第70話 勇者と魔王と窮地

 それから、しばらく歩くと、度々狼型の魔物が飛び出してきた。


 その度に俺が切り捨て、マオは怯える。というか……コイツが魔王ってのは、この狼共には理解できないのだろうか? それとも、あまりにも魔王らしくないから魔王と認識してもらえていないのだろうか。


 そして、段々と襲撃の頻度が多くなってきたかと思うと……いつのまにか複数の狼に囲まれてしまっていた。


「お、おい……! どうするのじゃ……!?」


 マオが怯えた様子で俺に聞いてくる。


「……アナタ、魔王ですよね? なんとかできないのですか?」


「そ、そうじゃった! お、おい! お主ら! 儂は魔王じゃぞ!」


 そうマオが言うとガウガウとまるで威嚇するように狼が吠える。マオは慌てて俺の背後に隠れた。


「だ、駄目みたいじゃ……」


 ……まぁ、期待はしていなかったが。俺一人なら複数であろうと雑魚の狼型の魔物を倒すのは難しくない。


 だが、マオを守りながらとなると……少し難しいかも知れない。


 いや、気にすることはない。どうせ王都に行けば俺はマオを引き渡すつもりなのだ。ここで多少怪我をしようが構うことは――


「ソ、ソーマ……なんとかしてくれぇ……」


 あまりにも情けない助けを乞う声を聞いていると……流石に放っておけなくなってしまう。


 どうにか、マオを守りながら戦う……そう決めて俺は剣を握った。その時だった。


「ヤメロ」


 どこからか声が聞こえてきた。俺とマオは思わずそちらに顔を向ける。


 と、同時に巨大な影がこちらに近づいてくる。


「……コレハコレハ……メズラシイヒトガクルモノダナ」


 そういって現れたのは……他の狼よりも三、四倍の大きさの巨大な黒い狼なのであった。

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