第15話

 周と香師宮、二人の昴球単車の光モジュールが唸る音を立てて、爆発的な推進力の解放を待っている。

「場所はお前が用意した。ルールは俺が決める。簡単だ、チキンレース。30m走って先に針の壁に到達した方が勝ちだ。何をやってもいい」

「乗ろう」

「俺の『赤鸞』」

「我が『しるどら』よ」

「綺子!合図はお前が出せ!」

 別室の敦盛がモニターを見て叫ぶ。

「周君、何をやっているんだ!?」

「ほんまにやんの!?早よ行けやー!」

 綺子が腕を振り下ろした瞬間、目の前で有に虚空が閃いた様に二台の単車が姿を消す。二人の単車が凛然とした光を曳いて、針壁に突進している。

(超高速至近距離レース。勝負は一瞬!)

 香師宮の『しるどら』が周の『赤鸞』へ幅寄せする。

(こいつさては!だがっ!)

 周が『赤鸞』の前進翼を開端させて、香師宮の『しるどら』の進路を妨害する。

(勝負には勝つ。命を賭けて。だが、ダチが好いてる奴を危険に晒して男が立つかよ!)

『赤鸞』が針壁に到達し、『しるどら』に圧迫されて、周に巨大針が突き刺さる。

(あまねくん、ダメ!)


 香師宮が時の流れのほとりで腕組みしている。

(我が身を犠牲にして敵を助ける………同じ事を考えていたか。そしてこの『クロノマンサー』としての彼が、針が頭蓋に激突した瞬間に気を失いつつ発現させ、壁ごと全壊させた幻実の炎蝶の女姿。像苑ゾーンいざなって鎮めはしたが………彼こそはこの世界で"第三のアダム"に)


「はっ!」

「周!」

 覚醒した瞬間、綺子から往復ビンタを浴びて周が起き上がる。モニター観戦を中座して、女バンドメンバーに案内されて来られた敦盛も、自らが危険に陥ったら、周は友誼故に命を盾にして助けに入るだろうという素振りで、細腕にも力強く抱え起こして板額に見守られながら介抱している。

「はよ起きんかい!」

「もう起きてるぞ!しこたま叩きやがって」

「やあ『アマネ』。目醒めてくれたね」

「………香師宮銀包」

「ふふふ」

「ははははは!」

 周が香師宮と胸の前で手拳を握り合う。

「気に入ったぜ。考える事は同じだな。お前の住む『王国』とやらは、自らの地上の命を超えた所にある」

「命を惜しむものか」

「チームメイト。なってやるぜ!」

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