六 情勢変化

「コンメイ シンセン アモイ シャンハイ経由の陸上物流が増えてます。

 シンセンとタイワンの海路の物流は減ってます。

 それと、これは過去になかった施設です・・・」

 情報収集衛星の探査映像が中国の地上探査に気づかれない程度までシュウザン群島のシュウザン海軍基地が拡大し、その橫に二年前の比較映像が現れた。明らかに停泊している軍艦が二倍に増えている。


「これは・・・、東海海軍が兵力を増強してる。

 ヘロインとダイヤの密輸は兵力増強のための外貨の獲得です。

 東南アジアにも密輸しているはずです。

 ASEAN連合国に報告しましょう」と班長の前田銀次捜査官。


「その前に兵力増強を報告する・・・」

 立場上、吉永は防衛省極秘武器開発局(通称サイボーグ開発局・CDB(Cyborg Development Bureau))に出向している警察庁警察機構局特捜部の特別捜査官だ。警察機構局特捜部で得た情報の報告義務がある。


 吉永はただちに中国の東海海軍兵力増強を、本間宗太郎警察庁長官と防衛省の極秘武器開発局の小関久夫CDB局長に報告した。


 ディスプレイを通じて本間宗太郎警察庁長官と小関久夫CDB局長が話しあっている。

「なるほど、ヘロインやダイヤの密輸どころではないぞ。

 特捜部は、よく、これを見つけてくれた!

 小関局長!ただちに清洲防衛大臣に報告して、連合国へ通達だ!」

「わかりました!」


 状況が異様な様相に変りつつあった。



 二〇三二年、十月四日、月曜。

 環太平洋環インド洋連合国(Pacific Rim Indian Ocean Rim United Nations・PRIORUN)の十四艦隊が東シナ海と南シナ海に展開し、台湾東部の太平洋上尖閣諸島、奄美大島西方海域、竹島、東沙諸島、南沙諸島を実効支配した。

 一艦隊を構成する戦艦は、おおよそ、原子力空母一隻、ミサイル巡洋艦四隻、ミサイル駆逐艦八隻、揚陸指揮艦一隻、輸送揚陸艦四隻、掃海艦四隻、潜水母艦二隻、原子力潜水艦三隻である。

 中国は環太平洋環インド洋連合艦隊がこれほど迅速に諸地域と海域を実効支配するとは考えていなかった。



「吉永君。君に新しい任務だ。今後は出向先のCDB局長小関久夫君の指示に従って、特捜部をそのまま率いてくれ」

 警察機構局特捜部指揮官室の壁のディスプレイから、本間宗太郎警察庁長官が小関久夫CDB局長を目配せした。

「さて吉永君。人選は君に任せます。

 海中、狭所、暗所、これらを苦にしない者が必要です」

 小関久夫CDB局長は、サイボーグ化した吉永の顔を示している。


「俺のほかに、顔を機能交換した者がいるか?」

「昨年夏、松木の爆弾で負傷した者たちが機能交換してます」

「あいつらはあの時、ダイヤが皮膚に食い込んだだけじゃなかったのか?」

「顔の骨まで食い込んで骨格が保てなかったので、骨格を機能交換しました。そのついでに呼吸機能を君のようにした者がいます。目は交換していません」

「では、酸素ボンベなしに海中生息が可能だな。サイボーグ化したのは何名だ?」

「あなたと班長の前田捜査官も含めて四人です」

「前田はどうしてサイボーグ化した?」

 吉永は班長の前田銀次捜査官の身に何があったか、まったく知らなかった。


「麻薬の売人を車で追跡中、銃撃戦で車が大破し、片眼と顔の下半分を失いました。

 機能的には、あなたと同じですよ」

「わかった。人選は顔をサイボーグ化した四人にする。みな、海中の狭所、暗所を気にしない者たちだ」

「わかりました。全員を招集してください。明日、一〇〇〇時に、任務を説明しましょう」

「わかった」

 吉永はディスプレイに向ってそう言った。



 翌日。(二〇三二年、十月五日、火曜)

 警察機構局特捜部指揮官室のソファーに、吉永と前田捜査官と二人の捜査官が座った。


 壁のディスプレイで小関久夫CDB局長がいう。本間宗太郎警察庁長官は黙ったままだ。

「改良した高速移動可能なウェーブグライダー(波力移動海洋地震探査機)が東シナ海に浮遊しています。

 四人は第六艦隊の輸送揚陸艦から、これらのウェーブグライダーに乗って、海中を沿岸近くへ接近し、地震探査機を海底に係留して、停泊している原潜のミサイルを爆破破壊してください。

 原潜も戦艦も兵器を満載しています。ミサイルが破壊すれば他のミサイル、他の原潜、戦艦が誘爆します。任務の基本内容は以上です。

 質問を受付けます」


「海中での爆破衝撃を緩和する装備はあるのか?」と吉永。

「今回、海上爆破ですから、海中の方が爆破衝撃波を受けにくいと思われます。

 爆破装置セット後はすみやかに海中に避難撤退してください・・・」


 その後、小関久夫CDB局長からの説明が続いた。

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