第2話 思わぬ依頼
私の家、エルバルク家の邸宅があるのは、アガル王国の城下町、その中の一等地だった。
深夜に抜け出した私は、その足で城下町の中心にある冒険者ギルドへと向かう。
夜中とはいえ、道中には往来があったが、赤い全身ローブを着て、フードを深く被った私の正体に気づく人はいない。
冒険者ギルドまで、誰にも見咎められることはなかった。
非常に迷惑な話なのだが、私の家は王国内である程度有名な家柄だ。
もちろん、私の顔を知っている人も多く、ローブなしで歩いていたら、連れ戻されてしまうだろう。
だが、勘違いしてはいけない。
有名なのは、あくまで「家」だ。
家が有名だから、私のことも知られているだけであり、自分は別に特別な人間じゃない。
ただ家を継いだだけの貴族の中には、それを自覚せず、自分が偉い人間だと驕る人も多くいる。
けれど、私はそんな風には考えられない。
貴族の窮屈な暮らし。
そんなものに嫌気が差していたから、私は冒険者になろうと思ったのだ。
「着いた。今日は何か面白い依頼あるかしら」
冒険者ギルドの、古い木でできた両開きの入口扉を開くと、その先には待ち合い場所と横長のカウンターが目に入った。
「あ! 赤フードさん、いらっしゃいませ!」
正面にあるカウンター越しに、受付の顔馴染みの女性が声をかけてきた。
時間が時間だ。待ち合い場所には誰もいない。夜の緊急依頼に対応するため、受付に彼女一人がいた。
「……何か困っている仕事はある?」
私は声の高さを意図的に落としてそう聞いた。
正体がバレることを避けるために、なるべく地声で話すことは避けている。また、口数も最低限だ。
「うーん、赤フードさんはうちのギルドの中でも、トップクラスの実力の持ち主ですから、何でも依頼を紹介できるんですが、どれかいいかしら……」
少し考えるように唸った受付女性は、数秒してから、手をパン! と叩いた。
「そうだ、思い出しました! 結構難しい依頼が今朝持ち込まれたんです。受けられる技量の方が見つからなかったので、明日にはお断りの連絡をする予定だったんですが」
「どんな依頼?」
「城下町周辺の洞窟に現れた、突然変異のモンスター討伐です。なんでも、その辺りに生息するモンスターのレベル平均を数倍以上超える個体だとか」
モンスターの戦闘技量はレベルという形で可視化される。初歩的な魔法を使うことで、誰でも確認が可能だ。
しかし、その場所に住むモンスターのレベル平均を数倍も超えるモンスターの存在は危険だ。
そのことを知らない冒険者や商人が襲われたら被害が出てしまう。
「じゃあ、その依頼を受ける」
「あ、この依頼には、実は続きがありまして……その内容を了承してもらえれば、ぜひご紹介させていただきたいと思います」
「続き? どんなものなの?」
受付女性は答える。
「実はこの依頼、王国騎士団からの緊急支援要請でして。実際の依頼遂行は凄腕の王国騎士団長、アルレアさまと共同でおこなっていただきます」
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