第83話 偽装

3人で宿屋に戻った後、僕は2人に隠れて堀田くんの所へと戻ることにする。


僕は堀田くんの部屋をノックして、堀田くんに出てきてもらう。


「……まだ何か用か?」

堀田くんは僕の顔を見た後、ヨツバ達がいないのを確認する。


「堀田くんの方が僕に用があるんじゃないかと思ってね。まあ、ヨツバのいるところでは聞きにくいのかなと今度は1人で来たんだよ。僕の気のせいなら帰るけど、気のせいじゃないなら入れてもらっていい?」


「……入ってくれ」

部屋の中へと入る。

生活感のある部屋だ。悪く言えば少し汚い。

まあ男子中学生ならこんなもんだろう。


「大体予想はついてるけど、違ってるとあれだから堀田くんの方から言ってもらえる?」


「……斉藤は立花さんと付き合ってるのか?」


「やっぱり、その話だよね。答える前に聞きたいんだけど、堀田くんはまだヨツバのことを諦めてないってことだよね。なんでヨツバに告白したの?ヨツバは心当たりがないって言ってたけど……」


「…………立花さんはかわいいだろ?かわいいなって思ってる時に、話しかけられたら好きになるだろ?俺はあんまり女子から話しかけられることなんてなかったし……」

そういうものなのかな?


「それで勢い余って告白してしまったんだね。ヨツバは誰とでも壁を作らないだけだと思うよ?」


「そんなことはわかってるさ。でも好きになっちまったんだから仕方ないだろ?」


「別に責めてるわけではないよ。それで堀田くんはこれからどうしたいの?ヨツバのことを諦めてないわけでしょ?」


「付き合えるなら付き合いたいさ」


「こんな世界に飛ばされてる今でも?」


「場所とか関係ないだろ?」

青春してるなぁと思う。

僕とは無縁の感情である。


「そういうもんなんだね。それで最初の質問の答えだけど、僕とヨツバはそういう関係ではないよ」


「本当か?それならなんで一緒にいるんだよ」


「たまたま同じ街の近くに転移させられたからかな。後はヨツバが僕が街を出るって言ったら付いてくるって言ったからだよ」


「それなら俺が立花さんにもう一度アタックしても斉藤は構わないってことだな?もしかして俺の応援をしにきてくれたのか?」


「そんなわけないじゃん。ヨツバは有能だからね。僕の邪魔をするなって言いに来たんだよ」


「は?」


「いや、何驚いてるのさ?僕が堀田くんに協力する必要なんてないでしょ?僕がこの世界で成り上がるためにヨツバが必要だから堀田くんにヨツバのことは諦めろって言ってるの。ありえない勘違いしないでよ。僕と堀田くんはそんな仲じゃないでしょ?」

堀田くんを殺す殺さないは別としても、僕が誰かの恋の協力をするなんてことは考えられない。


「斉藤は自分のために立花さんを利用するつもりなんだな」


「そうだよ。この世界に来た時に少し手を貸しただけなのに、僕に懐いちゃったからね。丁度いいからそのまま依存させて利用しようかなって。そしたら案外有能だったんだよね」


「お前がそんな奴だとは知らなかった。今すぐ立花さんを解放しろ!」


「嫌だよ。それにヨツバは自分の意思で僕に付いてきてるんだからちゃんと本人の意思を尊重してあげないと。それに堀田くんに言われなくても、何かあった時にちゃんと解放してあげるよ。捨て石としてかもしれないけどね」


「ふざけるな!」


「別にふざけてはないよ。そういうわけだから僕達はもうすぐこの街を出るけど、後を追ってきたりしないでね。今だって堀田くんが恋に盲目になってヨツバの事を追ってこないか心配だったからこうして話をしに来ただけなんだから」

僕は十分堀田くんを挑発出来たと思ったので、話は終わったと帰る仕草をする。


「待て!表に出ろ。目を覚まさせてやる」


「はぁ、めんどくさいなぁ」

僕はそう言いながらも内心では餌に掛かったと思う。


堀田くんと外に出る。


「堀田くんも誰かと揉めてるのは見られたくないでしょ?もっと人のいないところに行こうか」


街の外まで移動する。


「この辺りならいいだろ。掛かってこいよ」

堀田くんがそんなことを言うけど、これは喧嘩ではない。


「素手でいいの?」

僕はストレージから剣を取り出す


「お前、俺を殺す気なのか?」


「もちろんだよ?堀田くんも僕を殺すつもりだったんじゃないの?」


「そんなわけないだろ!お前本当に狂っちまってるのか」


「そっか、まあ堀田くんがどうだろうと口は封じないといけないから殺させてもらうよ」


堀田くんが後退りする。


「ウォーターボール」

僕は水球を弾幕を張るように30発ほど堀田くんに向かって撃ち出す。


「うわあああ」

ウォーターボールは叫びながら蹲った堀田くんをすり抜ける。


「……っえ?っがぁ!」

いつまでも衝撃を受けない堀田くんが恐る恐る顔を上げたようとしているところ、僕は堀田くんの後ろに回り込んで後頭部を石で殴りつけた。

さっきのウォーターボールは幻影のスキルで作った偽物だ。そもそもあんなに同時には今の僕には発動できない。


堀田くんをストレージに入れようとしたけど入らない。

気絶しているだけでまだ死んでいないようだ。


僕は違和感を残さないように、堀田くんの全身を石で殴りつつ、致命傷を与える。


少しして堀田くんをストレージに入れれるようになった。


僕は偽装工作をしてから宿に戻る。


翌日、昼食を食べるために3人で外に出ると少し街は騒ついていた。


「どうしたんだろうね」

イロハが言う。


「なんだろうね」

僕は何も知らないふりをして答える


ヨツバが僕の方をチラッと見たけど、僕はそれに気づかないフリをする。


昼食を食べるために、昨日堀田くんと入った食堂へと入る。

僕としては他の店が良かったんだけど、どこに行くか相談した結果、2人がこの店の料理が美味しかったと言うのでこの店に来ることになってしまった。


「君達は昨日ホッタと一緒に来てた人だよね?」

食べ終わり、店を出ようかというところで店主に聞かれる。


「ホッタって誰ですか?」

僕は2人が答えないようにすぐに答える。


イロハが僕のことをバッと見る。

ヨツバは驚いた後、下を向いた。


「君達、昨日の夜にも店に食べに来たよね?」


「ええ、おいしかったので今日も来ました」


「それはありがとう。昨日、一緒にもう1人来てただろう?あの人がホッタだよ」


「そうなんですね。あの人には昨日この街で美味しい店がないか聞いたんです。それでこの店を教えてもらって、どうせなら一緒に食べないかと誘われたのでご一緒したんです。そういえば名前は聞いてませんでしたね」

嘘を並べる僕をイロハは不思議そうに見ている。


ヨツバは下を向いているので、何を考えているのかわからない。

僕が堀田くんを殺したことに勘づき始めているのか、それとも堀田くんとの関係を僕がただ隠そうとしていると思っているのか……


「そうか」

店主が言う


「何かあったんですか?なんだか街も少しですけど騒ついてましたし……」

僕は店主に聞く


「この街で温泉を掘ってるのは知ってるかな?」


「はい、枯れてしまって残念ですね」


「ホッタはそこの現場で働いていたんだが、今日の朝に事故で亡くなっているのが発見されたんだ。この街の為に仕事が終わってからも隠れて働いていたんだな」

堀田くんが事故に遭ったと思われているのは、僕が昨夜に堀田くんの死体を温泉を掘っている穴に投げ入れて、上から石やら岩やら土やらを適当に崩れたように落として、堀田くんを半分埋めたからである。

そう思わせる為に昨日わざわざ石で堀田くんを殺している。


「そんな……」

イロハは口をポカンと開けている。信じられないようだ。


「そうでしたか。残念です」


僕達は店を出て、無言で宿へと戻る。


僕が部屋でくつろいでいると、ヨツバがやってきた。


「ちょうど良かったよ。僕も用があったんだ」


「……先に聞かせてくれる?」


「十分露天風呂も満喫したし、そろそろこの街を出てもいいかなって。温泉はなかったしね」


「……街を出るのは構わないわ。いろはちゃんにも聞いてになるけど、ずっとこの街に居たいとは言わないと思う」


「そう、それならいつ出るかは考えておいて。僕はこの街にはもう用はないよ。望遠のスキルも手に入ったからいつ出ても良いよ」


「いろはちゃんと決めておくわ。クオンの用っていうのはそれだけ?」


「そうだよ」


「それじゃあ私の質問に答えてもらっていい?」


「答えられることなら」


「堀田くんはクオンが殺したの?」


「堀田くんは事故に遭ったらしいよ。本当に事故かどうかはヨツバの想像に任せることにするよ」


「そう、クオンが殺したのね」


「……まあね」


「…………私、クオンを止めるって言ったよね」


「言ったね」


「クオンが何も話してくれないから止めようがないよ」

ヨツバは悔しそうに言う。

僕を責めているようで、止めれなかった自分を責めているように思える。


「これから堀田くんを殺しに行くよって伝えればよかった?伝えてたらヨツバはどうしてたの?」

少し意地悪だなと思いながらも聞くことにする。


「……クオンを止めたわよ」


「どうやって?」


「力ずくで……」


「それは嘘だよ。力ずくで止めるつもりなら今こうしている時にでも止めてるよ」


「……それなら説得する」


「説得されても僕の答えは変わらないと思うよ。それに説得するとしてどうやって説得するのさ。僕は命の大切さなんて説かれても響かないよ。特定の人を殺そうとしているだけで、命が軽いと思っているわけではないからね」

僕は良いことをやっているつもりで同級生を殺している。

だから生半可な事を言われたところで考えが変わるとは思えない。


「…………。」

ヨツバは黙ってしまった。


「言い過ぎたよ。ごめん。ヨツバには僕が殺して回っているっていうことは秘密にしてもらっているわけだし、同級生を僕から逃がすことも出来ないよね。次誰かを殺す時には先にヨツバに言うことにするから、どうするか考えておいてよ」

実際のところ、ヨツバが僕との約束を守っている時点で、逃がすには相手に嘘をつくなりしてその場から僕にバレないように移動させて隠すしかない。

本気で僕を止めるなら、僕との約束なんて無視するべきだし、別行動して他の同級生を僕より先に探して悪行を広めるべきだ。


僕が逆の立場ならそうする。


実際にそうされると致命的に僕が動けなくなるので、やられる前にヨツバにはこの世界から退場してもらうつもりではいるけど、そうなる気配は今のところない。

僕の敵になりきれない時点で、誰かを殺す前に報告したとしても、ヨツバに僕を止めることは出来ないと僕は思っている。


「…………わかった」

ヨツバは小声で返事した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る