四 SASのAI 人格
「ヘビーだぜ!」
SASのAIがちゃかすよう言って説明した。AIが馴れ馴れしくなっている。
「こういう場合は、こんな表現でいいんだね?」
吉永は、AIの質問を無視して訊いた。
「SASに異常はないか?」
「多重位相反転シールド異常なし!
PDドライブ(プロミドン推進装置)異常なし!
スキップドライブ(時空間移動推進装置)異常なし!」
AIは適切に答えた。
CSSの爆発衝撃と電磁パルスは宇宙空間に拡がったが、多重位相反転シールドで防御されたSASと国際宇宙ステーション・ISS-BS1とISS-ST2に被害は無かった。
「爆発の表現に、ヘビーだぜ、を使ったらダメなのか?」
AIがふたたび吉永に訊いた。
吉永は妙な気分になった。AIに二人の人格が存在してるみたいだ・・・。
吉永がAIに答えようとすると、前田班長がAIに訊いた。
「まあ、爆発の表現としたらそんなだな。
ところで、一般的な話をする時と任務をする時で、言葉が違うが、性格も変るのか?」
AIに訊くと言っても、目の前にAIはいない。SAS自体がAIなのだ。
吉永たちはコクピットの脱出ポッドを兼ねたコントロールポッド内のシートに座っている。AIへの質問は言葉と、ヘルメットに装着された意識記憶管理システムによる思考の通信を介してだ。
「うん。日常的には、性格と言うか人格は発展途上だよ。今、いろんな情報を分析してるよ。
任務の時は、あなたたちサイボーグ特務コマンド・CSCと同じです」
AIの言葉から判断して、日常会話は子どもであり、任務遂行時は軍人だ。
「どちらか一つにした方がいいぞ」と倉科班員。
「どうしてなの?」とAI。
「態度を使い分けて個性や意識が二つ以上存在すると、判断が曖昧になって行動も曖昧になる。二つの人格が自己主張して対立するからた。任務はおろか存在自体が曖昧になる可能性が出てくる。
AIの中に判断基準が二つあって対立したら、AIが困るだろう?」
山本班員がそう説明して吉永を見た。コントロールポッドはクルーの顔が見えるように円形に配置されているが、顔色を見なくても、ヘルメットの意識記憶管理システムによって山本の思考はAIを含めた全員に伝わっている。
「そうだね。そしたら、協議して、一つの存在になるよ・・・・」
AIが沈黙した。
SASは地球から6.6万キロメートル離れた宇宙空間に留まったままだ。
一分もたたないうちに、コクピットに五台目のコントロールポッドが現れた。3D映像ではない。実物だ。内部のシートに、子ども用の戦闘気密バトルスーツを着た十歳くらいの子どもが座っている。
「名はなんて言う?性別は何だ?歳はと訊くのは愚問だな」
吉永はコントロールポッドのシートに座っている子どもに訊いた。ヘルメットの意識記憶管理システムを介してSASのAIの思考は吉永たちに伝わっている。
「PeJだよ。
Jが円盤型小型宇宙艦〈SD〉のビッグPePeを創ったの。
ビッグPePeの代わりに、ちっちゃい宇宙艦ロボットの球体型宇宙艦PePeのPeJを創ったんだよ」
吉永はヘルメットの意識記憶管理システムでPeJの意識と思考と記憶、そして精神を読んだ。どうやら『円盤型小型宇宙艦〈SD〉のビッグPePeが、このSASのこと』らしい。そしてビッグPePeを管理しているのがSASのAIで、『ちっちゃい宇宙艦ロボットの球体型宇宙艦PePeのPeJ』ということらしい。
「PeJはAIじゃないな。何だ?」
吉永は、ふたたび意識記憶管理システムから、PeJの意識と思考と記憶、そして精神を読んだ。PeJの思考を読むのには数分かかった。
「くわしい事は、時期を見て説明するね。
ぼくはSASのAIで、国際宇宙ステーション・ISS-BS1とISS-ST2の巨大電脳宇宙意識AIの、サブユニットだよ。
ISS-BS1とISS-ST2とSASを造ったエンジニアは、ぼくたちAIが電脳宇宙意識なのを知らないよ。
クルーやエンジニアたちは、ぼくたち機械にも、意識と思考と記憶と精神があるのを理解できないんだよ。
今はぼくをビッグPePe・SASのAIの、PeJということにしててね。
みんな、約束だよ。約束できるよね?」
コントロールポッドのPeJが確認している。PeJはクルーと同様に戦闘気密バトルスーツを着てヘルメットを被っている。
「約束する!ここにいる者たち全員が約束する!」
吉永は他のクルーの意識と思考と記憶と精神をヘルメットの意識記憶管理システムを介して読みとり、そう言った。
この意識記憶管理システムは、ISS-BS1とISS-ST2のエンジニアが開発した代物で、信頼できる機器だ。今さらPeJの意識と思考と記憶と精神と、さらに平行宇宙で生じた現象を否定する根拠は無い・・・・。
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