第58話 事件解決?

 騒ぎになる前にグラズ魔法工場を出た私は、魔法市場にやってきていた。


 おそらく、この市場でもさっきのような取引が行われていたのだろう。


 それを見咎めたリンの家の冒険者たちは、透明化鉱石に触れたか、加工された石粒を投げつけられたかして、消えてしまったのだと思われる。


 前者ならともかく、後者であれば、もう存在ごと消えてしまっていてもおかしくない。


 兵器に調整された石粒は一時間で人間の存在を完全に消してしまうと、グラズ家の人間は言っていた。


 だが、原料の鉱石の方ならば、私と同じくらいは消えるまでに猶予があるはずだ。


 だから、私は人で賑わう魔法市場の真ん中で大声を出した。『声量倍化』も発動済みだ。


「アルトバルト家に雇われた冒険者たち! もし聞こえているのなら、今すぐに私の手にある石に触れなさい!!」


 強めの口調で言う。


 もしまだ生きているとしても、残された時間はわずかだろう。


 冒険者たちが最後まで諦めずに元に戻る方法を探しているとすれば、魔法工場か、ここにいるはず。


 魔法工場の奥はカギがかかっていたので、もし扉まで近づけたとしても、諦めて帰ってくるしかなかっただろう。


 それならば、ここにいる可能性が一番高かった。


 周囲の買い物客たちが不思議そうにこちらを見てくる。


 だが、私は気にせず、目を閉じて祈る。


 お願い。みんな生きていてーー。


 そして、目を開けた時。


「助かったよ。赤フードの冒険者……!」


 複数人の冒険者姿の人間たちが目の前に現れていた。


「あなたたちがアルトバルト家に雇われていた冒険者たち?」


「ああ。全員、なんとか無事だが……ずっと眠らずに、元に戻る方法を探し続けていたせいで、体力がそろそろ限界だ……」


 みんな、見事に顔がやつれている。


 しかし何はともあれ、全員が生きている。リンも喜ぶだろう。


「ーー王国騎士団の緊急調査だ! グラズ家の商人たちはそのまま動かずに、私たちの指示に従え!」


 ちょうど、騎士団も到着したようだ。


 これで魔法工場の裏側も暴かれ、透明化石粒も没収されるだろう。グラズ家にも調査が入るだろうし、事件はこれで解決だ。


 だが、私は気になっていることがある。


 それは、透明化石粒を買おうとしていた黒装束の正体だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る