第29話 紋章と証拠

「ギャァァァァ!!」


 威嚇するように、化け物鳥は叫ぶ。


 全身が黒い毛で覆われた巨大な鳥類モンスター。


 こんなものに襲われたら、誰だって必死でその場から逃げ出すだろう。


 しかし、私は確かめなければならない。


 本当にこの化け物鳥が#自分の意思で__・__#ヤーク家の荷馬車を襲っていたのかを。


 私には遥か上空からヤーク家の荷馬車だけを狙うことができるのか疑問だった。


 何か特別なものでも運んでいれば別かもしれないが、食料にしたって、輝く金品にしたって、どの商人だって運んでいる。


 だとすれば……。


「確かめさせてもらうわよ!」


 私は『跳躍力向上』を発動し、地面を蹴った。


 空中に飛び上がった私は、身体を宙で百八十度回転させ、化け物鳥の首元を掴む形で背中に飛び乗る。


「ギャァァァァ!!」


 化け物鳥は私を振り落とそうと暴れるが、『姿勢安定Ⅹ』のおかけで、全く問題はない。


 私は化け物鳥の首元から背中にかけて、黒い毛をかき分けて目的の物を探す。


 私の勘が正しければ、この辺にーー。


 そして、発見した。


 淡く光る円形の紋章。円の内側は複雑な紋様が描かれているが、それが何かは一目でわかった。


「やっぱり『服従』がかけられてる……!」


 スキル『服従』は人間やモンスターを自分の支配下に置くレアスキルの一種だ。


 レベルによって、支配強制度と同時に使用できる人数は変わってくるものの、レベルが低くても強力なことには変わりない。


 ほとんどの人間は適正を得ることはないが、それでも少数の人間が取得し、悪事を働く例がないわけでもない。


 王国内で力を持っていた大きな団体の独裁的リーダーが、『服従Ⅴ』持ちだったなんて話も聞いたことがあった。


 そして、化け物鳥に浮かび上がっている紋章は紛れもなく、その『服従』をかけられている証拠だ。


 となると、化け物鳥は自分の意思ではなく、誰かの思惑でヤーク家の荷馬車を襲っていたことになる。


「それじゃあ、犯人を見つけましょうか」


 私はあるスキルの発動準備に入った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る