第九話 魔石と魔核


 主殿は、小さな声で、”ありがとう”と言ってくれた。


 その心遣いが嬉しい。そして、主殿が言っているように、スキルを持って、心が化け物に変わってしまった人は、沢山・・・。哀しい事ですが、事実です。ワイズマンに聞かなくても、ギルドの公式資料に書かれています。


 筋力アップのスキルを得た者が、恋人を殴り殺したなんて話は、それこそ両手両足の数でも足りない数があります。


 研究員の中には、スキルは人の精神を変質させると訴える者も居ますが、確固たる証拠が提示できない状況です。


「茜さん?」


「はへ?」


 なんか変な声になってしまいましたが、大丈夫です。大丈夫です。

 主殿が笑いそうになっているのをごまかしているように見えますが、大丈夫です。


「パルたちが作った蜂蜜ですが売れますか?」


「え?」


「ライがまとめていますが、食料とかは、食品衛生法みたいな奴があって面倒ですよね?」


「そうですね。魔物由来の物なら、ギルドが申請を肩代わりしますよ?」


「本当ですか!」


 そんなに嬉しいのでしょうか?


「はい」


「よかった。パルたちが増えちゃって、蜂蜜の処理に困っていたのですよね。捨てるのは・・・」


「蜂蜜は、先ほどのジュースに入っていた?」


「そうです。現物を持ってきましょうか?」


「お願いします」


 これは、凄い荷物になりそうです。

 孔明さんが帰ってきていたら、車が入って来られる場所まで迎えに来てもらわないと・・・。


「パロット!」


”くにゃ!”


 クロトとラキシと遊んでいたネコさんが鳴きました。

 ”パロット”というのが名前なのでしょう。


 あの遊びも見てはダメな事の一つです。

 某巨人を駆逐するのが目的のアニメで描かれていた立体機動を・・・。ネコが出来るのですね。クロトは、いつの間にか糸が使えるのですね。帰ったら、アトスにも教えてあげる?

 是非、教えてあげてください。千明も頭を抱えて苦しめばいい。


 クロトとラキシがいうには、私にもできるようです。一緒に練習をしようと誘われましたが、まだ人間を辞めるつもりはない。でも、楽しそうでは・・・。ダメです。ここで、頷いたら、なし崩し的にいろいろ教えられるに決まっています。


 主殿が、パロット---主殿から、主殿の家族は呼び捨てにして欲しいと言われた。そして、種族名とか意味が解らないことを教えられましたが、今は関係がないと思っています---に、何やら指示を出しています。不穏な言葉も聞こえてきましたが、気のせいです。絶対に、気のせいです。

 そして、主殿。そんな爆弾を渡さないでください。

 確かに、本当なら欲しいですよ。是非、欲しいですよ。絶対に、欲しいですよ。お借りするだけでも・・・。


「ナップ!グラッド!パロットの補助をお願い。あと、蔵にライが居るから連れてきて!」


 蔵?

 確かに、家の雰囲気から蔵が有っても不思議ではない。


「主殿。蔵とは?」


「腐らない素材とか、遊びで作った物とか・・・。あとは、魔物スライムになって使わなくなった物だけど、捨てるには・・・。と、いう物が置いてあるだけですよ?」


「そうなのですね。遊びで作ったとは?魔石を使った物ですか?」


「あ!それを聞きたかった事です!」


「え?」


 また、嫌な予感がします。


 主殿の質問は、意味が解らなかった。

 魔力を抜いた魔石?魔物からドロップする物と、魔物を倒す時に抜き取る物?


 違いがあるとは聞いたことがない。

 そもそも、違うの?


「ギルドでは、魔石は魔石です」


「あっそれだと・・・」


 主殿は黙って、考え始めてしまった。


 クロトとラキシが主殿の眷属と模擬戦のような事を始めています。


 うーん。

 模擬戦と言われた。それに、結界が張られているから大丈夫と言われても、ギルドで公開されている戦闘映像よりも派手だ。

 クロトとラキシから、私も加わるように言われたけど、無理。秒で死ぬ。大丈夫だと言われたけど・・・。攻撃ができるスキルがあれば違うかな?


「茜さん。これを見てください」


 どこから取り出したのか、解らないけど、5つの魔石だ。


「魔石ですよね?」


「こっちの3つは魔石です」


「え?主殿?」


 どうみても同じ物だ。大きさが違うだけで、魔石です。


「こっちの2つは、魔核です」


「魔核?」


「えぇ便宜的に付けた名前なのですが、魔物から抜き取った魔物の核です」


「・・・」


「そして、魔核には、スキルが付いています」


「え?」


「こっちの魔核には、スキルが付いています。こっちの魔核は、力が抜けてしまってスキルが発動しません」


「そうなのですか?」


「はい。魔核には、魔力の補充が出来ないので、使い道は限定されます」


 主殿が何を言っているのか・・・。まったく理解が出来ません。


「・・・。はい」


 ひとまず、頷いておきましょう。

 検証ができないのも事実ですし、ギルドで考える事で、ギルドの1職員が抱え込むような内容ではない。


「”鑑定石”で見てもらえば解りますよ?作りましょうか?」


 私が、生返事をしているのが解ったのでしょうか?

 ”鑑定石”を”作る”と言い出した。これは、聞かなかったことにします。


「いえ。大丈夫です」


「わかりました。それで、魔物がドロップする魔石ですが、属性が付いています」


「属性ですか?」


「はい。呼び方は、勝手に呼んでいるだけです。ギルドの呼び名があれば教えてください。それで・・・。色違いの魔物とか居ますよね?」


「変異種や上位種ですか?」


「そういうのですね。多分、それだと思います。私たちは、色違いと言っていますが、色違いからドロップする魔石は、浄化しないと効率が悪すぎて・・・」


「浄化?」


「はい。勝手に”浄化”と呼んでいるだけで、ギルドで同様の処理をしていると思うので、教えて欲しいです。あっギルドに渡した物は、浄化しているので大丈夫です。浄化しないと、元になった魔物が使えるスキルしか入れられないの・・・。効率が悪いですよね」


 いろいろダメな情報です。

 落ち着きましょう。


「主殿。他の二つの魔石は?」


「そうでした。3つともゴブリンの魔石なのですが、一つが色違いの魔石で、一つが弱いゴブリンの魔石で、もう一つは、弱いゴブリンの魔石を10個・・・。だと思いますが、合体させた物です。ゴブリンの魔石でも、10個くらい合体させると、いろいろなスキルの付与が出来て便利です」


「合体?」


「やって見せた方が早いですね。ゴブリンの魔石が手元にはないので、オークの魔石でやりますが・・・」


 主殿を制止しようと思った時には、既に遅かった。

 どこから取り出したのか、ゴブリンの魔石よりも大きな魔石を取り出しています。考えてはダメです。深く考えません。


 簡単に説明してくれました。聞きたくなかったです。

 一つは、裏山に居たオークで、標準体だと教えられました。そして、色違いと主殿が表現したオークの魔石が4個。


 オークの変異上位種の魔石は、一つはまだ”浄化”が終わっていないそうです。現在、主殿の家族眷属がスキルの調査をしているようなのです。ギルドの研究所・・・。必要ないですよね?主殿に任せた方がいいような気がしてきた。


 主殿は、魔石を持って魔力をぶつけます。

 そうすると、二つだった魔石が合体した。溶け合っているようです。体積は解らないのですが、二つ分の体積だと思います。多少の違いがあっても、誤差の範囲でしょう。同じように、主殿が魔石を合体させます。


「主殿?」


「なんでしょうか?」


「魔石の形は変えられるのでしょうか?」


「変えられますよ?魔力が必要ですが・・・。あっでも、茜さんやクロトちゃんとラキシちゃんならできると思います」


「え?」


「形が変えられると、道具を作るときに便利ですよ」


 それから、主殿が魔石を変える方法を教えてくれた。

 確かに、簡単に出来た。出来てしまった。でも、ギルドでは無理だろうと思う。


 ギルドに戻ってから検証しなければならない事が増えた。

 考えなければならない事がある。主殿は、自分の出した情報は公開してもよいと言われていますが、ギルドとして混乱する可能性がある為に、情報の価値と影響を考える必要がありそうです。

 難しい事なので、円香さんと孔明さんに丸投げしましょう。

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