第237話 議事録
ゴルバロさんの奥さんの出産を見届けて会議室に戻ると、異様な目を向けられる。
僕がいない間に何かあったのだろうか。
「ゴルバロの様子はどうだ?」
「ちょうど産まれましたよ。今は奥さんの側についています」
不審に思いながらも、質問に答える。
「喜ばしいことだが、2人とも無事なのか?」
「はい。危険な状態でしたが、なんとか治療出来ました」
実際は治したのではなく反魂で生き返らせたが、結果は同じなのでわざわざ口にはしない。
「君がいない間にネロの占いの的中率については共通の認識となった。その上で魔王討伐について話し合っているところだ。事前に君も占ってもらっていると聞いているが、その時とは変わらず特別な力を持った人物の1人は近くにいるそうだ」
「そうですか……。魔王に対抗できそうな人はここに集まってますし、2人とも近くにいると出ると思ってました」
「それから君には失礼なことをしてしまったが、君のことを色々と共有させてもらった。それでだが、鍵となる人物が君かどうか確認する為に少しの間他の街に移動していてもらえるか?」
「…………わかりました。後で何を話したのか教えてもらえますか?」
異様な目を向けられた理由はわかった。
気持ちのいいことではないが、世界の命運が掛かっている時なので仕方ないだろう。
そのまま話し合ったことを隠すことも出来たのだから、怒りはしない。
ブーケルへとファストトラベルして、ちょうどいいのでエドガードさん達にこちらの状況を説明してから戻る。
「結果はどうでしたか?」
「1人は変わらず近くにいるようだ。つまり君ではない」
レイハルトさんから予想通りの答えを聞く。
「それじゃあ、ほぼサラボナさんかネロ君で確定ですね」
スカルタにその人物がいない限り、あの時スカルタにいたサラボナさんかネロ君の可能性が限りなく高い。
何者かの意思が働いていれば別だが、このタイミングでたまたまスカルタから王都に移動した人物が、ちょうど探している人物なんてことは考えにくい。
ネロ君の占いは自分のことを占おうとすると出来ないのであって、自分が関係していると占えないわけではない。
それが出来ないなら、クローネのことも占えなかったはずだ。
「サラボナ殿はわかるが、ネロの可能性もあるのか?」
「ネロ君にも特殊な力はあります。今は失われているようなものですが、可能性の一つとしては残しておくべきです」
クローネが万全ではない魔王より強い可能性は十分にある。
「占いではなくてか?」
「占いとは別です。詳細は本人か学院長から聞いてください」
「ルージュ、話を聞いてまとめておいてくれ」
「わかりました」
ルージュさんがネロ君と学院長を連れて会議室を出ていく。
周りに配慮してくれるようだ。
僕の時もこうして配慮してくれたのだろうか。
「席を外していたクオンにここまでの会議の内容を説明する。まず当初考えていた案は全てネロの占いでは失敗することとなった。ネロの占いに沿う作戦を考える過程で君の情報交換を行ったわけだが、強固な檻と大量の血については謎が解けたと考えている。檻に関しては既に君も答えに辿り着いていたようだが、魔導具だ。カルム商会には魔力で結界を張る魔導具があるそうで、今は君が持っていると聞いた」
2つの道のうち1つの答えには辿り着いたようだ。
でも、そっちの道は大量の血が流れるリスクの高い道だ。
魔王は討伐出来るかもしれないけど、大量の血とは何人が犠牲になるのだろうか。
「はい、ここで出すには大きすぎますが持ってます。頑丈さはマーリンさんの折り紙付きですが、必要な魔力が多すぎて倉庫に眠ってました」
「それもこれだけの精鋭が揃っていればなんとかなるそうだ。万全を期す為にまだ詰めるが、作戦はそこの議事録と一緒にまとめてある。もう一つの道が判明しない限りはそれで進める予定だ」
レイハルトさんに言われて、絵を使って簡略的に書かれた作戦書を含む議事録を読む。
僕の知らないところで、話がどんどんと進められている。
なんだか1人取り残された気分だ。
「…………この方法で魔王が倒せるのですか?」
作戦書を読み終えたところで、レイハルトさんに確認する。
「成功する保証はない。ネロに占ってもらったが、結果は出なかった。魔王討伐に関してはこれ以上のヒントはもらえないようだ。君から見て、その作戦に不備はあるか?」
「……なさそうに見えます」
ネロ君の占いに反しているところはない。
「どう転ぶかわからないが準備を進める。君もそのつもりで動いてもらえるだろうか?」
「わかりました」
会議はその後も続き、日が完全に落ちたところで、もう一つの道については進捗がないまま一旦締められる。
もう一つの道に僕としては心当たりはあるけど、僕のいないうちに立てられた作戦に対して不確定要素が多く、実行するのも難しそうなので、今は黙っておくことにする。
これ以上巻き込むのも悪いという気持ちもあるからだ。
翌日から会議には全員は集まらず、各々自身のやるべきことを進め始める。
主にはマーリンさん主導の元行われる魔導具の設置作業だ。
魔王が地下深くに眠っていることもあり、起こさないように慎重に作業が行わなければならない。
僕はというと、ネロ君に王都の案内をしており、ネロ君の希望でスカルタの孤児院へのお土産を選んでいる。
「あれから、クローネが近くにいるような感覚はあった?」
雑貨屋で小物を見ながらネロ君に話しかける。
「たまにクローネが近くにいる気がする時があるんだ。でも、姿を見せてはくれないし、話しかけても返事はないんだ。だから、僕の勘違いかもしれない」
クローネと思われるあの天使自身も、あの時の頭痛が気になってネロ君の様子を見に来ているのかもしれない。
もしかしたら、もうクローネとしての記憶を取り戻しているのかもしれないけど、ネロ君の前に姿を現さないということは、姿を見せることの出来ない理由でもあるのだろう。
「勘違いなのかもしれないけど、今はそれが手掛かりなんだから諦めたらだめだよ」
こちらから見えていなくても、こちらの話し声が天使に聞こえていることは神下さんのことでわかっていることだ。
神下さんが天使のまま姿を現すことが出来たのだから、あの先輩天使には出来ないということもないだろう。
それならば、ネロ君には直接話をしたいと思わせるように、いるかどうか確かではないクローネに話しかけ続けてもらうのが1番の近道かもしれない。
サラボナさんにもう一度次元斬のスキルを使ってもらうという手もあるが、神下さんの時と違ってどこにいるかはわからないし、誤って殺してしまう可能性もある。
「うん……。実は、今もクローネが近くにいるような気がするんだけど……」
神下さんと一緒にいたということは、あの天使は僕のことも知っているだろうし、僕とネロ君の話を聞いていたということかな。
「近くにいるなら少しだけでもいいので姿を見せてもらえませんか?元に戻すことも出来ますので、少しでも姿を現してくれれば、あの時のようにこちらに居続けられるようにします」
雑貨屋を出てから人のいない路地に入り、聞いているかもしれない天使に向かって話す。
神下さんが以前、下界に干渉するにはエネルギーが必要で、そのエネルギーを貯める為に神から神力という力を借りていたと言っていた。
神下さんが特別扱いされた結果、神力を貸してもらえたのだとしたら、顕現するだけのエネルギーをあの天使が持っていないから姿を現すことが出来ないのかもしれない。
それでも、一瞬でもいいから顕現してくれればあの時のように堕天させると伝える。
すると少し間を置いて、あの時の天使が姿を現した。
「……クローネ!!」
ネロ君が天使を見て叫ぶ。
あの神は、クローネは生まれ変わったと言っていたけど、顔は変わっていないようだ。
「反魂!」
叫ぶネロ君を見つつ、僕は天使を堕天させる。
「クオンさんですね。最高神様より伝言を預かっています」
羽が黒くなった天使は自身の変化に驚きもせず、ネロ君の方を見た後、僕の方を見て話始める。
伝言を預かっているということは、こうなることがわかっていたということだ。
「お聞きします」
「君はつまらない人間になってしまったみたいだね」
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