第3話 『仲間』
イナズマは身体に重みを感じる。これはグラビティの能力である重力の効果だ。
「何をするんだ!!」
「やりたくて……やってるわけじゃないです。止めて……ください」
操作されている?
グラビティの意思とは別に能力を発動させられているようだ。
傷ついたウィングを安全なところに寝かせると、イナズマはツノの生えた男に向かって叫ぶ。
「グラビティに何をした!!」
男はニヤリと笑う。
「我が名は阿修羅。力を与える者なり」
「力を与える者だと?」
阿修羅は背中に刺してあった刀を抜く。その刀は紫色の光を放ち、妙なオーラを放っている。
「この刀に斬られた者は、全ての力を振り絞る。そして力尽きる」
つまりはグラビティはあの刀により能力を暴走させられているということだろうか。そして倒れている警官たちも力が暴走し、力尽きた。
「グラビティ、まだ耐えられるか?」
「……あと少し……ですが…………」
まずはグラビティを助けることが先決だ。
「じゃあ、待ってろ。俺がコイツをやる」
イナズマは阿修羅と向き合う。阿修羅は戦闘体制を取りいつでも攻撃できるようになる。
「お前もさっきの天狗たちの仲間か?」
「如何にも。我らは解放者。人間の欲望から人々を守る解放者だ」
「解放者?」
「お喋りは好まない!」
阿修羅は話を切ると、襲いかかってくる。刀による一太刀。イナズマは能力を使い高速で回避したが、そのスピードは凄まじく速い。
能力を使っていなければ、回避することはできなかっただろう。
しかし、イナズマの能力だからこそ、回避できた。素早く回避から攻撃の動きにチェンジし、阿修羅の背中を蹴りつける。
阿修羅はダメージを受け、前のめりになる。しかし、踏ん張って倒れることはなかった。
「ふ、なかなかやるな」
阿修羅はそう言うと、ダメージを受けた身体を無理やり動かして、イナズマと向かい合う。
強がってはいるが、身体は震え、ダメージは確実に入っている。
「我々こそ、世界を救う解放者なのだ」
しかし、阿修羅は諦めることなく。再びイナズマに襲いかかってくる。何が彼をここまで動かしているのか。
そんなものは決まっている。欲望だ。
この世界は欲望で出来上がっている。だが、それから解放するとはどういうことだ。
イナズマは能力で阿修羅の攻撃を躱す。
イナズマの能力である電気を纏う能力。この能力は大型の自動車のような燃費の悪い能力である。
能力を使用するほんの一瞬の貯めが必要であり、これは車に例えるとエンジンをかけるようなもの。そのため瞬時に電気のスピードが出せるのではなく、ほんの一瞬ではあるが時間が必要となる。
さらには能力には燃料切れが存在する。長く能力を使い続ければ、この能力は使えなくなる。
しかし、それと相性が悪いのが、能力は長い間使えば使うほど効果が増すというものである。
これがエンジンのようにイナズマの身体が温まるほど、能力はさらに強化される。
だが、燃料切れを恐れるあまり、イナズマは意図的に能力を途中で中断する。
そのため、反動と解除を交互に行い、躱す、攻撃、躱す、攻撃の動作の間に能力のオンオフを行なっているのだ。
そのオンオフを切り替える瞬間。イナズマの動きは一瞬止まる。その瞬間を阿修羅は気づいた。
高速で移動するイナズマに阿修羅はフェイントを入れる。動きが止まる0.0何秒の世界。その一瞬にイナズマを斬りつけた。
イナズマは斬られた。その瞬間死を覚悟した。しかし、イナズマの身体には傷一つない。
だが、刀は確実にイナズマの身体に通り抜けていた。
「どういう…………うっ!」
直後、イナズマの身体に衝撃が走る。
溢れる力。全身の血の流れを敏感に感じる。皮膚が敏感に風を感じる。舌が唾液に味覚を感じる。
遠くで泣く赤ん坊の声。宇宙の先まで見渡せる眼光。身体の調子がおかしい。全身を稲妻が覆う。
「……イナズマさん」
グラビティの心配する声。
ビルの窓で反射した自分の姿を見てイナズマは理解した。
「これがお前の能力か……」
「そうだともその者の全力を解放する。それが我の力だ」
イナズマの全身は電気に覆われている。
「時期に貴公も其奴らと同じくオーバーヒートするだろう」
確かにこれほどの力。普段は無意識で抑えている領域の力だろう。それは身体の防衛本能がそうしているラインだ。それを無理やり突破する。
この状態は長くは持つはずがない。一分。いや、それよりも短いかもしれない。
イナズマは一歩歩いてみる。すると、そのスピードも歩幅も普段とは比べ物にならない。気がつけば、イナズマはさっきまでいた所から、五個離れた交差点にいた。
イナズマの能力を阿修羅の能力が更なる段階へと引き上げた。しかし、これほどの力。イナズマにも使いこなすことは難しい。
余りあるパワー。
阿修羅の能力は他人の力を解放するという者。それは通常であれば、仲間の支援に使えそうな力である。しかし、阿修羅の能力はそれに向かなかった。
それは相手の力を引き出し過ぎてしまうという点。この力により、阿修羅に斬り付けられた者は力を得る分全ての体力を使い果たしてしまう。
阿修羅は力を与える者であるが、それと同時に破壊者となってしまった。
イナズマはそれでも諦めない。いや、諦めるわけにはいかなかった。そう、そこには倒れる人々、そして助けを求める仲間がいる。
イナズマはコントロールの効かない体を最大限に活用することにする。
強く踏み込むと、高く飛び上がる。そしてビルの壁にたどり着くと壁を蹴り飛ぶ。それを繰り返す。ビルに囲まれたこの地形を利用し、イナズマは縦横無尽に飛び回る。
その速度は追うことはできず、下にいる彼らには音を拾うことしかできない。
その様子を見た阿修羅は驚く。
「まさか、己の真の力を使いこなせるとは……」
実際にはイナズマはコントロールの出来ているわけではない。だが、イナズマは考えるよりも行動するタイプ。だからこそ、本能で力の使い方を理解したのだ。
この速度で阿修羅を攻撃することもできる。しかし、そんなことをして仕舞えば、阿修羅を殺してしまう。だから、阿修羅に直接当てるのではない。
狙うべき点は一つ。阿修羅の足元。これだけのパワーがあれば、足元を攻撃しただけでも、その爆風で大ダメージを与えられるはずだ。
だが、阿修羅もそう簡単には終わらせてくれないようだ。
阿修羅は上着を脱ぐと、腹を出して自分のお腹に刀を刺した。
「ならば、我も力を解放し、ねじ伏せるのみ」
阿修羅は自分の能力を自分自身に使用する。肉体は膨張し、ツノも二倍ほど伸びた。
「今の我なら貴様の攻撃さえ受け止めることができる。来るが良い!!」
その自信は嘘じゃないだろう。あの肉体ならやりかねない。
もしも、甘い攻撃で耐えられれば、こちらが負ける。ならば、やるしかない。
イナズマは阿修羅に蹴りの攻撃を仕掛ける。
阿修羅は刀を握り、向かってくるイナズマに剣を振るう。
阿修羅の刃がイナズマに当たりそうになった時、あだ名が突然重くなる。
「これは……」
「グラビティ!!」
刀が上手くなったことで、軌道がずれてイナズマは危機一髪の所で躱す。
イナズマの蹴りが阿修羅を吹っ飛ばした。
【後書き】
イナズマ主人公感あるけど、主人公は実はいない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます