第十二話 悪対惡


”人が多い”


 この前よりも、人が増えている。

 スマホでも持ってくれば、調べられたのだけど、取りに戻る時間がもったいない。


 魔物の数も増えている。

 山側の封鎖が出来ていないのだろうか?


 え?


”カーディナル。オーガの近くに移動して”


 カーディナルにお願いをして、オーガたちが居た小屋が見える場所まで移動した。


”なんで?”


 そこに居るオーガたちは、人を捕らえている。残念ながら、死んでいるのは見た目で解る。頭が潰されている。

 一人や二人ではない。目視だけだが、5-6人は犠牲になっている。もっと多いかもしれない。


 今の私は、スライムで、歯は存在しないけど、奥歯がギリギリしているような感情に支配される。弱肉強食は理解できる。理解できるが、納得できることではない。


”カーディナル。一度、皆の所に戻って!”


 カーディナルが方向転換をする。

 攻め込む場所は、川向うからと決めた。人が居ない場所から、攻め込む。


 作戦の変更を皆に伝える。


 アイズとドーンに結界を設置してもらう。ダークにも手伝ってもらう。実際の設置は、ナップが行う。


”アイズとドーンとダークで、山側。オーガたちが居る小屋の周りと、魔物たちが居る場所で山側に結界を設置して欲しい”


 皆が、私の話を聞いてくれる。


 人が入り込まないようにするためだ。人が入り込んでいる状況を考えると、作戦の開始と同時では、結界が間に合わない可能性が出てきてしまう。人を助けたいわけではない。家族に犠牲がでるのを防ぐためだ。山側さえ結界で侵入を防げば、キャンプ場では自衛隊と警察隊がバリケードを作っているので、大丈夫だ。川側は、どうやら越えてこないようなので、考えなくても良いだろう。


『ご主人さま。天子湖側にも結界を設置したほうがいいと思います』


 ライが、起用に触手を伸ばした先には、川をボードで渡ろうとしている人たちが見える。カメラを抱えているから、マスコミなのだろう。


 死にたいらしい。

 見てしまったからには、なんとかしたい。カラントやキャロルを連れてくればよかった。


”ジャック!フィズをサポートにつれて、結界を張って、船での上陸を阻止して、キルシュは向こうで活動を開始して、危ないと思ったら逃げてね”


 承諾の意思を伝えてくる。


”アイズとドーンとダークも、キールとナップを連れて、行動を開始!”


 皆が一斉に飛び立つ。

 自衛隊の人たちだろうか、何人かがこちらを気にしているように思えるが、見えては居ないだろう。キョロキョロしている。気配の遮断は無理だが、姿はうまく隠せているようだ。


 状況は、私たちが考えていたよりも悪いかもしれない。

 山の中に居る魔物を数えると、合計で200に届きそうな数だ。まだ時間があるので、キング&クイーンには、人が生活している場所を偵察してもらう。テネシー&クーラーには天子湖の周辺を見て、他に魔物が居ないか確認してもらう。ピコン&グレナデンには、オーガが居る辺りを、重点的に行動範囲を確認してもらう。

 近くの山に、小動物が居ないか結界作業を行っていない者に確認を頼んだ。この辺りの生態系がわからないが、魔物に荒らされたのは間違い無いだろう。確認しだい。保護することにした。一旦、私たちが拠点にしている場所に集まってもらってから、希望者を裏山につれていく。


 周りの状況変化と、人の多さへの対処を行った。


 なにやら、自衛隊なのか、警官隊なのかわからないけど、バリケードを構築した場所に、人が集まっている。声は聞こえないし、きっと気にしたらダメな状況なのだろう。無視して、私たちは、作戦の最終確認を行う。


 まずは、結界と魔物の現状を確認する。


 魔物の数は、200を軽く越えていた。

 オーガに近い場所には強そうな魔物が揃っているようだ。ゴブリンたちも統率されている。それから、犬に見える魔物も居る。角が1本か2本生えている。角犬?が、ゴブリンに従っている。角猫は見当たらない。イノシシの角有りも存在している。角猪なのか?鹿は見られない。牛や羊も居ない。家畜は魔物にならないの?


 ゴブリンにも角が生えるようだ。オークにも角が生えている個体が居るようだ。スライムは居ない。魔物だけど、同種であるスライムを倒す気にはならないから丁度よかった。

 二足歩行のトカゲも居る。リザードマンと呼ばれる魔物だ。

 牛の顔をした魔物も居る。ミノタウロスと呼ばれる魔物だ。


 小屋の所に居るオーガが強いのは、感覚で解る。オーガたちは、私とライにしか倒せない。ミノタウロスやリザードマンも強そうだけど、カーディナル基準では、オーガの1/10程度の強さだと言っている。そのミノタウロスは、オークの角2本と同じくらいらしい。


 オークやゴブリンは、いろいろな色が居る。

 カーディナル基準では、黒に近づくほど強いようだ。角1本は黒ゴブリンよりも強い。オークも同じようだ。


 怖いけど、家族が傷つくよりもいい。

 私とライなら、倒せる。カーディナルもアドニスも、補助をしてくれる。大丈夫。ダメだと思ったら逃げればいい。


 結界は維持されるだろう。魔物が中で増えるかもしれないけど、外には出ないし、人も入らない。何度も何度も、戦闘を繰り返せば倒せる。私とライなら、家族なら、倒せる。


 ライが、皆から状況を確認してくれた。


『ご主人さま。人と思われる物体は、全部で17名分です』


”そう”


 私がもう少しだけでも・・・。早く来ていれば・・・。この思いは危険だ。私の手はそんなに長くない。私のわがままに家族を危険にさらしている。これ以上を求めるのは、傲慢だ。


『それから、結界を張り終えました』


”ありがとう。そう言えば、川を渡っていた人たちは?”


『結界に阻まれて、なにか文句を言っていました』


”そう、上陸は阻止できたのよね。よかった”


『はい。結界の中に、生きている人間は居ません』


”わかった。思いっきりスキルを使っても良さそうね”


 何の目的があって、魔物がいると解っている場所に足を踏み入れたいのか?

 武器らしき物を持っていたから、討伐が目的だとは思うけど・・・。アメリカみたいに、民間人が銃を持っているわけじゃない。あんなナイフで、魔物を倒せるとは思えない。ゴブリンはわからないけど、オークだとナイフが折れるだろう。バールのような鈍器をフルスイングすれば、ダメージを与えられるとは思うけど、倒すのは難しい。一発で殺らなければ、反撃が来る。それも、一撃で人が殺せる反撃だ。

 私のように、岩を落とせれば別だろうけど、魔物を倒すのは本当に大変だ。

 私の家族のように、複数のスキルと攻撃性のスキルを駆使すれば倒せるとは思うけど・・・。


『はい。ご主人さまから見せていただいた写真とは、変わっていました。攻撃性のスキルを使用して、破壊しても問題は無いでしょう。魔物たちが行ったことです』


 作戦を考える時に、地図で天子湖を確認している。

 小屋の位置は、衛星写真で確認できた。


 確かに、面影が無いくらいに破壊されている。


”そうね。悪いのは、魔物だよね”


 ライの言い回しに少しだけ和んでしまった。私たちも”魔物”だ。だから、魔物がしでかしたこと・・・。

 そうだ、悪いのは”魔物”だ。攻撃性のスキルを使うと、間違いなく地形が変わってしまうが、しょうがない。自衛隊が、戦車で攻撃するよりはマシだと思ってもらおう。小屋の周りの木は諦めてもらおう。禿山にはならないとは思うけど、一部は地肌が露出するくらいは、覚悟してもらおう。

 魔石を使って、木々を移植すれば、復活も早いとは思うから、それで許してもらおう。


『はい』


 ライの嬉しそうな返事が嬉しい。

 そうだ、私たちは”正義の味方”でも、”神々の使者”でも、”人類の防人”でもない。ただ、私が気に入らないから、魔物を討伐する。

 人から見たら、私も魔物だ。

 ”悪”対”惡”の戦いだ。生存をかけた戦いでも、人類を背負っての戦いではない。掛かっているのは、私の”気分が悪い”という気持ちだけだ。ダメだったら、さっさと逃げよう。

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