第81話 勇者と魔王と険悪
それから、しばらく歩くが中々町や村は見えてこなかった。
スキル「千里眼」を使っても、たしかにまだ少し到達するまで時間がかかりそうな距離であった。
しかし、未だにマオは機嫌悪いようで、俺とは一切話そうとしなかった。
「……ソーマ様」
と、その日も野宿という展開となり、準備をしていると、セリシアが俺に話しかけてきた。
「なんですか、セリシア」
「なんですか、ではなくてですね……マオ様のことです。良いのですか? あのままで」
「あのまま……とは?」
俺がそう言うとセリシアは呆れ顔で俺のことを見る。
「まだ当分の間は一緒に行動をするのですよ? こんな険悪な状態のままで良いのですか?」
「……いや、俺はこの前、アナタに言われたとおりに、マオと話しましたよ? だけど、マオはそれで益々機嫌が悪くなった。そうなってしまっては、俺にはもうどうすることもできないでしょう」
「それは……そうかもしれませんが……」
「それとも、アナタはマオに何かしてやれるんですか?」
そう言うとセリシアは悲しそうな顔で俺を見る。その表情はこれまで見たことのない程にこの上なく悲しそうだった。
……いや、こんな表情をしていても、コイツはサキュバスだ。別に俺が罪悪感を覚える必要なんて――
「痛っ……」
と、その時、俺の足に痛みが走る。
「セリシアのこと、イジメないで」
見ると、ドラコが俺の足を蹴ってきていた。
「……イジメてないですよ。別に」
俺はセリシアのことを一瞥してから、わざとらしくため息をつく。
「……わかりました。もう一度、マオと話してきます」
俺がそう言うとセリシアは安心したように微笑む。
「ソーマ様……やはり、アナタは優しい人なのですね……」
「……サキュバスにそんな言葉をもらっても、油断させるための罠にしか思えませんけどね」
俺の嫌味にセリシアは頬をふくらませる。それ以上、俺は構わずにマオの方に向かっていったのだった。
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