第196話 指導

「セルイド先生、生徒達に少し僕が教えてもいいですか?」

セルイド先生には、生徒達をどうやって教育していくかという方針があるはずなので、勝手に指導はせずに、まずは許可をとる。


「お願いします。生徒達も喜びます」


「それじゃあ、将来騎士や衛兵、冒険者等、魔法を使って戦いたい人と、商売などで魔法を使いたい人で分けてもらえますか?」


「わかりました」


セルイド先生に2つのグループに分けてもらったけど、ほとんどは戦う職業に就きたいグループに集まった。

ほとんどというより、集まらなかったのは3人だけだ。


「先にこっちの3人の訓練をみますね」

クロウトに恥をかかせるのが目的と思われないように、生徒全員に訓練をつける。


「「「よろしくお願いします」」」


「君達は将来何に魔法を役立てたいと思っているのか聞いてもいいかな?」


「僕は魔法で家を建てたいです」

「私は錬金術を学ぶ一環として学院に通ってます」

「村の生活を豊かにしたいです」

3人から具体的な答えが返ってくる。


「それじゃあ、魔法を使っているところを見させてもらおうかな。何か僕にアドバイス出来るところがあれば教えるね。それじゃあ、まずは家を建てたいと言った君から」


「はい」


「あ、的に魔法を当てるのを見たいわけじゃないよ。そうだね、家の材料である石材を魔法で作ってみてもらえる?」


「はい。やってみます」

男の子が土魔法で石材もどきを作る。

土魔法で作っているので、石ではなく土の塊だ。


ガンガン!

作ってもらった石材を力を入れて叩いたら割れた。


「ムラがあるね。均等に魔力を流してあげると、強度が増すと思うよ。後は圧縮だね。石にはならなくても、圧縮しだいで石のように固くなるはずだよ。何か容器を決めて、その中にどれだけ土を詰め込むことが出来るか定期的に挑戦するといいんじゃないかな。重くなった分、君が成長出来たということだね。今はすぐに叩いたけど、乾燥させて焼いてあげれば硬くなるだろうし、いい家が作れるように頑張ってね」


「ありがとうございます」


他の2人にも、元の世界とゲームの知識から僕なりのアドバイスをして、戦う職業に就きたいグループと変わってもらう。

こっちのグループにクロウトが含まれている。


「こっちのグループは人数が多いからね。まとめて話をさせてもらうよ。最初に何になりたいのか聞かせてもらおうかな。実際になれるなれないではなくて、なりたいものの時に手を上げてね。まずは騎士になりたい人は?」

半数くらいが手を上げる。その中にクロウトの姿もあった。


同じように、衛兵になりたい人と、冒険者になりたい人も聞く。


「君は何になりたいのかな?」

どれにも手を上げなかった男の子がいたので、直接聞くことにする。


「猟師になりたいです」


「なるほど。不意に魔物と対峙することもあるから、戦えないと務まらない仕事だね。それじゃあ、少し質問を変えて、実際に目標としているのはどれか。学院に入って4年目の君達は、自分の実力も把握出来てきた頃だと思う。それじゃあ、騎士を目標としている人は?」

先程からは大分減り、手を上げたのは5人だけだ。

クロウトも手を上げていたので、好都合だな。


同様に衛兵と冒険者を目標としている人を聞くと、大半が冒険者であった。

冒険者はある程度の実力があれば、誰でもなれるからだろう。

高ランクまで上り詰めないと生きていけないということもない。


「それじゃあ、わかりやすいように、今手を上げたグループで固まってもらおうか」

3つのグループと猟師になりたい男の子とで並び直してもらう。


「それじゃあ、騎士になろうとしている君達に質問。騎士になる為に必要なことは?はい、そこの君」

僕はクロウトを指名する。ここからクロウトにはどんどんと恥をかいてもらうつもりだ。


「誰にも負けないくらいに強くなることです」

クロウトが答える。


「全然違うね。強くなったところで騎士にはなれない。それじゃあ隣の君」

クロウトが何を答えても、僕は否定するつもりでいた。


「え、えっと……騎士としての誇りを持つことです……か?」

クロウトの答えをバッサリ否定したことで、自信なさげな答えが返ってくる。


「正解と言ってもいいかな。正確には、国のために死ぬ覚悟をすること。国を脅かす魔物を討伐するために囮になれと言われた時に、迷わず前に出ることの出来る人間じゃないと、騎士団に入れることは出来ない。背中を任せることが出来ないからね」

クロウト以外の答えには、全て肯定するつもりでいる。

明らかにおかしな答えは肯定しないけど……。


「それじゃあ次は衛兵を目標とした君。衛兵になってから気を付けないといけないことを一つ教えてくれるかな」


「悪事が行われていないか目を光らせて見回りすることです」


「それは大事だね。衛兵の方達が見回りをしてくれていることで、未然に防げた事件も多いからね。次は冒険者になろうとしている君に聞こうか。冒険者が1番に考えないといけないことは?」


「パーティメンバーと絆を深めることです」

言われてみて、ゲームだとその場限りのパーティが多いけど、長い間……もしかしたら冒険者を辞めるまでずっと一緒に依頼をこなすのだから、確かに重要だと思った。


「期待した答えとは違ったけど、それは重要だね。その答えが返ってくる相手には好感が持てるよ。僕の用意していた答えは死なないこと。復帰不可能な怪我を負わないことだよ。護衛依頼以外は、自分の命を第一に考えないと長く冒険者を続けることは出来ない。それには、自分の実力をちゃんと把握して、余裕を持って依頼を受けられるかが重要だね。それじゃあ、冒険者、衛兵、騎士で何が大きく違うか誰かに聞いてから、訓練の成果を見せてもらおうかな。わかる人」

何人かが手を上げる。


「もう一度君に聞こうか」

クロウトも手を上げでいたので、指名する。

さっき答えを否定した時に顔を赤くしていたから、挽回しようとするとは思っていた。


「騎士は誇りを大事にして、衛兵は未然に事件を防ぎ、冒険者は仲間と力を合わせて死なないように戦います」

クロウトが本当にダメな発言をする。

これは、今までの話をまとめただけだ。

せっかく2パターン答えを用意していたのに、頭に血が上っているのか、焦って保身に走ったのか知らないけど、この答えで評価されると思ったのだろうか……?


「それはさっきの他の人の答えを言っただけで、質問の答えにはなってないね。それじゃあ君、彼に答えを教えてあげて」

ちゃんと質問の意図を理解してそうな女の子を指名する。


「騎士は国の為、衛兵は街に住む人の為、冒険者は自分の為に戦います。騎士と衛兵は、国王に仕えているか領主に雇われているのかというのが大きな違いだと思います」

期待通りの答えが返ってくる。


「その通り。よく勉強しているね。覚えておいてもらいたいのは、衛兵は領主に雇われているから、領主の言うことを断りにくいということだね。言いたくはないけど、全ての貴族が善人というわけではない。だから、衛兵になる人は自分の中に確固たる正義を持って欲しい。例えば、このクラスにいじめをする貴族がいたとして、いじめを無くそうと動ける人が衛兵に向いていると僕は思うよ」

僕が言ったことで、多くの生徒の表情が曇る。

以前にこのクラスで実際にあったことだからだ。


「さて、それじゃあ力を見るために模擬戦でもしようか。セルイド先生、訓練の内容を変更しますがよろしいですか?」


「構いません。生徒達の訓練の成果を見てください」


「一応、騎士と衛兵と冒険者、それぞれに伝手を持ってるから、推薦したいと思う力を見せてくれる人がいれば、紹介するから頑張ってね。それじゃあ、誰からやってもらおうか。まずは自信のある人にやってもらうのがいいかな。我こそはという人はいるかな?」


「俺がやる!」

クロウトが前に出る。目が血走ってるいるので、大分先程のやりとりがプライドを傷つけたようだ。


「さっきから、君はふざけているみたいだけど本当に自信があるのかな?君のお遊びに付き合っている程、暇ではないのだけれど……?」

煽れるだけ煽っておく。


「俺は一度もふざけてない!」


「それじゃあ君からやろうか。セルイド先生、開始の合図をお願いします。君がやりやすい所まで離れていいよ。僕は本気は出さないから、訓練の成果を見せることに意識して戦ってね」

僕は生徒達から見えやすいように訓練場の真ん中に移動して、クロウトに始めの立ち位置は任せる。


「クロウト君、よろしいですか?」

セルイド先生が確認する。


「ああ、問題ない」

当然本気を出すつもりはないけど、クロウトは僕に勝つつもりなのか?

名ばかりではあるけど、騎士団長なんだけどな。

それほどに、頭に血が上ると冷静に物事を考えられなくなるのだろうか。

恥をかかせるのはここからが本番だから、まだそこまで恥はかかせてないはずなんだけど……、煽り耐性がなさすぎるな。


「始め!」

セルイド先生が開始の合図をする。


「スペルロック!」

開始の合図と同時に、妨害系の空間魔法スキルを展開する。

小声で唱えているので、僕が使ったことは誰にも気付かれていないはずだ。


「喰らえ!……は?」

クロウトがこちらに手のひらを向けて叫ぶが、何も起きない。


「火球!火球!火球!」

クロウトが何度も火球を飛ばそうとしているようだけど、火球がクロウトから出ることはない。


「やはりふざけてるのか?」

僕が魔法の発動が出来ないようにスペルロックのスキルでこの空間を制御しているわけだけど、クロウトの方に問題があるものだとして、問いかける。


「そ、そうだ。訓練で魔力を使い果たしたみたいだ」

クロウトが言い訳を始める。


「お前は自分の魔力量も管理出来ないのか?それとも、魔力がないとわかっていて意気揚々と前に出てきたのか」


「思っていたより訓練に熱を入れすぎていたんだ」


「管理出来てないってことだな。はぁ。これをやる。魔力回復薬だ」

クロウトに瓶を投げて渡す。


ゴクっ、

クロウトが蓋を開けて飲む。

「お前は礼も言えないのか……。安いものではないんだけど」

周りから甘やかされて生きてきたんだろう。

ロンデル子爵は更生させる為に学院に入れたのかもしれないけど、逆効果だったみたいだな。


「くそ!火球!」

クロウトが注意されたことにイライラしながら、火球を放とうとするが、当然火球が放たれることはない。


「セルイド先生、やめにしましょう。ここまで馬鹿にされたのは初めてです」


「……そうですね。クロウト君下がりなさい」

セルイド先生がクロウトを下がらせて、見た目上は何もないまま模擬戦が終わる。


「希望する生徒全員と模擬戦をするつもりでしたけど、これで帰らせてもらいます」


「え……!」「そんな……」

チャンスを失った生徒達から、驚きと悲しみの混じった声が聞こえる。

そして、チャンスを失うことになった原因であるクロウトに視線が集まる。


思っていたよりいい感じにクロウトを貶めれたな。

これでクロウトが孤児院に悪さをしている犯人でなかったらやり過ぎたかとも思うけど、ネロ君をいじめてたのは学院長も認めていた事実だから、まあ、いいだろう。

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