第89話 赤フードの下

 人助けをするならば、堂々と顔を出して行えばいい。


 そう言われてしまえば、確かにそうではあるのだけど。


「その格好のせいで、本来、お前自身に与えられるはずだった名誉は、赤フードという呼び名にのみ与えられることとなった。顔を出せば、もっと自分という人間が尊敬の対象となるとは考えないのか?」


「……そんなことは望んでいない。自分が尊敬されたいのなら、もっと他にやり方もあると思う」


 貴族の令嬢が最強のスキルを持って、日々、冒険者として戦っているという事実自体、もちろん隠しておきたいものだ。


 だがそれと同時に、「エルバルク家のご令嬢が助けてくださった」などというつまらない言葉は欲してはいなかった。


 自分が貴族だろうが平民だろうが関係ない。


 無限スキル枠という強力なものを手に入れた私は、身分など関係なく、ただ人々を助ける概念であれば良かった。


 ……だから、赤フードなどという、ある意味でとても印象に残る格好をすることにしたのだ。


「そうか。自分の名誉のためではなく、その行動は全て国民のためか。まるでエルバルクの人間のような考え方だな」


 お父様の言葉に思わず振り返ってしまった。


「ところでその幻惑効果つきの赤フードだが、全く同じ物を娘の部屋でちらりと目にしたことがあってね」


 まずい。


「あと、正体を隠しているのなら、部屋には入ってくる時に『お父様』などと叫ぶのは悪手だったな。そう思わないか? キリナ」


 完全に、正体がバレていた。

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