第179話 占い結果

酒場の店主にも今日ここに来たことは秘密にするように騎士団長の肩書きを使って言い、冒険者ギルドと孤児院に寄ってから帰って、翌日の昼過ぎに、昨日のうちに占い師の店を探しておいたことにしてサザンカ亭へと入る。


エドガードさん達には鎧は脱いでもらい、私服で来てもらっている。

目立ちたくないというのと、臨時の休暇を与えるためだ。


「ここで占いをしてもらえると聞いたんですが……」

店主に昨日と同じ質問をする。


「ネロなら今日も出掛けている」

それだけでバレることはないだろうけど、委員長もいるので少し言葉は選んでほしい。

昨日来たことを言わないだけで助かるけど……。


「いつ頃戻られますか?」


「夜には戻るだろう。急ぎなら孤児院に行ってみろ。多分今日も孤児院に行っている」


「中で待たせてもらおうか。今日は休暇のようなものとするので、飲んでてもらってもいいです」


「いいんですか?」


「飲みすぎないようにはしてくださいね。ロゼさんは委員長の指示に従ってください」

ロゼさんだけは僕の部下ではないので、勝手に任務中に酒を飲む許可を出すわけにはいかない。


「ロゼさんも飲んで大丈夫ですよ。ただ、高いお酒は控えてください」

ロゼさんも飲めるように委員長が許可を出す。

第10騎士団には、団員に自由に酒を飲ませるほどの余裕はないのだろうか。

値段の違いはあるにしても、わざと選ばなければそこまでの差はないんだけどな。



「ネロが帰ってきた」

宴会をしていると、店主がネロくんが帰ってきたことを教えてくれる。

昨日と同じく、夕刻だ。


「それじゃあ僕達は占いをしてもらってくるよ。終わるまで飲んでてくれていいから」

エドガードさん達には待っててもらい、ヨツバとイロハと委員長と4人で黒いカーテンで仕切られたところへと入る。


「こんにちは。君がネロくん?」

ネロくんとも初対面ということで話を始める。


「……うん」


「少し年下くらいかな。子供とは思ってなかったから驚きだよ。いくつか占ってもらいたいんだけどいいかな?料金も教えてもらっていい?」


「一回占うごとに銅貨1枚だよ。僕の占いに満足したなら、払ってもいい額を追加でください。何を占えばいいかな?」


「僕達は遠く離れたところから呼ばれて、今は王都で暮らしているんだけど、何で呼んだのかちゃんと教えてもらう前に呼んだ人と会えなくなってしまったんだ。なんで呼ばれたのか占ってもらえるかな?」

桜井君達のことはイロハが聞くだろうから、僕は自分が気になっていて、昨日聞いてないここにいる皆に関係あることを聞く。


何も聞かないとおかしいので、昨日占ってもらわずに残していた案件だ。


「……お兄さんが思っている人が、お兄さんを呼んだわけではないみたいだね。呼んだ理由は……力を得るためかな」

ネロくんがカードで占う。


「それは、僕が思っている人の理由?」


「違うよ。……お兄さんが呼んだと思っている人には別の理由があるみたいだね。そっちの理由は占いには出てないよ」

あの自称神の子供が僕達を呼んだわけじゃなかったのか。

前提から覆されて、ますますあの神の行動の意味がわからないな。


そういえば、クラスメイトに会いすぎていることを確認した時に、あの神は集めたと言っていたな。

召喚したという意味に捉えていたけど、そうは言っていなかったから、嘘を言っていたというわけではないのか……?


「故郷に帰りたいんだけど、どうやったら帰れるか占ってもらえる?」

委員長がネロ君に聞く。


「……お姉さんは何の仕事をしていますか?」

ネロくんが占った結果を言う前に、委員長の仕事を聞く。


「私は騎士よ」


「……皆さん騎士なんですか?」


「こっちのクオンは第1騎士団の団長。私は第10騎士団の団員よ。この2人は仲間だけど騎士ではないわ」

委員長がこちらを見て確認してから、僕の肩書きも話す。


「き、騎士団長様!それで……」


「どうかしたのか?」

心配しているかのように、昨日のことがバレるようなことは言うなよと言う意味を込めて言う。


「な、なんでもないよ。それで、お姉さんが故郷に帰る方法だけど、占いだと道が2つ見えるよ。一つは仕事を辞めることで道が開けるみたい。もう一つは……誰かが命を失うことみたいだね」

ネロ君が最後、言いにくそうに言った。


ただの占いだとしても、誰かを殺せとは言いにくいだろう。

ネロ君としては言わないという選択肢もあったわけだから、よく言ったなという感想だ。


騎士を辞めれば僕が殺す計画を実行に移すし、僕を殺せば元の世界に帰れるようになるだろう。

相変わらず、あのカードでの占いの精度は恐ろしく高いな。


「話を戻すけど、実際に僕達を呼んだ人が誰か占ってもらえる?」


「……会うのが難しい高貴な存在だよ」


「名前とかはわからないの?」


「あくまでこれは占いで、引いたカードに当てはまることを伝えているだけだから、そこまではわからないよ」

違う神が召喚して、あの神が横取りしたとかそういうことだろうか?


「そっか……」

真の要因があの神とは別のところにあるとわかっただけで十分か。

そう考えると、あの子供の神は本当に僕達で遊んでいるだけという可能性まである。


真に呼んだ者が力をつけるのを邪魔したかったのが目的なら、既に目的は達しているわけで、僕が元の世界に帰すために皆を殺していることを止める理由もない。

それだとつまらないから僕には誓約をかけた。

それだけか?だとすると、スキルをくれたり元の世界で生き返らせたりと、ただのいい奴ってことになるんだが。


「占って欲しいことは他にある?」


「友達の行方がわからないの。王都で分かれて、私達は魔法都市に行ってたんだけど、王都に戻ったらどこにもいなくなってて……。どこにいるのか占ってください」

イロハが桜井君と平松さんのことを聞く。


「……あれ?うーん……やっぱり同じだ」

ネロ君が占った後に悩み、もう一度カードをシャッフルし直して、また悩む。


「何か問題でもあったのか?」

悩んでいるネロ君に声をかける。

もしかして、僕が殺したことが占いに出てしまったのだろうか。

そうだとしたら、少しネロくんの占いを甘く見過ぎでいたな。

ここまでと知っていればイロハと委員長は連れてこない方がよかった。


「占い結果が2つ出てきて、矛盾しているんだ。こんなこと今までなかったんだけど……」

僕が殺したことが占いに出たわけではなかったみたいだ。


「とりあえず2つとも教えてもらってもいいかな」


「一つは、閉塞された空間にいるって。ここからすぐ近くにいるみたい。もう一つは、ここからすごく離れた、お兄さん達に馴染みのある場所にいるみたいなんだけど……」

なるほど。ストレージの中の死体と、元の世界に帰った2つか。

確かに1人だと考えれば矛盾しかない。


「行方がわからない友達は2人いるの。だからかな……?桜井君がどこにいるかでもう一度占ってもらっていいかな?」

イロハが桜井君に絞りもう一度占ってもらう。


「……同じ結果だよ」

ネロ君が占い、結果を伝える。


「もう一つだけ。桜井君は生きているのか占ってもらえる?」


「……ごめんなさい。今日は占いの調子が良くないみたい。生きているって結果と、死んでいるって結果の両方のカードが出たよ」

すごいな。ネロくん自身は占いの結果がおかしいと思っているみたいだけど、的中率100パーセントの名は伊達じゃないようだ。


「……何度も占わせて申し訳ないのだけれど、狩谷君って人のことも占ってもらっていい?どこにいるかと、生きているのか」

委員長が狩谷君のことを占わせる。

委員長の中で何か歯車が噛み合ったのだろうか。


「……ここからすごく遠い、とても狭い部屋にいるみたい。その人も生きているって言う結果と死んでいるって結果が出ているね」

僕が殺した狩谷君は火葬されたのを確認している。

火葬といっても犯罪者に対するもので、火魔法で跡形もなく燃やし尽くされたと言った方が正しいかもしれない。


「私からは最後にもう一つだけ。私の弟について占ってもらえるかな?ずっと会ってないから元気か心配なのよ」

委員長がこの世界とは関係のないことを占うように頼む。

委員長の弟か。当然いることも知らなかったな。


「……該当がないみたいだよ。弟じゃなくて、妹……姉かもしれないけど、そっちは気持ち的にという意味を含めると、あまり元気はないみたいだね」


「言い間違えたわ。妹のことを占って欲しかったの。安心できたわ。ありがとう」

これは委員長が、ネロ君の占いがどれくらい信じられるか確認したかっただけだな。


「他に何を占えばいい?」


「ヨツバは何も占ってもらわなくてもいいの?」


「桜井君達のことは色葉ちゃんが聞いてくれたから大丈夫だよ」


「それじゃあ、ここまででいいかな。何度も占ってもらってありがとう。これはお代ね」

今日も金貨を1枚机に置く。


「……ありがとうございました」

ネロ君が金貨を受け取る。昨日に比べて動揺は少ない。


ネロくんの……というか、あのカードの力はやはり異常だ。

サラボナさんが関与できる口実として、あの孤児院と孤児院に関係する人を第1騎士団の庇護下としたわけだけど、万が一がないように邪魔な子爵家はやっぱり潰しておくか。


権力を振りかざして害をなす貴族とか悪でしかない。

これも、国の為。騎士の役目だということにしておこう。

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