第四十五話 治療の裏で(4)


 本当に不思議な少女だ。

 少女と呼んでいいのか解らないが、茜の隣に座って、手を握って貰って喜んでいる姿は、少女と呼ぶのが適切だろう。


 それにしても、頭の痛い問題が重なった。


 孔明の澱みが強くなっているのは感じていた。

 孔明の裏切りには、情状酌量の余地がある。二人だけになってしまった兄妹だ。真子を助けたい気持ちが強いのは理解している。それでも、相談をして欲しかった。対策が無かったことも確かだが、それでも一言でも貰えれば、いい方向に利用することも考えられた。

 孔明からの聞き取りでは、ギルドの情報は流れているが、問題になるような情報ではない。


 そして、茜から伝えられる情報の暴力。


 現状の整理をしよう。

 貴子さんから得られた情報は、茜たちに任せてしまおう。ギルドに加入した時には、晴れたと思ったのだが・・・。

 孔明の件は、真子の治療の結果で変わってくるが・・・。今までの話から失敗は考えられない。そうなると、別の問題が発生する。貴子さんを交えて話す必要があるだろう。


 私と孔明で、クズの相手をする。

 日本国内に限れば、向こうの方が組織としては大きい。人員も、権力も、巨大だ。登録者数では、こちらの方が多い。貴子さんのおかげで、海外のギルドからの協力が得られやすくなる。バターで出す情報には困らない。

 茜たちだけでは検証が難しい情報は多い。殆どが、検証に時間が必要になる。時間だけならいいが、前提条件の検証を行う必要がある情報が多い。


 孔明の家に向かう途中で、尾行に気が付いた。孔明も何度か道を変えているが無駄なようだ。振り切っても暫くしたら尾行が現れる。車に発信機がつけられているのだろう。

 向かう場所は解っているのだが、貴子さんは奴らに知られないほうがいい。奴が関わって殺されるだけなら問題ではあるが、問題ではない。問題は、貴子さんの家族眷属が人類を”敵”として認定してしまう事態は避けなければならない。考えすぎの可能性もあるが、茜の眷属になったユグドから感じる攻撃性は、杞憂だと笑い飛ばすことが出来ない。眷属になったクシナとスサノも同じだ。気ままに過ごしているように見えて、茜を守る位置をしっかりとキープしていた。茜が、私たちを仲間だと思っていたから、眷属たちもおとなしかっただけだろう。


 孔明の家に着いた。

 数年前に来た事があるが、あの時よりも澱みが酷い。


 貴子さんから、”魔眼シリーズ”なるスキルを教えられたが、私の”破眼”には魔物の出現は見えない。見えないはずだ。心や環境の澱みが見える程度のスキルだ。そのおかげで、役立つこともあるのだが、それ以上ではない”はず”だ。


 貴子さんに、ギルドのアドバイザーになってもらえないか打診しなければならない。スキルの知識だけでも、報酬を払うだけの価値がある。スキルの実験や検証が行えるだけの環境にある。


 真子の治療が開始された。

 1時間くらい経ってから、貴子さんが部屋から出てきた。飲み物と食べられる物が欲しいと言われて、治療の説明を思い出した。考えておかなければならなかった。孔明と一緒に買い物に出かけた。茜が残っていれば、何か有っても対応ができるだろう。


 車から発信機と盗聴器を取り外して戻ってきた。孔明は、いきなり文句を言い出した。意味が解らないが、話を聞いていたら内容には理解ができる。理解はできるが、納得は出来ない。少し、本当に、少しだけいい肉を買ったのは悪かったと思うが、必要な事だ。


 全部を吐き出せばグチも終わる。終わり間際で、話を変えるのがコツだ。


「孔明。話がある」


「なんだ」


「オークションの開催時期を決めたい」


 オークションの開催は決定だ。

 ギルドに許された権限だ。


 サイトは、ギルド本部が用意している物が使える。出品と初値と条件の設定ができる。本部には、ギルド日本支部で貯め込んでいた物と言えば大丈夫だろう。問題になるような物品は、一つだけだろう。数の問題もあるが、それは何か言ってこられても、実際に物品があれば文句を言われない。


「そうだな。週明けに、奴らにアイテムを渡す連絡を入れた」


「ほぉ・・・。売りさばくのに、時間が必要か?」


「どうだろう?わからない。奴らなら、すぐにで買い手を見つけると思うぞ」


 どうせ、仲間内で回すのだろう。


「月末に行うか?」


「そうだな。円香、同時に、魔石を作る方法をギルドに登録したい」


 魔石が、奴らの収入源だと考えれば、妥当だな。

 魔物が産まれない国からみたら、魔石は資源と同じだと考えているのだろう。自国にない物を他国が持っている状況は、攻守両面に於いて遅れることを意味する。


「・・・。わかった。オークションに、魔石を大量に出品するのなら、魔石を作る方法の登録は必須だな」


「あぁ。貴子嬢には、事情の説明が必要になると思うのだが、俺が説明していいか?」


「任せる。魔石が大量に出回ったら、面白くなるだろうな」


「あぁ奴らに関連する企業は、買えないだろう?」


「しらん。ギルドとして制限するつもりはない。ただ、購入者は、解るようにするつもりだ。付帯条件で、研究結果の共有をつけておく」


「パブリックドメインか?」


「ダメか?」


「ダメではないが、購入者が減らないか?」


「別に困らないだろう?」


「ん?あぁそうだな」


「貴子さんへの説明は必要にはなるが・・・。その先にあるメリットを伝えれば承諾してくれるだろう」


 貴子さんの求めるメリットが提示できるかわからないが。ギルドに情報を渡してきたことを考えれば、公開してもいいだろう。

 対価が必要になるとは思うが、それこそギルドが用意すれば済む話だ。


「そうだな。円香。鑑定石はどうする?」


「ギルドに報告を上げる。入手方法は不明。検証用に、ギルド本部に送る。残りは、オークションの目玉だ」


 ”作成ができる”ことは伏せる。これは、絶対条件だ。

 そのうえで、オークションに出す。目玉商品が必要だろう。


 本部に検証用に2-3個送れば、文句を言われないだろう。ギルドには、回復方法の検証を兼ねて情報を渡す。回復方法が、他のスキルが付与された道具に使えるのか検証してもらう必要がある。


「いいのか?」


「ダメか?」


「面白いな。貴子嬢から教えられた、回復の方法は?」


「教える必要があるのか?」


 孔明が少しだけ考えてから答えに辿り着いたようだ。


「・・・。オークションには出す必要はないな」


 オークションには、”鑑定ができる魔石”として出品する。

 残り回数の説明を含めて、全てが不明として出品する。解っている事は、”魔物に由来する物の鑑定ができる”ことだけだ。


「だろう。そうだ、孔明。憲剛。清水教授との繋がりはあるのか?」


 もう一つ確認をしておかなければならない。

 ギルドに必要な部署と人員だ。


「実験室か?」


 ギルドに必要になる部署だ。

 日本支部で抱え込む必要はないが、研究結果を外に流さないようにするためにも、抱え込む必要がある。今の状態では、どこに情報が流れるかわからない。ポーションの検証も必要だ。スキル以外にも、検証が必要な情報が多い。


「そうだ。あそこは汚染されているとは思えないが、ダメか?」


「大丈夫だ」


 孔明の表情を見れば、研究所は大丈夫だと思える。


「そうか、それなら、貴子さんが作った結晶と、茜と蒼と千明が作った結晶を調べてもらって欲しい」


「ん?調べる?あぁ・・・。そうだな。大丈夫だと思うぞ」


「あぁもしかしたら、魔石と違う使い道が見つかるかもしれない。貴子さんが”磨いた”と言っている結晶も調べてもらって欲しい」


 撒き餌だ。

 奴らなら、結晶の異常性に気が付くだろう。気が付かなければ、抱え込む必要はない。気が付いたら、情報を小出しにするのが面倒だと言えば、考えるだろう。好奇心を満たすためなら、なんでもするような連中だ。


「わかった。アイツらも、あの場所では、燻っているだけだから、引っ張ってきたいな」


 年々研究費が減っているのだろう。


「そうだな。オークションの結果を見てからだな」


「わかった。声だけはかけておく」


「頼む」


 あとは、治療が無事に終わることを待つことにしよう。

 真子が治ったことで、奴らは確実に無茶な動きをするだろう。その時がチャンスだ。逃げたクズどもには、しっかりと自分たちが何を行ったのか認識して、後悔させる。


 やっと反撃の狼煙が上げられる。


 本当に・・・。

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