第12話 ご令嬢たちのお茶会

 ご令嬢たちが集まるお茶会が、ただ楽しいものだと思ってはいけない。


 赤フードを外し、令嬢モードとなった私、キリナ・エルバルクはおだやかな午後、他の三人のご令嬢と共に私の家の庭でテーブルを囲んでいた。


 三人の名前は、リン・アルトバルト、アルメダ・ヤーク、エルス・カンガード。


 リンは小さい頃からの友達であり、とても仲が良い。王国では珍しい、さらさらな長い黒髪の持ち主で顔立ちも可愛く、私はとっても好きだ。


 ……反対に、アルメダとエルスは親同士の利益の関係上、表面的に仲良くしなければならないご令嬢たちだった。


 アルメダの実家、ヤーク家は国外との交易を行う巨大貿易商をいとなんでおり、エルスの実家、カンガード家は権威ある民間スキル研究所を運営している。


 私としては、本当は全員で心から仲良くしたいところなのだが、こっそりとスキル『敵意把握』を発動してみると……。


 アルメダは赤く、エルスは薄紅色に染まった。唯一、リンだけは色がつかず、ほっとする。


 ということで、こうやって日常生活でもスキルは有効に活用できる。


 知ることができた情報は、一緒にお茶会をしている相手が自分に敵意を持っているという悲しい事実だけだが。


「キリナさんのお家はいつ訪ねても、とても大きくて、お綺麗で羨ましいわね」


 アルメダの本心がわかってしまうと、どうにも皮肉にしか聞こえない。


 このお茶会は定期的に開催される。


 開催場所は毎回、四人の家の庭を順番に提供することになっていて、今日はたまたま私の家の番だった。


 アルメダは紅茶を優雅に口にすると、上品な仕草で香りを楽しんでいる。


 彼女も容姿は美人と呼んで全く異義のない部類の少女だ。


 ただ、少々嫉妬深い。敵意度が高いのもどちらかというと、私に対してというより、エルバルク家に対してのようだ。


 私の家、エルバルク家は英雄を祖先に持つらしい。そのためかはわからないが、王城との繋がりが貴族の中でも特に強く、国政についての助言などを行うのが主な役割だ。


 そのことがどうも、アルメダは気に入らないらしい。


 もちろん、そこは様々な人間を相手にするご令嬢、表にはそんな素振りを全く見せないのだが、以前、興味本意で『敵意把握』を使ってしまったのが良くなかった。


 スキルの使用も、時と場合を考えた方が良い。

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