第二十話 少女からの提案


 横に座る少女からは、害意は感じられない。

 話を進めるにも、困った表情を私に向ける。本当に、”人”ではないのか?それとも、”人”なのに”魔物”なのか?


 魔石の話から始めなければならない。

 少女から渡された魔石の取り扱いだ。


「壊れましたか?」


 私の問いかけに、少女から返ってきた話で、思考が停止してしまった。

 慌てて、少女が何を言いたいのか考えた。


 私の質問の仕方が悪かったようだ。


「そうではなく、あるじ殿が作られたと、ライ殿から聞きました」


「そうですね。私が、魔石にスキルを付与する形ですが・・・。実際には、魔石はスキルの発動媒体になっているだけですよ?」


 やはり、この少女がスキルを付与したのか?

 そうなると、この少女は”未知”のスキルを最低で2つは保持していることになる。


 発動媒体?魔石が?意味が解らない。


「魔石があれば、量産が可能だということですか?」


「条件次第では・・・。しかし、量産する予定はありません」


 条件?何か、付与するのに条件があるのか?

 量産するつもりはない?


 それとも、量産するのに条件があるのか?


「それはなぜ?」


「まずは、価値がわかりません。そうだ!私が作る為のレシピを提供したとして、ギルドで量産が可能ですか?質問に質問で返してもうしわけありません」


 ”レシピ”?

 例え、レシピがあったとして、今まで出来なかった事が明日にできるようになるとは思えない。


「・・・。無理だと思います。そもそも、結界や念話のスキルは、世界で初めて見つかったスキルです」


 少女には正直に話した方が良いだろう。

 敵対した時点で、私たちが殺されるだけで済めばいい。最悪は、人類の敵になってしまったら・・・。人類という種が滅ぼされても驚かない。


 以前から、ギルドだけではなく、ネットでも語られている存在”魔王”。横に座る少女が、”魔王”だと名乗ってくれた方がすっきりする。


「そうですか、それなら余計に量産する予定は無いです。興味もありません。私は、スキルを付与するだけの存在になりたくないです」


「わかりました。現在、ギルドに預けられた物だけが、存在する念話石と結界石だと考えて差し支えないですか?」


 とっさに思いついた名前だが、少女が口の中で繰り返してくれているから、気に入ってくれたようだ。

 少女が拒否した理由も、納得ができる。


 量産するのなら、勝手にやって欲しい。人類の為に、自分の時間を使うつもりはないという事なのだろう。

 私でも、同じように強制されたら拒否するだろう。


「念話は、そうです。結界は、使い道がありますので、少しだけ多めに作っています」


「使い道?」


 使い道?

 もしかして、結界には私たちが知らない機能があるのか?

 その前に、結界の機能がしっかりと把握が出来ていない。


「秘密です」


「そうですよね。残念ですが・・・。わかりました。それでは、預かっている魔石は、買い取りでよろしいですか?」


 曖昧な表情を浮かべ始めた少女を見て、これ以上の情報は引き出せないと考えた方がいいだろう。

 それに、あまりしつこいと嫌われてしまいそうだ。


 信頼関係の構築を優先した方がいい。


 まずは、こちらに有利な条件を提示しよう。


「はい」


「買い取りの条件などは?」


「条件?別に、考えていません?」


 条件を考えていない?


「それでは、我らギルドが、魔石を分析して、同じ物を・・・。劣化バージョンだとは思いますが、作ってもいいのですか?」


「いいですよ?」


 軽く言われてしまった。

 現物があれば、複製ができる可能性は残される。


 少女は、ギルドが複製しても困らない?


「・・・。解りました。買い取りの金額ですが、前例がないので・・・」


「そうなのですね。魔石。あの程度の魔石だと買い取り金額はどのくらいなのですか?」


 今、少女は”あの程度”と言ったか?

 濁りがない魔石で、オークの魔石だと思われる物を、”あの程度”だと?

 ここまで、澄んだ色の”魔石”を見た事がない。以前に、ギルドが主催するオークションで、小指サイズの魔石が濁ってはいるが透明度が強い魔石が出品された。あれは、250万で落札された。宝石としての価値がある。


「ふぅ・・・。そうですね。相場は、動きますが、あるじ殿から提供された魔石だと、一つ100万くらいでしょうか?」


「え?」


 初めて、少女らしい反応だ。

 驚いている。安いと思ったのか?

 オークションに提出したり、研究所に直接持ち込んだり、需要とマッチすれば倍以上にはなるが、ギルドの買い取りは魔石の大きさで決まってしまう。


あるじ殿?」


 何か、考えているのか?

 眉間に皺が寄っている。可愛い顔の少女が考え事をしている。本当に、魔物なのか?


「すみません。それなら、あの魔石を、魔石としてギルドが買い取ってください。それから、同じ程度の魔石を、あと10個ほどあります。買い取ってもらえますか?」


 少女の提案は、私の予想していた事ではない。

 もっと安いと思っていたのか?


 あの質の魔石が10個?

 最低でも、オーク級と思われる魔物を、倒しているのか?それも、10体以上?


 余計に解らなくなる。


 そもそも、魔石を売るのはなぜだ?

 お金が必要なら、魔石ではなく、結界石や念話石を売ればいい。


「え?それだと、結界石や念話石としての買い取りにはなりませんが?」


 結界石は、蒼が言っているように、自衛隊が大量に欲しがるだろう。富裕層も欲しがるに決まっている。日本以外の国だとSPが所有して、要人を守るときに使うだろう。”億”の値段がついても驚かない。

 念話石も同じだ。結界石ほどの需要は無いのかもしれないが・・・。それでも、数千万の値が着くだろう。


「えぇその代わりに、魔石を買い取ってください。他にも、魔物の素材があります。買い取ってもらえますか?」


「え?魔物の素材?」


 少女の狙いが解らない。

 ギルドを困らせたい?


 それなら、姿を見せる必要はない。


あるじ殿は、ギルド員ですか?」


「残念ながら違います。ダメですか?今の姿だと、見た目で難しいですよね?」


 確かに、年齢を確認できないので、申請は難しいだろう。見た目だと日本人に見える。身分を証明できる物があれば・・・。

 できるとしたら、特別枠でのカードの発行だが・・・。それも難しい。保証人は、私で大丈夫だが・・・。


 少女との取引は魅力がある。


あるじ殿。ギルドの規約をご存じか?」


「ギルド員?一般的に知られている程度のことは知っていると思います」


 やはり、少女はギルドに関する情報が少ないようだ。

 ギルドが、魔石や魔物素材を買い取っているのは知っているが、ギルド員になると、伝えられる情報は持っていないのだろう。買い取り金額も、オメて向きの情報だけなのかもしれない。


 茜に説明をさせよう。

 そろそろ戻ってくるだろう。最後に見つかったスライムをつれてくる。少女が既に待っているとは思わなかった。


 少女が持っているという素材を聞いて、後悔した。魅力的な素材が並んでいたが、それ以上に”知らない”素材が多い。そして、”加工技術”が確立している。それがどんな恐ろしいことなのか、少女が解っていない。


 茜が戻ってきた。

 蒼と孔明は、周辺を警戒しているようだ。


「茜!あるじ殿に、ギルドとギルド員の説明を頼む」


「え?あっ。解りました。その前に、お約束の女王蟻のスライムをお渡しします。クロト。あっ私の眷属?になった、猫が女王蟻だと言っていたので、間違っては居ないと思います」


 茜が緊張している。

 そうはそうだろう、いきなり少女が居るとは思っていなかった。スライムは、事務所に置いてきた。慌てて、取りに行ってきた。


 茜が連れてきたスライムが、茜から少女に手渡される。

 少女は、スライムを受け取った。そして、手で優しくスライムを撫でながら何かを呟いた。


「(ごめんね。怖かった?でも、大丈夫だよ。安心して・・・。貴女をこんな姿にした奴は見つけて、報いを受けてもらう。だから、貴女も手伝って・・・)」


 ベンチの反対側にスライムを降ろすと、膝の上に座っていた?スライムが、少女の膝から、ベンチに降りた。


 そして・・・


「え?」「は?」


あるじ殿?それは?」


「女王蟻は、残念ですが・・・。なので、ライと一緒になってもらいます」


 ライ殿に、女王蟻のスライムが吸収される。

 何を見せられている?


 背中に冷たい汗が流れる。

 恐ろしいと思う気持ちと、神秘的な情景を同時に見せられている。


 同じスライムでも、ライ殿と女王蜂のスライムは色が違う。両方のスライムが混じりながら、ライ殿の色に変わっていく、そして、混じり合っている場所から、粒子が湧き出て飛び散って・・・。


 時間にしたら、数秒だろう?

 しかし、1時間にも2時間にも感じられた。女王蜂のスライムを吸収したライ殿は、ベンチで数回ほど伸びるような仕草をしてから、少女の膝の上に戻った。ライ殿が居たベンチには、女王蜂のスライムと同じ色で綺麗な球体が、5つ転がっている。

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