第二十話 序盤


”ライ!状況を常に報告して”


『はい!』


 ライにお願いをして、私たちは天子湖のキャンプ場に向かう。


 向かっている最中も、外周部から攻めている者たちの状況が報告されてくる。

 先行していた、フィズとナップが結界の中に入って、魔物たちへの牽制を始める。少しでも、私たちの負担を減らそうとしてくれているのだろう。


”フィズ!魔物よりも、人の牽制をお願い。制服を来ている人と、スキルを持つ人には注意して!結界の内側から牽制をお願い”


 フィズとナップから了承と返事が来る。

 ライとのリンクで、制服を来ている者には注意するように伝達している。スキルへの対処は、何度も経験しているから、皆に共有している。でも、警官や自衛隊が持っている銃火器に対する対応はできていない。

 結界が、銃撃では破壊できなかった。ただ、自衛隊が本気になったら、結界が破られてしまう(かもしれない)。

 だから、警官や消防官や自衛官は、結界に近づいて欲しくない。魔物との戦闘に集中したい。


”カーディナル!急降下!”


 結界の上部から、目的地になって場所に、私とライが降り立つ。

 人の姿だ。武器を持っている。


 背格好だけでは、私たちと判別されない(と、期待している)。暗くしたのには、私たちを見られたくなかった。特に、マスコミにはいい印象がない。


 さて、やろう!


”ライ。左側をお願い”


『はい。アドニスと殲滅に入ります』


 最初の集団に目標を絞る。ゴブリンの上位種の色違いがまずはターゲットだ。

 魔物たちも、私たちの侵入に怒り心頭だ。


 やはり、指揮している個体が存在している。攻撃が、集団ごとに連携をしている。


”ライ!”


『はい。指揮をしている個体を狙います』


”お願い!”


 外周部からの攻撃も始まっている。


 外側からは、テネシーとクーラー。ピコンとグレナデンが、攻撃を開始している。スキルを使っての攻撃だ。


 倒した魔物から、魔石を抜き取っているのは、ナップやパルの眷属が行っている。闇に紛れて、拠点にしている場所に運んでいる。状況は、ライが整理している。ログのように、私にも流れ込んでくる。


 安全マージンを十分にとっての戦いだ。

 まだ序盤だけど、大きな問題は出ていない。


 このまま押し切れるとは思っていないけど、ゴブリンの上位種くらいまでなら問題はなさそうだ。


 オークの上位種が動き出す前に、ゴブリンとゴブリンの上位種だけは殲滅しておきたい。

 魔力には余裕がある。数値で表示されないから、不安ではあるけど、今までの戦闘経験から、感覚で判断している。


 だから、ゴブリンやゴブリンの上位種には、身体を強化しながら、武器だけで戦っている。


 上位種の色違いには注意が必要だ。

 連携されると少しだけ厄介だ。


 こちらも、連携をしなければ対応が難しい。


”カーディナル!”


 信頼できる。仲間に声をかける。

 上空から、”色違い”の武器を持っている方の肩を狙う。タイミングを見計らって、私は反対側に回り込む。


 上位種の色違いは、攻撃もだが耐久が段違いに違う。そのために、まずは攻撃方法を奪う。スキルだけなら、上位種とそれほど違いはない。ゴブリンは火系のスキルを使ってくる。オークは土系だ。オーガは、火系だ。


 腕を切られた”色違い”が絶叫を上げる。

 周辺にいるゴブリンや上位種が、私に殺到する。人の姿から、スライムに戻って、カーディナルに飛び乗る。上空に逃げる。


 スキルが飛んでくるが、カーディナルに施している結界を破れるほどではない。上空から、カーディナルがスキルを発動する。火のスキルに相対するのは水だが、カーディナルは水のスキルは使えない。私は使えるけど、スライムの形態で使うと、威力が強すぎるために封印中だ。

 カーディナルが使うのは、風のスキルだ。


 敵対している魔物たちに風のスキルでダメージを与える。


”降下!”


 カーディナルに短い指示をだす。

 色違いを倒してしまおう。


 カーディナルは、私の意図した通りに、色違いの正面に降下する。私は、カーディナルから飛び降りて、人の姿に変わって、武器を構える。

 後ろからの奇襲だ。序盤では、私のスキルは温存しておきたい。魔物もある程度の集団になっていると、学習をして、対応に変化が現れる。手札は、隠しておいた方がいい。


 色違いの足を切ってから、首に剣を突きさす。すぐに、絶命するわけではないが、ここまでダメージを与えれば、あとはアイズやドーンやジャックでも対応ができる。ナップやパルの眷属も居るので、魔石を取り出すこともできる。


”掃討するよ”


 色違いが倒れてしまえば、次は上位種だ。

 上位種なら、私かカーディナルで対応が可能だ。一撃で倒すのは難しいが、倒すだけなら難しくはない。周りを見ると、外周部に居たゴブリンやコボルトなどはすでに倒し終わっている。


 ライから上がってくる報告で、ライたちもゴブリンの色違いを倒したようだ。


 問題は、キングとクイーンだ。

 こちらに意識が向かないように、オーガの上位種と色違いを牽制してくれている。


 ライのサポートが入っているといっても、数だけでも6対2だ。上空に逃げるアドバンテージを使って、スキルを全開で使って、なんとか拮抗を保てている状況だ。キングとクイーンは、水と氷のスキルが使えるので、オーガの上位種には絶対のアドバンテージがあるが、色違いは水と氷の相対属性が使えるようだ。


”ライ。キングたちが苦戦している。誰かを向かわせられるか?”


『すでに、フリップが向かっています』


”フリップ?大丈夫なの?”


『キングからの要請です。風と水のスキルが使える。フリップが適任と判断しました。フリップには、上空からスキルでの攻撃を指示してあります』


”わかった。オーガの上位種や色違いが強ければ撤退するように伝えて!”


『わかりました』


 目の前の、ゴブリンたちが倒れるのを見ながら、次の目標を見定める。


 思っていた通りだ。

 魔物にはテリトリーが設定されている。集団になっても同じだ。テリトリーに入らなければ、襲ってこない。テリトリーの認識は行動を観察しなければ判明しないが、天子湖のキャンプ場にいる魔物たちのテリトリーはすごく狭い。一つの集団で、テリトリーを持っているように感じられた。重なっている可能性もあるが、一つの集団を倒しても他の集団が動き出さない事から、アクティブになるテリトリーは重なっていない。

 慌てて逃げると、テリトリーを縦断や横断して魔物がアクティブになる。

 だから、私たちは上空から下降して、他の魔物のテリトリーに接触しないように、各個撃破していく方法を選択した。


 問題は、上位種や色違いのテリトリーが広いことだ。アクティブになる距離は掴めているが、絶対ではない。だから、キングとクイーンには無理をしてもらっている。


 今のところは、私たちが経験から立てた作戦が当たっている。


『テネシーたちから報告です。動物たちはすでに意識を無くています。対処は不可能だという事です』


”わかった。残念だけど・・・。屠ってあげて”


『わかりました』


 これも予測していた。

 最悪の方向で・・・。動物たちを戻す事ができれば良かったのだけど・・・。


 悲しんでは居られない。

 魔物を放置すれば、動物たちが犠牲になってしまう。人が勝手に傷つくのは自業自得だけど、動物が魔物になって意識を失うのは・・・。


”ライ。次の集団に行くよ!カーディナル!アドニス!お願い”


 信頼する家族に、声をかける。

 まだまだ、ゴブリンを主体とした集団は、点在している。外周部の掃討が終わった、テネシーたちが合流してくれて、対応の速度は上がった。


 それでも、最後の集団を倒した時には、テネシーとクーラー。及び、ピコンとグレナデンは、力を使い切っている状況だ。

 テネシーたちには、ゴブリンの集団から得た物を回収する役目を新たに与える。


 天子湖のキャンプ場の山側に入る遊歩道近くに、布陣しているオークの集団を見る。


 序盤は、私たちの完勝だ。

 だか、疲弊はしている。テネシーたちの戦線離脱は予想の範囲内だが、最悪の状況だと認識している。


”ライ!カーディナル!アドニス!次は、オークたちだ!無理しないようにね!”

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