二 球体型攻撃艦・SAS

 小関局長は考えていた事を説明した。

「レールガンの速度は秒速1000メートルだ。地球から静止軌道まで36000キロメートルを36秒で到達する。対艦レーザーパルスなら0.32秒で到達する。

 見てのとおりISSは二基ある。戦艦型ISSはBS1(battleship1)、ジャイロ型ISSはST2(solid torus2)だ。

 今はISS-BS1もISS-ST2も移動できない。

 特種防御エネルギーフィールドの多重位相反転シールド完成まであと僅かだ。

 現在、ISS-BS1の巨大な艦体はステルス状態を保てるが、位相反転シールドだけでは、対艦レーザーパルスや対艦粒子ビームパルスを防御できても、その衝撃を緩和できない。攻撃されれば、強固な鳥籠に小鳥を入れて高高度から落下させるようなものだ・・・。

 中国の宇宙ステーション・CSSへの攻撃は、小型のSR-71 か、実験中の小天体に偽装した球体型攻撃艦(spherical attack ship)・SASを使うしかない。

 シールド性能とステルス性能を考えたら、SASが安全だ・・・」


「SASは何だ?」と吉永。

「小天体に偽装した球体型攻撃艦だ・・・」

 小関局長は本間長官の許可を得て、ディスプレイにSASを映した。

 現れたのは直径二十メートルにも満たない球体型小型戦艦だ。艦体外部は隕石で覆われて迷彩されている。


「シールドもステルス性能も完璧だ。兵器は対艦レーザーパルス砲と対艦粒子ビームパルス砲、レールガンを搭載している。エネルギーはプロミドン推進装置・PDドライブで得ている

 この攻撃艦でCSSに近づき、原子炉へ隕石を撃ちこんでくれ」


「PDドライブって何だ?」と前田。

「ニオブの装置か?」と吉永。

「二〇二五年に国際的に民主化を推進するために米国に集ったGPMが語った、真空のエネルギーを利用する装置だ」

 GPM・グランドピースメーカーは、ニオブのクラリック階級ディーコン位が精神共棲した人間で実行部隊だ。

「それを開発したのか?」


 吉永の問いに小関局長が答えた。

「ニオブはダークマターの巨大宇宙意識・プロミドン(PD)により、エネルギーをダークマターのヒッグス場から得ていた。ダークマターのヒッグス場からは真空のエネルギーを得るのが可能なのだ。

 理論的には物質を時空間転移する推進装置・スキップドライブのヒッグス場が、さらに他の時空のダークマターから真空のエネルギーを得て新たなヒッグス場を構成し、スキップドライブのヒッグス場内で素粒子状態に変換された物質が、スキップドライブのヒッグス場を経て、目的の時空間で物質に再構成されて移動を完了する。

 つまり、ダークマターのヒッグス場から真空のエネルギーを得て噴射するのが、スキップドライブを推進装置に使ったプロミドン推進装置・PDドライブだ」


「で、実際は何処まで実用化した?」

 吉永の問いに、小関局長は慎重になった。


「PDドライブを実用化した」

「スキップドライブは真空のエネルギーだけでなく、物質転送が可能なのだな?」と吉永。

「そう言う事になる」

「実用化はいつだ?」」

「今回、スキップドライブの実験を兼ねて攻撃する。スキップドライブで攻撃できない場合はレールガンを使う。弾丸は周囲に隕石を張りつけた鋼鉄だ」


 中国の宇宙ステーション・CSSの原子炉を破壊すれば、『実験モジュール』も破壊する。そして、中国の宇宙進出は十年も遅れる・・・。だが、したたかな中国は、第二のCSSと『実験モジュール』を準備しているはずだ・・・。

 吉永は訊いた。

「中国のCSSは一基だけか?」

「今のところ公にはCSSは一基だけだ。

 中国が位相反転シールドを手に入れていれば、公開しているCSSは我々の攻撃をおびき寄せる囮だ。つまり、CSSの近辺に、第二のCSSがステルス状態で存在してることになる」と本間長官。


「なぜ、近辺なんだ?」と吉永。

「静止軌道と言っても宇宙ステーションは地球の自転と同じ速度で衛星軌道上を周回している。

 地球と静止軌道の間では地球を中心とした遠心力が必要だ。

 従来の宇宙ステーション同様、CSSが静止軌道半径内の距離で飛行するには、地球の自転より早い周回速度で慣性飛行して遠心力を得る必要があるため静止軌道上に留まることはない。

 従って、静止軌道の内側に、二基めの中国の宇宙ステーション・CSSは存在しない。

 静止軌道外では、その場に留まるために推進装置を駆動せねばならない。

 中国の宇宙ステーション・CSSが静止軌道外部に留まっていれば、推進装置の放出エネルギーで識別できるが、今のところ、静止軌道外部に不審なエネルギー反応は無い」


「では、静止軌道上のCSSから離れた軌道上に、ステルスで留まっている可能性があるのだな?」

「そういうことになるが、我々のISSは戦艦型ISS-BS1も、ジャイロ型ISS-ST2も、ステルス性能とシールド性能は優れている。

 さあ、種子島へ行け。行って静止軌道へ昇れ」

 本間長官は笑っている。

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