ただの・・・お嫁さん」だったんだけど、彼を見た瞬間に将来の夢が明確になったんだぁ。

もちろんこの気持ちもちゃんと知夜くんに伝わってるはずだよね!


そう思っていると知夜くんがこれまでと同じように回答しようと口を開く。


「えっと、お嫁さん、らしいです」


ん?知夜くん?違うでしょ?あ・な・た・の、お嫁さんだよ?

これはきちんと訂正してもらわないとっ!


彼の答えの真偽を確かめようと皆が私の方を見つめる。ここまで全問正解だったから、みんな不正解なんて思ってないみたい。

お母さんに至っては答えが正しいことを知っているからか、次の質問に行こうとしているけど......。


私はブンブンと首を横に振って正しくないことを伝える。

この反応に、知夜くんも両親たちも目を丸くして驚いている。

間違ってはないけど、正しくないの......。


知夜くんは<どうしたの?......もしかして聞こえてくる声は僕の幻聴なのかな?>なんて思ってる。

えー?わからないのかなー?


真意を確かめるように私の目を見つめてくる寂しそうな、混乱したような表情があまりにも可愛くって、ちょっと焦らそうと思ってた私の心は簡単におられちゃって、簡単に意図を伝えちゃう。


<ただのお嫁さんじゃなくって、『知夜くんの』お嫁さんですっ。正確に伝えてください!>

<あ、あぁ......そういうこと。びっくりしたよ>


むぅ......そこはもうちょっと恥ずかしがってくれてもいいんだけどなぁ〜。


私達の視線のやり取りに、その内容がわからないお父さんが声を上げる。


「知夜くん。どういうことかな?」

「ごめんなさい、さっきの僕の『お嫁さん』っていうのが正確じゃなかったから言い直させたかったみたいです。正確には......その......「僕の・・お嫁さん」になりたい、そうです」


客観的に聞いていると完全にナルシスト全開な彼の発言にお父さんたち男性陣は一瞬固まって、お母さんたち女性陣は「あらまぁ〜」なんて楽しそうな声を出していた。

そしてみんな一斉に私の方を見てきたので、私は首を痛めそうになるくらいの勢いで頷いて返す。

そう、その通りだよっ!


「そ、そうかい。なんか色んな意味で驚いてしまったよ。ともかく疑って申し訳なかった......もうわかったよ、俺の負け、降参だ」


お父さんは両手を挙げて優しい表情に変わる。その声にお母さんも嬉しそうに続く。


「えぇえぇ。昔から夕愛ちゃんの将来の夢はお嫁さんだったから、違うって言われちゃったときにはとっても驚いたけど、そっか、今日で夕愛ちゃんの夢がアップデートされちゃったわけだ!素敵だわ〜」


お母さんが語尾に音符が見えるほどに浮かれた様子で喜んでいると、不意に「あ、そう言えば」とお父さんが何かを思い出したかのように呟いて続ける。









「君にお義父さんと呼ばれる筋合いは、まだないよ!うんうん、これ人生で一回は言おうと思ってたんだよなぁ」

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