アナザー
ピラフドリア
第1話 『ヒーロー』
ジリ……ジ……犯人は新宿方面に逃走中……至急応援に向かってくれ…………ジジ……ジリ
無人の大通りをトラックが猛スピードで駆けていく。既に警察により避難誘導を終えているため、被害は最小限で済んでいる。
トラックの向かう先に一人の男が現れる。男はバイクに跨り、黄色いスカーフを首に巻いている。
「これが最後の警告だ。自首しろ。そうすれば痛い思いをしなくて済むぞ」
男はトラックに乗る犯人グループに向けて叫ぶ。すると、助手席の窓から柄の悪い男が顔を出す。犯人グループの親玉だ。
「そうはいくかよ! ここまで来たんだ。テメーなんかひき殺してやる!!」
トラックは減速することなく男に襲いかかる。
答えを聞いた男は「そうか」と呟くと、上空にいる仲間に合図を送った。
上空にいるのは羽の生えた長身の男。羽の生えた男は両手剣を手にトラックに向けて急降下する。
「羅生門!!」
両手剣の一撃でトラックは真っ二つに切断される。
トラックは火花を散らしながら、道路の中央で爆発した。
爆発したトラックから犯人グループが出てくる。怪我をしている者もいて、闘争を諦めている者もいるようだ。
そんな中、犯人グループのリーダーはまだ諦めない。
「ヒーローごときに、俺様が負けるかよ!!」
リーダーは能力を使うと、筋肉が膨張し超人的な肉体になる。
「筋肉マン!!」
リーダーはそんな身体を使い反撃に出ようとする。
しかし、
「させないよ」
スカーフの男が高速で移動し、リーダーの頸を蹴り付けた。
リーダーはその一撃で地面に膝をつく。能力を発動していたため、気を失うことはなかったが視界は揺れている。
それでも諦めないリーダーは、無理をしてでも立ち上がろうとする。だが、身体が重くて立ち上がらない。
「重力(グラビティ)」
髪の色が半分黒で半分白の青年が現れる。
「遅かったな」
スカーフの男がその青年に馴れ馴れしく接する。彼もヒーローの仲間のようだ。
体を動かなくなり、仲間も抵抗する意思はない。
犯罪グループのリーダーは降参した。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
時代は平成から令和へと移り変わり、世間はオリンピックに向けて経済を進めている。そんな世間とは別にもう一つの世界が存在した。
それは鏡の中の世界。鏡といっても世界が真逆になっていたり、現実の人物のドッペルゲンガーがいるわけではない。
それは現実世界を支える並行世界と言うのが一番正しいのだろうか。
そんな世界に生きる者たちの物語である。
新宿駅から徒歩で十分。コンクリートで出来たマンションの一角にヒーローの事務所がある。
ヒーロー事務所中村。そこが彼らの仕事場である。
「お疲れ様〜」
一仕事終えた三人を青髪短髪の女性が出迎える。彼女は三人全員に缶コーヒーを手渡した。
彼女の名前は石崎 有紗(いしざき ありさ)。このヒーロー事務所の事務を行なっている。
彼女もヒーローの免許を持っており、現場での活動もできるが基本は事務仕事である。
「石崎さん、ありがとうございます」
黄色いスカーフを首に巻いた男。彼は瀬田 京陽(せた きょうよう)。ヒーロー名はイナズマ。
雷を身に纏い高速で移動ができる。
「……ありがとう……ございます」
左右で髪の色が分かれている黒白の青年。彼は井原 純平(いばら じゅんぺい)。ヒーロー名はグラビティ。
能力は一定範囲にいる人物や物の重力操作。重くしたり軽くしたり、救助や拘束など様々な場面で使える。
「ん、また社長はいないのか?」
背中に白い鳥のような羽を生やした男。彼は松田 光春(まつだ みつはる)。ヒーロー名はウィング。
能力は鳥のような羽で空を自由自在に飛ぶことができる。
「はい。…………あ、でも、さっき一度帰ってきたんですけどね。また出かけちゃいました」
彼らはこのヒーロー事務所の職員であり、この地域一帯を守っているヒーローだ。
ヒーロー協会本部。そこに一人の男が呼び出された。
男はある部屋にたどり着くと、扉を三回ノックする。すると中から「入れ」と一言言われた。
「失礼します」
男が入ると、中にはスーツを着た者たちがテーブルを囲んでいる。全員で十人だ。
「中村。よく来てくれた」
彼らはヒーロー活動を組織化したヒーロー協会のトップ。十星と呼ばれる人物たちである。
「君の活躍は聞いている。今も君の事務所の職員が強盗犯を捕まえたようだ。さすがは元トップヒーローの職員だ。優秀だな」
それは先程ニュースで見た。あいつらの優秀さは上司である私が一番理解しているつもりだ。
「当然のことだが、君はこの世界というものを理解しているよな」
「ここに生きる者なら、誰しもが知っている」
この世界は現実世界の人の感情が強く反映され創り出される世界。そして現実のようで現実ではない。
私たちは現実世界を支える一本の柱に過ぎない。しかし、この一本でも崩れれば、現実世界は崩壊してしまう。
そしてこの世界は欲望が強く映し出される。現実世界の欲望。それがこの世界に影響する。
人欲はこの世界で具現化し、この世界に『破壊者(クラッカー)』というヴィランを作り出す。彼らは欲望のままに世界を壊し、欲を体現しようとする。
それを抑えるのがヒーローの役割だ。ヒーローはヴィランを制圧し、人欲を抑える。それが現実世界にも影響し、人は人欲を制限することができる。
だが、人欲は悪というわけではない。プラスへと働くこともある。ヒーローの持つ能力。これは人欲が形となり、彼らに与えられた一つのパワーだ。
空を飛びたい、何かを作りたい、遊びたい、学びたい。それが彼らの力となり、そして敵となる。
「うむ。そうだな。当然知っているな。なら、これから起ころうとしている重大な事件。それについても理解できるな」
テーブルに一枚の写真が置かれる。そこにはフードを被った一人の男。
「超重要人物だ。この男を捕獲して欲しい」
ヒーロー事務所では一仕事終えたヒーローが休憩をしていた。テレビでは彼らの活躍がニュースで放映されている。
「オレたちじゃん!!」
イナズマは嬉しそうにテレビを見つめる。
「やっぱオレってカッコよくない? カッコいいよな! なぁ!!」
イナズマは返答を欲しそうに後ろの仲間に聞く。いつものことなのか、みんな呆れた様子だ。
なんだかいじめてやりたいと思った石崎はちょっと怖い口調で言う。
「でも、実際にはウィングの方が女性人気は高いよね」
それを聞いたイナズマは固まる。かなりショックだったようだ。
その様子を見て可哀想だと思ったのか、グラビティが小さな声で元気付けようとする。
「いや、……イナズマさんも…………子供に人気……あるじゃないですか。女性ファンもいますよ」
それを聞いた石崎は紅茶を飲みながらポツリと言う。
「あ〜、でもグラビティ君の方が女性人気は高いよ。可愛いとか、守ってあげたいとか」
「ヒーローが守られてどうするんだよ」
ウィングが的確なツッコミを入れる。
そんな中、イナズマは地面に倒れ込み、涙を流す。
「ううぅ〜、なんで後輩の方が人気なんだよ〜」
落ち込むイナズマにウィングは正直に言う。
「それはお前が暑苦しいからだろ」
彼には悪気はない。天然だから。
「それが無くなったらオレじゃねーんだよー!!」
泣き崩れるイナズマ。それをみんなで笑いながら見守っていると、事務所の電話が鳴る。
石崎が電話を取り、その口調や表情から察した彼らは空気が一変する。
電話を終えた石崎は電話を置くと、
「準備をして、事件よ!」
本日二度目の出動である。
【後書き】
新作はヒーローものだ!
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