第15話 不可避の任務、無事完遂

 その後も続く長い長い説明を読んで私は理解した。

 つまり魔法を起動する時はただ実現したい魔法を唱えるだけではなく、

 ① 何を使用して

 ② どんな風にエネルギーを与えて又は失わせて

実現させればいいかを考えるといいという事だなと。

 

 1日分の分量はこれで終わりだ。

 しかし途中でひと眠りしたから今日は2日目。

 だから次の日分まで進めておこう。

 

 次のページへと移る。

 おお、次は早くも魔法の実践練習だ。

 しかし実践なんて本当に出来るのだろうか。

 説明文を食い入るように追いかけてしまう。


『実は魔素マナは少量ですが地球にも存在しています。しかしそのままでは濃度が薄すぎて魔法を起動する事が出来ません。

 ですが特殊な魔法陣と術式、更に詠唱を使用する事により、一時的に周囲の魔素マナを集め、魔法を使えるようにする事が可能です』


 つまり魔素マナを集めれば地球でも私が魔法を使える訳か。

 でも待てよ。

 確か魔法を使うには細菌型マイクロマシンと共生して居る必要がある。

 なら魔素マナを集めた後、私に感染するまでは無理ではないのだろうか。


 そう思ったらしっかりその点についても記載があった。


『なお魔法を実際に使用して練習可能となるのは、記載の魔法陣及び術式を展開してからおよそ12時間経過後からとなります。

 また展開後1週間の間は人体側への共生が完了していませんので魔力の発現がかなり弱いものとなります。あらかじめご了承ください』


 なるほど。

 ならその魔法陣や術式を展開してから一晩ぐっすり眠ればいいのだな。

 そうすれば魔法が微弱ながら使用可能になっていると。

 なら何をどうすればいいのだ。


『プリンタをお持ちの方はこちらのボタンで魔法陣を表示し、4枚印刷、自分が就寝する部屋の四隅に静置して下さい。


 魔法を練習する部屋と就寝する部屋が異なる場合は、魔法を練習する部屋にも四隅に静置すると効果的です。どちらかしか静置できない環境の場合は就寝する部屋を優先してください。


 プリンタをお持ちでない方、もしくはスマホ等のみで使用されている方は、こちらのボタンを押してください。魔術式が表示されます。これを出来る限り正確に紙に描き、自分が就寝する部屋の四隅に静置して下さい。1枚を描画した後、残り3枚はコピーしても結構です』


 単なる印刷物で何故効果があるのだろう。

 そう思ったら説明もしっかり書いてあった。


『この魔法陣や魔術式を直近に存在する魔素マナが読み取り、集合命令を発信します。当初は命令を発信する魔素マナがごく少ないため、命令が届く範囲も限定的です。


 ですが魔素マナが集まるにつれ、発信能力も高まります。ですので時間が経てば経つほど、加速度的に周囲の魔素マナ濃度が濃くなり、魔法が使用しやすくなります。


 なお魔素マナの読み取り能力や発信能力は三次元的な障害物に左右されません。ですので魔法陣の上に物が置かれていても問題はありません。


 ただし紙が折れたり曲がったりする事により、図形や式が変形することは避けてください。魔素マナが集まらないだけではなく、予想外の効果が生じる可能性があります』


 なるほど、とりあえず理解した。

 あと紙は折るな曲げるなか。

 注意しておこう。


 さて、うちは一応パソコンもプリンタもある。

 パソコンは最近起動していないけれど。

 理由は簡単、ベッドから操作できないから。

 

 しかしこのタブレットからでも印字は出来る筈だ。

 ただプリンタの電源を入れる必要がある。

 そしてプリンタの位置はベッドからテーブルをはさんで部屋の反対側にある安物カラーボックスの上。

 ベッドから出ないと電源ボタンまで届かない。


 ベッドから出るのは難しい。

 トイレが我慢できない時はしかたないから出る。

 あとは身体がわさわさして風呂に入らずにいられない時も。

 しかしそれ以外で私がベッドの上から動くことはない。


 さあどうするか。

 念力を送ってみたが電源ボタンは動かない。

 静電感知方式のボタンなら念力では駄目か。

 なんてくだらない事を思っても進展はない。

 だいたい操作関係はともかく電源ボタンはメンブレンスイッチだ。


 どうしよう。

 でも押さないと印字出来ない。

 プリンタを使わず紙に描くなんてのはもっと無理。


 仕方ない。

 トイレに行くついでにやる事にしよう。

 ベッドから出る回数は最小限にしたいから。

 そうすべき理由なんて実は何処にもないけれど。

 

 あと印字をした紙を取りに行って部屋の四隅に置く作業もあるよな。

 どうせなら全てを1回で済ませたい。

 入念に作業工程を考える。

 よし、出来た。

  ① ベッドから出る

  ② プリンタの電源を入れる

  ③ トイレに行く

  ④ 印字終了後の紙を取る

  ⑤ 部屋の四隅に置く

  ⑥ ベッドに帰還

の流れがベストだ。

 

 なお②から④までの間でプリンタにデータを送る必要がある。

 だからタブレットも持ち歩く事にしてと。


 これで完璧だ。

 いつ行っても問題ない。

 タブレットを操作しいつでもプリンタにデータを送れる状態にしておく。

 それでも気力がわかない。

 ベッドから出る気力が。

 

 こういう状態の私は無力だ。

 貰ったお薬にも気力回復系は無い。


 そう思いつつも努力はする。

 トイレに行きたくなれば立ち上がらざるを得ない。

 だからペットボトルのお茶を一口飲む。

 更に目を閉じてゆっくり深呼吸をする。

 秘技、小周天の法! 気を練るのだ!

 勿論そんなの私に出来るわけないけれど。


 駄目だ、気合が足りない。

 かくなる上は秘技第二弾、瞬間移動!

 なんて念じても勿論出来る訳はない。


 動いてしまえばなんて事はない。

 それは重々わかってはいるのだ。

 でもそれが出来れば鬱だったりしない。


 そんな訳で無駄なあがきを繰り返す。

 途中休憩をはさんだりしながら。

 無駄なあがきと理性ではわかっているけれど……


 結局私が立ち上がれたのは1時間程度経過した後。

 どうしてもトイレが我慢できなくなってからだった。

 まあ予想通りの展開だな。

 頭の中の理性的な一部がそう冷たく判断する。


 立ち上がって、プリンタの電源を入れ、トイレに入り、所定の作業をした後スマホを操作しデータを送り……

 手を洗ってプリンタから紙を取り、部屋の四隅に置いて無事ベッドへ帰還。

 任務完了だ。


 うん、私、頑張った。

 それに魔法の練習には魔法陣設置から12時間必要だ。

 だからもう今日は寝よう。

 手を伸ばして寝る前の薬を取り、水のペットボトルで流し込む。


 それではおやすみなさい。今日という日よさようなら……

 

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