　ベルドロール家の屋敷は城下町の中心部からは離れた位置に存在した。

　魔獣バルゴを筆頭としたベルドロールの軍勢は魔法の力を借りつつ、驚異的な速度で進軍したようだ。

　私が城下町の中心部に到着した頃には、辺りは大混乱に包まれていた。

　城下町の住民たちは急な襲撃に避難が間に合っておらず、あちらこちらで震えている。

　町中では、魔法鎧を着た私兵たちが王国騎士団と剣を交えていた。

　中には冒険者たちの姿もあり、戦場となったその場所には見慣れた人物の姿が。

「冒険者の皆さん！　王城方面に敵が集中する動きを見せています！　手が空いている方は王城へ向かってください！」

　そうやって、冒険者たちをまとめ上げているのは受付のお姉さんである。

　そんな彼女の後ろから、魔法鎧の兵士が斬りかかろうとするが、

「……ほんとに、つまらないことで平和を壊さないでくださいよ」

　お姉さんの姿が消えた、かと思えば、魔法鎧兵の頭上ーースキルの力で空中に瞬間移動したお姉さんの蹴りが兵士の頭部に直撃する。

「受付のお姉さんと言えど、暴力沙汰も多いギルドに勤めるためには、それなりに力がいるんですよ」

　魔法鎧兵を見下ろして、お姉さんは冷たい声で言う。

　だが、そんな彼女の背後からさらなる魔法鎧兵が接近していた。

　お姉さんは気づいていない。

　私は『移動高速化』を発動すると、お姉さんと魔法鎧兵の間に割って入る。

「赤フードさん！？」

　お姉さんが驚いたように叫ぶ。

『物品鑑定Ⅹ』を使い、目の前の魔法鎧に付与された効果の構成を調べる。

　物に効果を付与するという意味では、私の赤フードと似ている。

　ぼんやりとしかつかめないが、どうやら身体強化系のパッシブスキルに相当するものが多数付与されているようだ。

　はっきりしないのは、スキル由来の効果ではなく、魔法由来だからだろう。

　効力の大きさはわからないが、騎士団や冒険者が圧倒されてはいないことから、そこまで強力なものではないと思う。

　私は『脚部強化』を発動。硬化した足で魔法鎧兵を一撃で吹き飛ばした。

　相手がベルドロール家の人間だとわかっていると、剣で斬ることに抵抗がある。

　魔獣となったバルゴは討伐しなければならないだろうが……兵を率いているバルゴを倒すことで、この争乱を早く鎮静化させる必要がある。

「今、敵は王城の方にいるんだよね？」

「は、はい！　赤フードさんも向かってくれるんですか？」

「もちろん。この件は、私が収めないとね」

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