第29話 アレクの出生!

「おぎゃあ!おぎゃあ!」


「無事産まれましたよ。元気な男の子です」


母親は産まれたばかりの赤ん坊を抱き上げる。


よく赤ん坊は猿のようだと表現されがちだが、そんな印象はない。まんまるとした顔立ちにくりくりの目、小さいけど元気な口、ほっぺはふっくら柔らかい。髪はまだ薄く、広いおでこが印象的だ。


「よく頑張って産まれて来ましたね」


母親は優しく声をかけるが、赤ん坊は泣いたままだ。本当に元気に泣いている。


「奥様、赤ちゃんに異常がないか調べますので、一度お預かりします。」


まだ泣いている赤ん坊を母親から預かり、侍女が連れていく。彼女は魔方陣の上に赤ん坊を乗せ、魔力を流した。魔方陣が読み取った赤ん坊のステータスが羊皮紙に記録されていく。


身長……体重……頭囲……


外見的な部分のステータスが終わり、内面の読み取りが始まった。


魔法力……魔力量……


バチッ!


「!!?」


突然、魔方陣から電気のようなものが迸り、測定が中断する。


バチバチッ。バチン――


「きゃっ!」


魔法陣を介して発生した電気は勢いを増し、近くにいた侍女を襲った。彼女の悲鳴を聞いた兵士が集まってくる。


「何事だ!?」


さらに、衛兵をを伴って陛下が顔を出す。自分の大事な赤子に何かあっては大変だ。陛下が顔を出すのも当然と言える。


そこで見た物とは、侍女を含め、集まった兵士数名が意識を失って倒れている光景だった。赤子は魔法陣の中心ですやすやと寝息を立てている。赤子を抱き上げ、近くにあった布を着せる。事情は分からないが、体温調節のできない赤子をそのままにはしておけなかった。


母親の元に連れて帰り、横に赤子用の寝具を用意して寝かせた。赤子の名はアレックスと名付けられ、レグリット王国の第二王子となる。その後、侍女や兵士から事情を聞き、魔法陣を介してアレックスが魔法を使ったと分かった。それからしばらく、アレックスが魔法を使う事はなく、王宮も平和に思われたが、それから半年後に事件が起こる。



今日でアレックスも6ヶ月になり、離乳食が始まり、乳母だった女性はアレックスから離れることになった。それで癇癪を起したアレックスが魔法を使ったのだ。


「びえぇぇ~~ん!」


バチバチバチッ!


前回の魔法陣を介した魔法よりは威力が抑えられていたが、癇癪を起すたびに魔法を使われては身が持たない。新しい世話役は着任後早々にやめてしまう。それも次々と……。中にはひどい電撃傷で危うく命を落としかけた者までいた。いつしか第二王子アレックスは災厄の王子と呼ばれるまでになる。それを見かねた陛下は古い友人を訪ね、アレックスに封印魔法を施す事になった。


「これで最低でも5年は持つじゃろう。しかし、永久に封印し続けるにも無理がある。どこかで魔法の制御を身に着ける必要があるまい」


「1歳……、いや2歳の誕生日を迎えたら、アレックスをそちらに引き渡そう。そっちで魔法制御の訓練をお願いしたい」


「ふむ……。ならばそれで良い。この事は内密に頼むぞ?」


「ああ。時が来ればまた連絡する」


2人の会話は誰も聞いていない――


はずだった。1人の影を除いては……。


第二王子は危険な存在だ。特に、跡取り争いになれば第一王子にも危害が加わる可能性もある。

やはり、危険な芽は摘んでおく必要がある。王宮を離れる時、それが彼の最期となるだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る