第二十七話 あらいぐま


 よし、今日は裏山の探索を行おう。

 先日から、魔石の増え方が遅くなった。すごく嬉しい。魔石は命だ(多分)。小さいかもしれないが、一つ一つが大切な命だ(多分)。


(おはよう。パロット)


”にゃ!”


 うん。

 挨拶が帰ってくるのは嬉しい。言葉が通じたら、もっと嬉しいのだけど、出来ないものは、考えても無駄だ。今、意思の疎通が可能になったことを喜ぼう。


 外の巣箱には、カーディナルもアドニスも揃っている。

 昼間だから、お願いするのなら、カーディナルがいいかな?


(カーディナル!)


 私の呼びかけに、カーディナルが小さい状態で窓まで近づいてきてくれた。2階の窓から呼びかけても聞こえるようだ。


(今日、東側を廻りたいけどいい?)


 私の話を聞いて、カーディナルはアドニスのところに移動した。二人で、何かを話し合ってから、カーディナルが戻ってきた。私の前で、元の大きさに戻ってから大きく翼を広げる。


(よかった。カーディナルが一緒に行ってくれるの?)


 うん。意味は解る。

 カーディナルだけではなくて、ナップも付いてきてくれるようだ。


 さて、本当なら、装備を整えて、食料を持って、さらに野営の道具を持ってとかになるけど、スライムでは必要がない。そもそも、武器なんて持てない。カーディナルやナップも武器は必要としない。食料も、アイテムボックスにオーク肉が残っている。それに、庭で行ったバーベキューもどきの時に気がついたが、うちの子たちは魔法を使う。攻撃手段を持っている。多彩なスキルを使ってみせた。


 考えても無駄だ。

 東側から北側に抜けてから帰ってこよう。


(行くよ!)


 庭に居る子たちに行ってきますと伝えてから、触手を伸ばして立体機動を始める。

 カーディナルは、ナップを背中に乗せて、上空から付いてくる。時折、急降下してきて、確認してから上空に戻っていく、私の移動速度も上がっているように思える。以前よりも、触手の収縮が早い。気の所為では説明がつかない速度だ。スライムボディもしっかりと成長してくれる。


 この前、オークを倒した場所に来た。

 洞窟と言ってもそれほど深くはない。洞穴よりは少しだけ深いくらいだ。


 用心して中を覗き込む。


 え?


(カーディナル!ナップ!)


 洞窟の入口付近を警戒するようにしていた、二人を呼び込む。


(この子・・・。助けられる?)


 洞窟では、丸まって小さくなっているアライグマが居た。子供だろうか?親は?


 カーディナルは、私の問に頷いてくれる。大丈夫。助けられる。この辺りに、アライグマが生息しているはずがない。ペットとして飼っていたものが野生化したのだろう。身勝手な人間の犠牲者だ。私が、保護するには十分な理由だ。


 やせ細っているから、食料も無かったのだろう。どうしよう。持っている物は、肉は食べられるか微妙だ。食べられても、消化が出来るかわからない。そうだ!ダメ元で・・・。


 小指の爪ほどの魔石を取り出す。

 アライグマさんに舐めさせる。カーディナルが、アライグマさんの近くで鳴き始めると、アライグマさんは、まだ警戒の姿勢は崩していないが、顔を上げてくれた。私から魔石を受け取ったナップが、アライグマさんに渡す。困ったような表情をアライグマさんはしているが、魔石を手で弄んでから、舐め始める。


(ありがとう)


 アライグマさんは、まだ体調が悪いだろう。

 足も怪我をしている。治してあげたい。家族になってくれなくてもいいから、体調が戻るまでは、裏庭で養生してほしい。


 カーディナルとナップに私の考えを伝えると、解ってくれた。


 カーディナルが、ギブソンとノックを呼びに行く。二人に、アライグマさんを家まで連れて行くようにお願いをする。そのときに、ナップが一緒に来るので、護衛を務める。らしい。


 なんとなく、カーディナルの言っている内容が理解できた。

 動物と魔物では、何かが違うのかわからないけど、何かに邪魔をされている感じがして、意思が繋がらない。気持ちは、繋がっているか。私を大切に思ってくれているのはよく分かる。恥ずかしいくらいに、私を大切に思ってくれている。こんなに、直球で思いをぶつけられたことがない。でも、心が暖かくなる。スライムになったから、感じられる感動なのかもしれない。


 ギブソンとノックが、やってきた。

 二人に付き添われて、アライグマさんは洞窟から、裏庭に移動してくれることになった。素直に従ってくれたのが嬉しかった。


(あっアライグマさん。名前を付けていい?)


 アライグマさんに名前を付けたい。一時期かもしれないけど、家族になるのだ。アライグマさんだけ名前が無いのは可愛そうだ。


 アライグマさんは、私の言葉が解るのか、ギブソンとノックに何かを訴えている。ギブソンとノックは、アライグマさんに大丈夫と伝えている。二人に礼を伝えた、アライグマさんは私の前まで、歩いてきて、頭を下げる。


 この子も賢い。

 触手を伸ばして、頭を触る。左足の怪我も気になる。何か、治す方法を探してあげよう。


(君の名は、ラスカル)


 アライグマと言えば、ラスカルしか名前が浮かばなかった。ダメかもしれないけど、他の名前は却下だ。アライグマはラスカルだ。ラスカルと言えば、アライグマだ。


 ラスカルは、私に頭を下げるようにしてから、ギブソンとノックと一緒に裏庭に向かった。


 さて、一つの命は救えた。

 でも・・・。


 洞窟の奥には、動物の骨が大量に存在している。自然の摂理といえば、そうなのだろう。でも、オークは間違いなく外来種だ。私もだけど・・・。


 疑問が湧いた。

 ギルドで調べた時には、”魔物は食事をしない”と説明されていた。しかし、ここにある骨の量から考えると、オークは食事をしていた。頭に突起物みたいな物がある頭蓋骨がある。魔物も混じっている。1体や2体ではない。見た感じでは、20体以上はあるだろう。革もあるが、噛みちぎったような感じだ。


(ごめん。私がもっと・・・。ううん。違うね。君たちを、まとめて供養するけど、許してね)


 動物や魔物の骨をまとめてアイテムボックスにしまう。小さな小さな魔石も有った。鳥の骨も有ったようだ。本当に、オークは雑食だったようだ。魔石は全部で3つ。誰の魔石なのかわからないけど、一緒に葬ろう。


 近くに、動物の骨がないか探しながら帰ろう。オークがこの辺りを根城にしていたのなら、まだ他にも供養しなければならない者たちがいる可能性がある。それに、他に魔物が居る可能性だってある。


 カーディナルが、私の前に降りてきた。


(ん?そうね。それ・・・。でも、危ないよね?本当に?大丈夫?無理はしてほしくないよ)


 カーディナルは、アイズとフィズを使って、東側を散策させてみてはどうかと提案してきた。カーディナルが上空から監視をして、アドニスが木の上から監視をする。アイズとフィズには、ナップも一緒に探索するから大丈夫だと言われた。


 たしかに、アイズムクドリフィズ百舌鳥なら木々の間を飛ぶのも大丈夫だろうし、発見も早いだろう。

 悩んでいてもダメだな。カーディナルとアドニスという裏山の支配階級が見張りに付くので大丈夫だ。多分。やってみよう。


(わかった。お願い。弱き者を助けたい。力を貸して)


 骨さんたちいは、供養が少しだけ遅くなることを侘びた。救えるかもしれない命がある。なら、まずは私ができることをやろう。


 カーディナルが、頭を下げてから飛翔する。

 ナップが私と一緒に洞窟に残ってくれることになった。


 皆が集まった。そうだ!せっかく手に入れた洞窟だし、拠点にしよう。

 結界を付与した魔石を設定しよう。


 ここから、安全を確保した場所を、結界で覆っていけば、私も安全になるし、裏山の皆も安全になる。


 ナップが、手を上げて知らせてくれる。

 どうやら、洞窟の前に探索チームが揃ったようだ。


 私が洞窟から出ると、皆が綺麗に並んでいる。

 え?すごくない?本当に、電線に止まっているムクドリを見たことがあるけど・・・。地面の綺麗に並んでいる。左右には、カーディナルとアドニスが居る。私が出てくるのを待っていた?

 アイズとフィズの横には、ナップが居る。一緒に探索を行うチームなのだろう。フォーメーションなの?4組ごとに綺麗に分かれている。


 うん。難しく考えない。

 私の家族は優秀なのだ!


(皆。私のわがままでごめんね。弱き者を助けたい。力を貸して!危なかったら逃げてね。私は、皆が、家族が、傷つくのはイヤ!無理を言っているけど・・・。皆、安全に探索をお願い。弱っている者を見つけたら、裏庭に運んで!悪い奴が居たら、教えて、私とカーディナルとアドニスでおしおきをする!)


 皆が鳴き始める!

 カーディナルが大きな鳴き声を上げると、ナップが一斉にパートナーの背中に飛び乗った。

 アイズとフェズは、組になって空に飛び立った。


(無事に帰ってきてね!)


 私は、声は出ないけど、大きな思いを乗せて、飛び立った皆を見送った。

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