第三章 スライム今度こそ街へ

第一話 家族会議


 新しい子たちが、我が家の庭と裏庭に揃うまで3週間もかかった。

 しょうがないのだろうけど、”転移”のスキルとか無いのかな?移動が面倒だ。私とライだけなら、カーディナルやアドニスに乗っていくこともできるけど、家族で移動を考えると、難しい。

 高校を卒業したあとな、免許も取れていただろうけど・・・。今は、免許は無理だ。人の姿になれる。確認したけど、指紋もある。声は出せるようになった。遠征で新しいスキルが沢山芽生えた。まだ、ライや家族たちが検証中だ。私が得たスキルで、一つだけは私だけが得たスキルのようだ。

 私が得たスキルは、”擬態”。魔物になってしまった、動物から得たスキルだ。ペットが逃げ出して・・・(もしかして、捨てられた?)。野生化して、魔物になってしまったのだろう。どの動物から得たスキルなのかわからないけど、有効活用させてもらう。


 鏡の前で、ライの分体に意識を移動させる。

 本体で、元の私に”擬態”する。


 スキルを発動すると、選択肢が現れた。

 選択肢の一つは、私の名前だ。


 あと2つの選択肢は、多分だけど、ライが取り込んだ男の子と女の子なのだろう。

 名前が解ったから検索をした。50年前の新聞に誘拐されたまま、行方不明と記事になっていた。ご家族は、当時は日本海側の県に住まわれていた。


 擬態を発動すると、やっぱり・・・。全裸だ。わかっていた。スライムだから、全裸なのだろうとは思っていた。でも・・・。私だ。髪の毛の長さも、貧素な顔も、ちっぱいも私だ。懐かしく思えてくる。


 下着を身につけて服を着る。

 うん。これなら、大丈夫かな?


「あぁーあぁーあぁーいうえお」


 声が出せる!


 分体を作って、”擬態”を発動する。

 同じ選択肢は出ない。今度は、私の名前と女の子の名前だけだ。理由はわからないけど、そういうものだろう。ただ、私の部分がグレーになっていて選択ができない。多分、私は一人しか存在できないのだろう。私同士で身体を洗うとか・・・。してみたかったけど、無理だ。すごく、残念だ。ライが作った分体に私が意識を移しても声は出せなかったけど、私の分体が”擬態”すれば声が出せる。深く考えない。感じろ。スキルは不思議な現象を引き起こす。今は、都合がいいと考えておこう。


「ライ」


 近くに控えていたライに声をかける。


『はい』


 そうか、ライは私の分身じゃないから、スキルが使えないのか・・・。


「普通に声は出せる?」


『分体で、人になれば可能です』


「よかった。それなら、買い物に行くときには、ライの分体と私の本体で行こう」


『はい』


 ここで、ライが皆に話を回したのが間違いだった。

 過保護な皆は、私がライだけを連れて街に行くのに反対してきた。


 そこから、天子湖で戦ったとき以上に真剣な会議が行われた。

 ”皆が付いてくる”と言い出して、必死に止めた。パロットだけなら、変わった女子高校生で解決・・・。ん?私、学校に・・・。だめだ。学校には、スキルの判定がある。そういえば、ライが取得した、”隠蔽”を使えば・・・。


 うーん。でも、今更・・・。学校って、なにかおかしな気分だよな。

 勉強をしたくなったら、どこかの通信制の学校に入ろうかな。高校中退だけど・・・。普通の生活は、もう無理だ・・・。よね。


 ギルドに務めるとかならチャンスはありそう?


『マスター!』


「え?あっごめん。やっぱり、無理だよ。ライが一緒に行くのも、かなりのリスクだよ?そこに、カーディナルやアドニスは、猛禽類だよ。ギリギリ、パロットをキャリーケースに入れて連れて行くのが限界だよ」


 皆が黙ってしまう。

 わかっているのだろう。


 私は気がついてしまった。

 側での護衛は無理だけど、街でも護衛ができる方法を・・・。


 ふぅ・・・。

 ライが、私を見ている。そうだよね。ライには、考えが伝わるよね。

 その上で黙っているのは、私が言い出すのを待っているのだろう。


「カーディナル・・・。滞空時間は?キングとクイーンと交代で、私とライを上空から監視して、なるべく高くから見ていれば、死角が潰せるでしょ?」


 ライが分体を作って、ライとカーディナルとキングとクイーンで話を始める。上空からの監視組は、3人に任せる。


「アドニスとテネシーとクーラーとピコンとグレナデンは、家の周りと新人たちの教育」


 ワシやタカは、街に居るのは珍しいけど、見ることもある。でも、ふくろうは見たことがなかった。悪いけど、留守番だ。家を守るのは重要な役目だ。


「フィズとアイズとドーンは、群れで行動して街の電線に止まっていても不思議じゃないからね。お店の中までは無理だけど、外なら近距離で護衛ができるよね?」


 フィズとアイズとドーンは、百舌鳥とムクドリとスズメだ。群れで街にいれば違和感はない。アオサギのフリップやカワセミのジャックは、ダメだろう。街中で見かけない。”絶対に、居ない”とは言えない。けど、見かけないから、目立ってしまう。


 他は、無理だ。どうしても、目立ってしまう。誰かに見つかってしまえば、捕縛対象だ。ナップくらいは見逃してもらえるかもしれないけど、それでも、殺そうとする可能性は残る。益虫だと思われていても、店に蜘蛛が居たら殺すだろう?

 ダークは昼間に活動はできるけど、一般的な蝙蝠は昼間に街で見かける事は少ない。夕方以降の護衛なら、ダークが行うことになるだろう。でも、私が夜に街中を出歩くとは考えにくい。


 新しく家族になった子たちは、まだスキルが安定していない。最低でも、ライとの意思疎通が完全にできるようになって、意識が混濁する時間を無くす必要がある。これは、ライが方法を確立しているので、訓練中だ。

 訓練が終わったら、名前を与えてほしいと言われた。


 イワナやニジマスやブラックバスが増えた。

 全となる種族は、現在、意識の混濁がなくなれば、群れとして”全”に組み込まれる。これは、カラントが行っているので、方法はわかっている。個性がなくなるのではない、名を共通の名前として認識するのだ。その上で、”個”が存在する。ライに、何度か説明してもらったけど、理解ができない。でも、個別に名前をつけなくていいのは、よかった。そんなに名前が思い浮かばない。


 どうやら、皆も納得してくれたようだ。


 やっと、街に向かえる。

 ライの服と下着を買って、あとは、足りなくなってきている調味料を購入しないと・・・。


 あと、情報が欲しいけど・・・。

 ギルドには行けないよね。


 あとは、私をスライムにした人の情報が欲しい。


 さて、どうしよう・・・。

 今日までのことを文章にして、ギルドに送ってみる?


 相手が、それで興味を示してきたら、会ってもいいかもしれない。家族の誰かを実験体にしようとしたら、全員で暴れればいい。天子湖に張った結界を自衛隊も警察も破れなかった。

 屋内じゃなくて、パルコやパルシェや松坂屋の屋上で会えばいい。森下公園でもいいかも・・・。伝馬公園なら小学校が近いから下手なことはしないだろう。それに、最悪の場合には、スライムの姿になって逃げる事ができる。


 いいかもしれない。

 ギルドの交渉ができれば、私をスライムにした人の情報が手に入る。

 それだけじゃなくて、死蔵している物が売れるかもしれない。それに、仕事が手に入る可能性もある。


 ダメだったら、家の周りに結界を張って引きこもればいい。

 魔物を狩って、魔石を得ていれば、生命活動は維持できる。そのうち、分体をカーディナルやキングやクイーンに遠くまで・・・。大阪とかそれこそ海外に運んでもらって、買い物をしてもいいだろう。人類が、私を排除するのなら、私は私たちのルールで生活をするだけだ。

 魔物になってから刻まれた感情は、”弱肉強食”人類が私たちの手を払って排除するのなら・・・。


 よし、まずは街に行こう。

 今度は、市内だ。買い物を久しぶりにしよう。


 私の本体(元の姿)と私の分体(女の子)とライの分体(男の子)で行こう。


 カーディナルとキングとクイーンが上空から私たちを護衛する。ライの分体を載せていく、ライの本体は家に居てもらう。


 うん。いい感じだ・・・。と、思いたい。

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