第88話 意地
刑事は知りたい答えを得られてはいないと思うけど、刑事が聞きたいことには答えたと思う。
「話は変わるけど、君はゲームをするために学校に行ってなかったんだろう?」
そう思っていたけど、まだ話は続くようだ。
休憩をとりながら問答をしているので結構時間が経っている。
早く解放してくれないかな?
帰りたいと言えば本当に帰らせてもらえるのだろうけど、なんだか逃げるようで嫌だ。
一瞬でも、バレずに向こうの世界に行くことも出来ていない。
なんとか隙をつくことは出来ないだろうか?
「そうですね」
学校に行ってなかったのは刑事の言う通りの理由だ。
「今、君のクラスは休校になってるけど、そろそろ学校も始まるだろう?君は学校にまだ通わないのかい?」
戻ってきた人がいつまでも学校に行かないわけにはいかないので、他のクラスに振り分けられて授業を受けるという話は僕も母さんから聞いている。
もちろん行かないけど、なんで刑事はこのタイミングでそんなことを聞いたんだろうか?
息抜きのつもりでただの雑談かな?
「学校には行かずに自宅で…………勉強します。今回の事件のことを踏まえての処置みたいなので僕にはあまり関係ないですけど」
学校に行くか、自宅で自習するかを選ぶことが出来ると聞いている。
今回のことで精神的に病んでいたり、他のクラスで注目を浴びるのは嫌だと言う人がいるのではないかという配慮のようだ。
「……勉強するのかい?」
「学校に行ってなかった時も少しは家で勉強してましたよ。学校にちゃんと通っていた人に比べて足りていたとは思いませんけど……」
実際に高校の受験に困らない程度には勉強していた。
どの高校かを選ばなければ入れるくらいにだけど……。
「そうか。実際のところはゲームをするんだろう?」
実際のところは異世界に行くのだけれど……。
「まあ、そうですね。堂々と言うことではないですけど」
「最近も家にいるみたいだけど、ゲームしてるのかい?」
刑事が何を聞きたいのかわからない。
ただの雑談にも聞こえるけど、なんだか嵌められている気がする。
逃げ道を塞がれていっている気がしてならない。
「……そうですね」
そう思いながらも、他に答えようがないのでこう答えるしかない。
「君には悪いのだけれど、実は君のアカウントを調べさせてもらったんだよ。かなり苦労したけどね。君、最近ほとんどログインしてないよね?本当は部屋に引きこもって何をしているんだい?」
僕が本当にゲームをしているのか調べたらしい。
完全に嵌められた。このままでは今まで嘘ついていたのがバレてしまう。
嘘をついたからって捕まるわけではないけど、ますます疑われることになるだろう。
嘘をついて部屋に閉じこもっている中学生のクラスメイトが全員行方不明になった。
怪しすぎる。
「ゲームをしていますよ」
僕はこう答える。散々ゲームをしていると答えたし、異世界に行っているとは言えないのでこう答えるしかない。
「……君のログイン履歴を見させてもらったけど、事件が発生するまでは常にと言ってもいいくらいにログインしていた。でも事件が起きた日からパッタリとログインされなくなっている。ログインされたのは数回だけだ」
「他のゲームをやっていたので、やらなくなっただけですよ」
僕の逃げ道はこれしかない気がする。
「ちょうど事件が起きる日から?」
「ひきこもっていたとはいえ、クラスメイトが突然みんないなくなったというのはショックでした。なので、数日ゲームから離れていたんです。部屋でボーとしている時に違うゲームが目に付いたのでやり出したらそっちにハマってしまっただけですよ」
苦しい言い訳だったかな……
無理矢理だけど筋は通っていると思う。……多分。
「……そのゲームというのを教えてもらってもいいかな?こちらの都合で申し訳ないし、君にとって気持ちのいい話ではないけど、ログイン履歴を調べるのにはいくつも段階を踏む必要があって容易ではないんだよ。君にやましいことがないなら、そこでログインしてプレイ履歴を見せてもらえないかな?ソフトが必要なら用意するから」
刑事は置いてあるゲーム機を見ながら話す。
「……それは出来ないです。今やってるゲームはオンラインじゃないんです。いわゆるレトロゲームというやつで、セーブとかないのがほとんどなので、刑事さんが知りたいだろう、いつプレイしたとかは分からないと思います。家に帰って一式持ってこれば目の前でプレイすることは出来ますけど……どうしますか?」
「いや、それなら見せてもらわなくても大丈夫だよ。……そろそろ夕食にしてもいい頃だね。何か食べたいものはあるかな?」
時計を見ると既に17時に近い。まだ終わらないのかな?
「まだ聞きたいことがあるんですか?」
僕は聞くことにする。
「……あらかじめ聞こうと思っていたことは聞き終えたよ。夕食に関しては今日時間をもらったお礼だと思って好きなものを言ってくれていいよ。食べながら何か聞きたいことが出てきたら聞くかもしれないけどね」
とりあえずは乗り切ったようだ。
疑いが晴れたわけではなく、より深まったくらいだと思うけど、決定的なボロは出さなかったと思う。
確かに前にイージーモードは嫌だと思ったけど、ハードモードが過ぎる。
クラスメイトを見つけたら、帰りたいか確認して、帰りたいなら向こうの世界の人にバレないように殺す。
ただし、相手に死んだら帰れることは言ってはいけないし、相手からちゃんと敵対視された上で殺すと宣言してからでないといけない。
さらに、ヨツバが僕を止めようとしていて、イロハには気づかれてはいけない。
そして、警察にこれ以上怪しまれないように、殺された人がこっちに戻ってきた時に僕に会いに来ないように仕向ける。
条件が厳し過ぎる。
これもあの神が相手に殺すと言わないといけないなんてふざけたルールを追加したからだ。
それがなければ殺したのが僕だとバレないように闇討ちして終わりだったのに……。
確かにそれだと簡単過ぎるかもしれないから物足りない気もするけど、ゲームバランスが崩壊してないかな?
何か策を練るまでは殺すのを待った方が良さそうだ。
「それじゃあ、お寿司で」
なんでもよかったけど、お礼としてご馳走してくれるそうなので食べたいものをお願いした。
しばらくして出された高そうなお寿司を頂き、帰ることになった。
「長い時間付き合わせて悪かったね。またお願いする時もあるかもしれないけど、その時も頼むよ」
納得されるような断る理由がないので、また頼まれたら連行されるしかないのだろう。
「わかりました」
「それじゃあ家まで送るから車に乗って。ああ…そうだ、この部屋にある物は君の為に揃えたものだから欲しいものがあれば持って帰ってもいいよ」
「本当ですか!?それじゃあゲーミングチェアを…………やっぱり大丈夫です」
「この椅子は良いやつみたいだよ。一応署内のゲーム好きの人に選んでもらったからね。別に遠慮する必要はないよ」
良いものだというのは僕もわかっている。正直欲しい。
でもふとよぎってしまった。
あのゲーミングチェアに盗聴器とか隠されてないかなと……。
「使い慣れたやつのほうがプレイに支障がないので大丈夫です」
「……そういうものなのか。まあ、無理に持たせる必要もないし、君がいらないなら自分で使うことにするよ」
「……もしかして刑事さんの自腹で買ったんですか?」
「そうだよ。流石に経費では買ってくれないからね」
「なんだかすみません」
結局どれもこの部屋にあるものは使っていない。
準備してもらっただけだ。
「気にしなくていいよ。暗くなる前に送るから行くよ」
「あ、はい。お願いします」
車に乗せてもらい、家に向かう。
「君を疑うようなことをしてしまって申し訳ないと思っている。ただ、何人かは発見されたとはいえ、まだほとんどの生徒が見つかっていない。正直手掛かりがなさ過ぎて、君が何か知っている可能性が浮上すればこういうやり方をするしかないんだ。君にとって不快なことだったとは理解している。警察に対しても不信感を覚えただろう。すまなかった」
家に向かう道中、刑事に謝られた。
「いえ、気にしてません。それが刑事さんの職務だとわかってますので。それに以前に警察の方には助けてもらってますので、不信になんてなってないです」
「そう言ってくれると助かるよ」
「あの、教えてもらえたらでいいんですが、僕が会ってない人が4人いるって言ってたじゃないですか?その4人はどうやって見つかったんですか?」
参考までに聞いておくことにする。
「なんでそんなことを開くんだい?」
「何か共通点でもあるのかと思って……。僕としてもみんなが早く見つかって欲しいですから」
「……他の人には漏らさないでもらえるかな?」
「わかりました」
「…2人は空き巣に入っているところを捕まえた。2人で協力して何軒も空き巣をはたらいたそうだ。1人は衰弱している子供がいるという通報を受けて、公園に警察官が駆けつけたところを保護した。残りの1人は森で倒れているところを発見された。熊に襲われたのではないかと考えている」
2人は合流した後、泥棒になって捕まって処刑された。
1人は食べるものが買えなくて衰弱死。
1人は魔物に殺されたってところかな。
衰弱死が1番辛そうだ。
「熊に襲われたって大丈夫なんですか?」
「倒れていたのは、傾斜を2メートル程転がり落ちたのが原因のようだ。熊が通った形跡があったから、熊に驚いて足を踏み外したのではないかとの見解だ。打撲や擦り傷はあるが、熊に襲われたと考えれば軽傷ではある」
「そうですか。教えていただきありがとうございます」
「何か気になることはないかな?」
「いえ、みんなバラバラですね。同じところに誘拐されたわけではないんでしょうか……?」
「同時に行方不明になっているんだがな。それなのに共通点がなくてどこを探せばいいのか見当がつかないんだ」
「……何か分かるといいですね」
その後は無言のまま車は走り、家に到着した。
「今日はありがとう。君の方で何か知ることがあればここに連絡して欲しい」
刑事に名刺を渡された
「…わかりました」
やっと帰ってこれた。結局夜になっちゃったな。
2人はどうしてるだろうか……
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