第53話 透明令嬢の証明
私はかなり緊張していた。
なぜならリンと受付のお姉さん、二人の前で赤フードを脱いだからだ。
透明になっているとわかってはいても、かなりの緊張感がある。
突然、透明化が解除されたりしないでよ……! と、本末転倒なことを思いつつ、私は机に近づいた。
そして、手に持っていた赤フードを机の上に置く。
私が身に付けている物は一緒に透明化することがすでにわかっている。
だが、それは物を身につけている間だけだと、私は推測していた。
直接透明化の効果が発生しているのは、あくまで私単体だからだ。
赤フードから手を離せば、おそらくーー。
「え!?」
「な、なんですか、これ?」
私の予想の通りだ。
受付のお姉さんとリンには、いきなり赤フードが机の上に現れたように見えたらしく、とても驚いた様子だった。
特にお姉さんの反応はリンよりも大きい。
リンは直接、赤フードの冒険者としての私と会ったことはない。
だが、お姉さんにとっては見慣れたものだ。
「なぜ、赤フードさんのものが……?」
次に、私は赤フードを再び手に取ってみせた。
すると。
「き、消えた!?」
またも驚く二人。
手品でも見ているような反応だが、実際に彼女たちの目にはあり得ない現象として映っているだろう。
それから、私は二人をなるべく怖がらせないように、ゆっくりと肩を叩いた。
「!?」
「!?」
私は今、声を出せない状態だ。
これでどうにか、私がここにいるということに気づいてもらうしかない。
透明化鉱石に付与された、グラズ家の口封じの魔法はかなり手が込んでいる。
おそらく文字を書くなどの直接的な意志疎通の手段も魔法で封じられているはずだ。
「な、なんだったんでしょう、今の……」
リンは戸惑った様子だ。
「今の赤フード……持っている人に心当たりが……でも今、赤フードさんは街道沿いのモンスター討伐に行っているはず……だけど、誰かに肩を叩かれた……?」
受付のお姉さんは真剣な表情で状況を把握しようとしている。
ギルドの職員として色々な依頼を見てきたため、奇妙な現象にも慣れているのかもしれない。
「赤フードさん……そこにいたりしないですよね?」
そして、お姉さんは正解に辿り着いた。
私はダメ押しで懐から取り出したものを机に置く。
それは今日の依頼に出る前、冒険者ギルドから受け取った後払いの報酬ーーつまり、お姉さんの大好きな金貨がたっぷり入った袋だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます