第五十六話 動き出す計画(3)


 今日は、久しぶりにギルドでのお仕事です。


 私と円香さんは資料をまとめています。

 主に、魔石の行方と日本ギルドに関しての情報です。世界的な動きもありましたが、ターゲットは日本ギルドです。そして・・・。


 ギルドの電話は鳴りっぱなしです。

 主殿に頼んで、遮音の結界で覆ってもらっています。自動応答が電話を捌いてくれています。電話はワイズマンが答えることがあります。合成音声ですが、最初は英語で答えるように設定が行われています。登録されている電話番号からの着信なら、担当する者が座っている机に転送されます。

 千明の知り合いで、ITに詳しい人が業者に依頼して作り上げたシステムです。

 残念なことに、ITに詳しい人はギルドには加わってくれませんでした。協力はしてくれるという約束を取り付けました。

 ワイズマンにシステムの提案書を確認してもらいました。各国からも問題はないと言われたので、構築に乗り出したのです。もっと、複雑にするのかと思ったのですが、私たちでもメンテナンスが出来るように簡単な仕組みでセキュリティが高い方法で組み上げてくれました。

 電話との連動もシステムの一環です。CMSというらしいです。よくわかりませんが、余計な電話に出なくて済むのは、心の余裕にも繋がります。気分的にも、楽です。自分の机の上に置かれた電話を、外出モードにしておけば、スマホに転送されてきます。留守や帰宅に設定しておけば、転送されずに、自動応答が要件を聞いておいてくれます。


 電話が鳴りっぱなしの理由は、日本ギルドに騙された人たちが、コンタクトを求めてきているだけなので、無視を決め込んでいます。

 そもそも、正規のギルドがあるのに、国際機構が認めていない日本ギルドから購入しているのですから、問題が発生したり、金額が高くても、自己責任でしょう。それに、買った物は別に偽物ではないのです。ただ、現在では購入金額の1/10程度の価値になってしまっているだけです。


 魔石を作ることができる。この情報が、世界中のギルドから発表されました。


 その後、既存の魔道具に使うと最初は出力が上がるが、使い続けると魔道具が壊れてしまう事象が発覚した。その時には、既に作られた魔石とドロップした魔石の違いが解らない状況になってしまっていた。

 困ったのは、武器商人です。

 魔石をエネルギーにした、発砲装置を作ってリリースしたばかりです。何割かは壊れて使い物にならなくなってしまったのです。

 ギルドは、魔石は平和利用に関してだけ売買を許可している組織です。武器商人がギルドに責任を押し付けようとしても無駄です。


 日本ギルドは、半ば解散状態にまで追い込まれています。

 孔明さんの横流し品を高値で、魔物が産出しない国に高値で売りさばいたのが問題になっています。買った国が、武器への転用を行っているのが、世界的なニュースになってしまったからです。

 国からの助成金も入っていたことや、理事に政治家が名を連ねていたことも問題になっています。その関係で、ギルド日本支部への取材申込みが来ていますが、日常業務が忙しいという理由で取材を断っています。


 取材は拒否していますが、円香さんと孔明さんがマスコミに出向いて話を受けることで、ガス抜きを行っています。

 また、世界的な組織である事が強調された事で、マスコミが無理矢理な取材を行おうとしなくなったのもいい傾向です。


「あっ!茜さん!」


「貴子ちゃん!真子ちゃん。おかえり。編入はできた?」


「はい。大丈夫でした。週明けから、通えます」


 貴子ちゃんが、肩に文鳥を乗せています。もちろん、貴子ちゃんの眷属です。そして、真子ちゃんと手を繋いでいます。多分、真子ちゃんが繋ぎたいと言ったのでしょう。嬉しそうな表情をしているので解ります。週明けと言っていますが、来月の頭からという意味でしょう。


 二人はギルドの職員になった証明書を持って、工業高校の定時制に編入する手続きをしてきたのです。

 本来なら、入学試験を受けなければならないのですが、ごにょごにょと、はふはふな感じで、んしょとやって、面接と簡単なテストを受けて合格すれば1年生に編入が出来ます。さすがに、面接と簡単な学力テストを受けることになったのですが、二人とも一般的な常識は大丈夫です。他の問題も、スキルの恩恵をフルに使って合格を勝ち取っています。


「早いですね」


「それで、茜さんにお願いがあります」


 真子ちゃんからのお願いは、孔明さんから聞いています。

 孔明さんの家には、マスコミを名乗る無頼漢が押し寄せているので、出来れば真子ちゃんを隠しておきたい孔明さんとしては、孔明さんの家から真子ちゃんを通わせるのは避けたいようです。


「孔明さんから聞いています。部屋は余っていますから、貴子ちゃんの別宅?屋敷?豪邸?が、できるまでは、私の部屋から通ってください」


「ありがとうございます!」


 孔明さんからもお願いされていますし、多分2-3ヶ月の間です。


 基礎工事が始まっています。

 内装も決めました。楽しかったです。病院の着工も始まりました。病院は、半年くらいはかかるようです。自家電源と2週間程度の水の確保が出来るように設計されています。もちろん、耐震構造です。最高レベルの耐震構造です。地下はシェルターの役割を持っています。

 もう屋敷というよりも、要塞と言った方がいいかもしれないレベルです。

 施工業者が苦笑していたのを忘れません。


「茜さん。定時制は、制服がないので・・・」


「え?」


「必要ないようです」


「・・・。そう。残念」


 なんてことでしょう。

 貴子ちゃんの制服姿は前に見ましたが、真子ちゃんも似合いそうだったのに・・・。残念です。せっかく、サイズを調べて購入したのに、学生服のヤマダで注文したのに・・・。残念です。でも、いいのです、購入して着てもらいます。コスプレになってしまいますが、似合っているので問題はありません。私の為に、制服を着てもらいましょう。


「茜!?」


「あっ。千明。おかえり。蒼さんは?」


「駅に、迎えに行っている」


「え?清水さん?」


「教授は、孔明さんが相手にしている。そろそろ戻ってくると思う」


「また現場?」


「そう。よほど、病院が嬉しいみたい。今日は、動物病院の確認みたいだよ」


「困った人ですね。健康診断の病院だけの予定が、透析の病床も作って、技師と雇うのだよね?」


「うん。30床らしいけど・・・。小規模で始めるとか言っていたわよ」


「好きにして・・・。動物病院の方が大事だとは言ってあるよね?」


「うん。大丈夫。教授も、動物病院と人工透析と内科と健康診断ならカモフラージュに丁度いいと・・・。らしいわよ」


「ふーん。大きな赤字は困るけど、貴子ちゃんが怒りださない程度の赤字なら大丈夫じゃない?」


「私が怒る?」


「あっ。教授の話。あのマッドサイエンティストが、実験のカモフラージュにいろいろ設置したみたいだから、赤字にならなければいいと思っただけよ」


「そうなのですね。この前、清水さんと打ち合わせした時には、投資金の回収は難しいけど、通年での黒字には3年で持ってくと言っていましたよ?」


「あのマッドサイエンティスト・・・。投資の方が膨大なのに・・・」


「別に気にしませんよ。ポーションの実験に協力してくれる人を見つけるためにも、病院は必要です。それに、私の家族を見てもらうのに、動物病院まで作ってくれるのはありがたいですよ」


 貴子ちゃんがこの調子だから、あのマッドサイエンティストが調子に乗るのです。

 そして、もう一人・・・。


「あれ?孔明と憲剛は?」


 蒼さんに連れられて来た人が、先日からギルドに加わった人です。

 主に、備品の整備や魔道具の開発を行う担当です。


 困ったことに、この人も最初は普通の車の整備工だと思っていたのですが違っていました。

 悪い意味で、マッドサイエンティストと同類です。そして、いい意味で孔明さんの知り合いです。最悪なことに、ギルドで唯一の妻帯者で生意気盛りな男と奥さん似ですごく可愛くて素敵なレディーの兄妹の父親です。そして、円香さんと同じくらいの酒飲みなのです。


 あと、孔明さんが清水教授を連れてきてくれれば、全員揃っての会議が始められます。


 先が思いやられます。

 でも、凄く楽しみです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る