第35話 宿題終了後の夏休み

 そう、移住開始まであと1週間ちょいしかない。

 正確にはあと9日間。


 移住開始手続きそのものは簡単だ。

 前日までにWebで必要事項を入力して申し込めばいい。

 私の場合ほとんどの項目は既に入力済み。

 後はは移住開始日時を入力してエンターキーを押すだけ。


 書類関係もほぼ作り終えた。

 勉強も語学、魔法ともに既に移住に問題ないレベル。

 体力訓練だけはもう少し頑張りましょう程度だけれども。


 残っているのは自分で用意して持っていく物の追加購入及び整理。

 部屋の大掃除。

 そして私的にさよなら等をするべき相手への連絡くらいだ。


 実家関係は完全に無視予定。

 勤め先関係も無視だ。

 高校以前も無視していいかな。

 

 そんな感じで無視していったら残る人数は数少ない。

 何せ陰キャだから友達が少ないのだ。

 気になるのは大学時代の旅行研究会の友人くらい。


 でも峠場さんや美穂は連絡しなくてもいいかな。

 秋川や稲美も。

 何せ異世界移住だ。

 説明しても信じてくれないだろう。


 そんな感じで絞りに絞った。

 それでも1人だけ残ってしまった。

 頭はいいくせに運と勘が悪くて、そのくせ妙な時だけ異様に冴えたりする奴が。


 連絡しないで消えるのはまずい。

 奴なら私が消えた事を不審に思って調べたりしかねないから。

 かと言ってどう連絡すればいいだろう。


 連絡手段は一応存在する。

 メールアドレスもSNSのIDも知っているから。

 でも何をどのくらい伝えたらいいだろう。

 難しい。

 

 うん、後回しにしよう。

 前日にスマホやパソコン等を初期化するまで。送る事は何時でも出来るから。


 昔の私はこの『後回しにしよう』が出来なかった。

 ついでに言うと『他人に投げてしまおう』も出来なかった。


 しかし一度壊れたおかげでこの辺が出来るようになった。

 何せ休職直後は全てを後回しにする生活だったから。

 これ以上壊れないように柔軟性を身につけたわけだ。

 一度壊れたものは壊れやすくなるから。


 さて、ノルマの勉強も終わったし、今日は何をしようかな。

 必要最小限プラスアルファの持ち物は揃えたつもりだ。

 持ち物リストにも入力した。

 醤油や味噌、みりんも念のために業務用を購入した。

 塩その他調味料や香辛料も。

 安い化粧水大量とか、乳液とか、シャンプー石鹸洗剤あたりまで。


 つまり今の私は宿題を終えた夏休み状態だ。

 受験が背後に控えていたりもしない。


 よし、マーマイトと魚醤を買いに行こう。

 この辺がヒラリアでも確実に手に入る、味噌や醤油に近いものだ。

 これらが果たして代用になるのか調べてやる。


 この辺の普通のスーパーにはないだろう。

 しかしではなく輸入食品メインの名前だけコーヒー農場な店なら売っている可能性が高い。

 最寄りの店舗は地下鉄で1駅分ちょっと、距離にして片道2kmに少し足りない位。


 なら運動目的で歩いていくとするか。

 でも店内で雨にずぶ濡れというのはまずい。


 なら行きだけは地下鉄を使おうかな。

 帰りはまあ気分で。

 外へ出るだけでも運動だ。

 この部屋の中では数歩しか歩かないから。


 ここ数日は前程外出に気を使わなくなった。

 最低限の化粧はしなくてはとか、服も少しは選ばないととか。

 どうせ2週間後にはここからいなくなるのだ。

 だからその辺気を配る必要もあるまい。


 そんな訳で歯磨きからはじめても15分という短時間で支度を終える。


 買い物で重いものを買っても問題ないよう、いつものディパックを持って、雨に濡れたら拭けるよう中にタオルを入れ、ついでにエコバックも2つ入れて準備完了。


 スマホを運動モードにしてお出かけだ。

 

 ◇◇◇


 マーマイトは売っていなかった。

 代わりにベジマイトを買って来た。


 成分的にはほぼ同じで、マーマイトが輸入できなくなった時に代替品として作られたのがベジマイト。

 だからまあこれでもいいだろう。

 ヒラリアのマーマイトも代替品として作られたものだろうから。


 ただ味噌と比べるとかなり値段が高い。

 220g入り1瓶、消費税込みで645円。


 やはりスーパーでは売っていなかった。

 だから予定通りコーヒー系輸入食品店で購入。

 その店でもなかなか発見できず、お店のお姉さんに場所を聞いたなんて状態だった。

 日本ではマーマイトやベジマイトはやっぱりマイナーらしい。


 他に水煮のひよこ豆、トマトピューレ、焼酎なんてものもついでに購入。

 勿論魚醤もナンプラーがあったので購入。

 こっちは結構お安く小瓶1つで100円ちょいだった。


 さて、これらヒラリアに存在するらしいうま味調味料で味醂干しや味噌漬けを作れるだろうか。


 勿論現地物は日本で買ったものと味が違うだろう。

 手に入る豆もひよこ豆や大豆とは違う筈だ。

 トマトピューレも現地で手に入るトマトに似た野菜を使ったもので、地球のものとは品種からして違う。

 焼酎は向こうの蒸留酒の代用だがきっと風味が異なるだろう。


 それでも工夫の方向性がわかれば向こうでもきっと役に立つ。

 だから物が揃っている地球にいるうちに試した方がいい。

 なんて理屈をつけるが本当は半分暇つぶしのお遊びだったりもする。


 実験する魚はアジとサバ、ブリ。

 更にはカツオも買ってある。


 あの辺のスーパーは品ぞろえが微妙にいい。

 町名も卸町なんて名前だし。

 だからつい実験用、いや開発用と食事用兼ねて買ってしまった訳だ。

 なおブリだけは切り身で、他は丸のまま2匹ずつ。


 さて、あとは代替品開発と称した実験だが、本ターンは外出してそこそこ疲れた。

 だから昼食を食べてターン終了としよう。

 

 買って来たこれら実験材料をアイテムボックスに収納する。

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