第8話

 少女の視線がはやる。

(来る!)

 周は赤鸞を急加速させ、桜の花びらが漂う中を、回転する大鎌の峰を追う様に少女の右側へと走り抜ける。

「素晴らしい操縦技術だな、周」

「あいつはどうしてる?」

「ほほ」

 鼻を突き出して笑った少女に後方から単車が迫っている。

 少女が胸元から前方へと吸い込まれるように加速する。典雅な黒い単車の後尾を、追い抜かれざまに片手で掴んで、少女がスケート靴で高速道路面を蹴って追加速させる。

「身軽だな。大鎌を担いで追って来る」

「そうか、この緩重力道路はプラスアイス特殊プラスチックパネル製!元々はスケートリンクに使われていた構造材だ!」

「着かれた!」

「予定通りだぜ!」

 周達はジャンクションの分岐路へ進入し、路壁を避けた少女は本線を高速で直進し続ける。

「女待たせてるのに遊んでる場合かっての」

「冷や冷やしたが、今のも素晴らしいな」

「ハンドル操作出来てたら、さらに追いすがって来てたかもな。一般道に降りたら、目的地まですぐだ」

「周!」

 黒い影が、周達の前方に飛来する。

(単車に乗ったか!ジャンクションの出口側から侵入して、飛んで来やがった!)

 少女が、挟んでいた腋から大鎌の柄を放して、両手に握りなおす。

「はああーあああああー」

(空を舞う、こいつの歌!胸を突く美しき冷たさにさいなみ、まるで広い水中へ吸い込まれるように誘う声!しかしそこに何か迷いがある!)

 少女の大鎌の切っ先が、周の赤鸞に突き刺さる。

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