第41話

「ちょっと、本当にこんな家に行くの?」



「仕方ないでしょ。行かなきゃ始まらないんだから」



梓と玲子が玄関先で立ち往生している間に、厚彦が勝手に玄関のチャイムを鳴らしていた。



家の中から「はーい」と声が聞こえてくる。



梓と玲子は知らず、背筋をピンッと伸ばして立っていた。



「はい、どなた?」



出てきたのは白髪の女性だった。



ミヨさんの母親かもしれない。



もう70代にさしかかっていてもおかしくないと思うが、そのたち振る舞いは若若しい。



「あ、あの! あたしたち北中高校の新聞部です!」



玲子の声が見事に裏返る。



が、それを笑う余裕も梓にはなかった。



「あら、新聞部の方がなにか用事?」



女性は優雅に首をかしげる。



心なしか、いい香りまで漂ってくる。



玲子が梓の背中をつついた。



「え、えっと。実はあたしたち25年前の事故について調べていまして……」



言い訳をしても情報は得られないので、ここは直に説明することにした。



「あら、そうなの」



一瞬女性の顔が暗くなった。



「当時のこと、ご存じですか?」



玲子の言葉に女性は頷いた。



「えぇ。私の娘も北中高校の生徒でしたから。そうだ、私より、娘に話を聞いた方がいいんじゃないかしら?」



(ナイス!)



女性の考えに梓は心の中でガッツポーズを取る。



まさに、ミヨさんに話を聞きたかったのだから。



「娘さんはいらっしゃいますか?」



聞くと、女性は残念そうに左右に首を振った。



「残念だけど、もうこの家にはいないの。結婚して、出て行ったのよ」



その答えは十分予想できたものだった。



なにせバス事故は25年前のことなんだから。



ミヨさんは今40代を過ぎているはずだ。



「そうなんですか……」



梓は落胆を隠せずに呟く。



「ちょっと待ってね、娘に連絡してみるから」



女性はそう言うと、そそくさと家の中に戻っていってしまった。



待つこと15分、女性は一枚のメモ用紙を手にして戻ってきた。



「ごめんなさいね。娘は今出かけているみたいで、家に電話しても出なかったの」



代わりにと、女性はミヨさんが今暮らしている住所をメモしてきてくれたのだ。



「い、いいんですか?」



玲子が思わず尋ねる。



突然家に押し掛けてきた女子生徒に、こんなことを教えてしまっていいのだろうかと不安になったのだ。



「あら、私こう見えても見る目はあるのよ? あなたたちは個人情報を悪用するような子じゃない。そう思ったのだけど?」



そう言われると悪いことなんてできなくなってしまう。



元々そのつもりはなかったにせよ、また背筋が伸びる思いだった。



「それに、いざとなればいつでも学校に確認をとれるわ」



「そ、そうですよね」



梓は苦笑いを浮かべる。



自分たちを信用したというよりも、すぐに連絡が取れるから安心しているのかもしれない。



とにかく、また一歩ミヨさんに近づくことができたのだ。



これでユキオさんの成仏への手助けができればいいけれど……。



梓と玲子、それに厚彦の3人は書かれている住所へと急いだのだった。

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