七不思議たちは餓死寸前

雪代

がっこうへいこう

 七不思議、と言って、知らない人はまずいまい。

 通いなれたいつもの学校。

 友達と過ごす楽しい時間。

 その闇に潜む、ささやかな恐怖。

 かつて七不思議は、子ども達の娯楽の一つだった。

 大人の目を盗んで夜の学校に潜り込み、大切な友達と肩を寄せ合いながら恐怖を乗り越える。

 なんとスリルに溢れる、素晴らしい遊びであったことか!

 しかし、時代は変わってしまった。

 子ども達の興味はゲームやおもちゃに移り、機械の発展により学校の警備システムは強化され、夜は危険という刷り込みも多いに彼らの脳を傷つけた。

 七不思議の存在は、遊びの選択肢から、ただの都市伝説へと移ってしまったのだ。

 さて、そうなるとひとつ深刻な問題が生じてくる。

 七不思議の怪異達は、子どもの魂を喰らうことで己の糧としていた。

 だがこのご時世、肝試しをする子ども達などごくわずか。

 つまり、つまりである。怪異達は飢えていた。

 それもやって来た子ども達に向かって『うはははは、丁度腹を空かせていたのだ』などと格好つけて高笑いできるような程度ではない。

 彼らはもはや、飢え死に寸前だった。



*  *

 肝試しの子ども達がやって来たのは、実に1年と2か月16日1時間ぶりのことだった。

 少年が夜の校庭に足を踏み入れたその瞬間、怪異達は狂喜乱舞し、早速調理室で下ごしらえを始める者まで現れた。

 少年は4年2組の児童で名前は土師良寛という、と、下駄箱の怪異が仲間達に知らせた。

 本人はあまり積極的な方ではないが、ガキ大将とつるんでいる姿をよく見かける。きっと他人に話を合わせるのが上手いのだろう。

『それはつまり』

 階段の怪異が言った。

『あの子を喰えば、彼を探して他の子ども達も肝試しに来るかも知れないんだな』

 さらにさらに歓声が上がった。

 嬉しいことに、良寛は一人の少女を連れていた。

 きっと同じ年頃なのだろう。しかし下駄箱の怪異には見覚えがなかった。

 と、良寛がこっそり開けておいた小窓に彼女を引き入れながら、こんなことを言った。

「ほら、早く行こうよ薫子。明日になったら君、帰っちゃうんだろう?」

 うん、と頷いて、可愛らしいワンピース姿の少女も校舎に入った。

『なるほど、親戚の子か何かが遊びに来ているんだな』

 音楽室の怪異の呟きに、他の怪異達も頷く。

 二人は手を握って、まず下駄箱に向かっていった。

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