第一章 スライム生活

第一話 移動


 私は、どうやらスライムになってしまったようだ。


”魔物になってしまった”

 なんて例は、掲示板にもギルドにもないだろう。


”ぽよんぽよん”

 うーん。自分ながら、可愛い。是非、ペットにしたい。


 現実逃避をしていても、何も変わらない。

 私が持ってきていた荷物が無い。


 そう言えば、着ていた服や下着は?誰かが持っていった?え?やだ!


 私・・・。今、全裸?

 これって、もし、スライムから、人間に戻ったら、全裸になってしまうの?


 ここに居てはダメだ。

 スライムになってしまった理由はわからないけど、ここに留まるのは得策ではない。移動は、跳ねるようにすればできる。


 人間だったときに、両足を縛って、飛び跳ねるような感じに近い。体育祭でやった”うさぎ跳び”の要領でやれば移動できた。


 全裸だと認識すると、すごく恥ずかしい。まだ、誰にも見られたことがないのに・・・。いきなり、学校で全裸になっている。変態さんの仲間入りです。


 学校の裏にある、どこかのクラブが作っている畑に来た。


 玉蜀黍が茂っている畑の中を移動する。


 跳ねたら、玉蜀黍に当たった


『トウモロコシを格納しますか?』


”え?”


 こんな表示は、今まで出ていない。

 どういうこと?


”はい。お願いします”


”え?”


 実っていた玉蜀黍が消えた。

 どこに行った?


 ”格納”されたってこと?


 スキルなのかな?


 スキルの使い方を動画で見たことが有ったけど、言葉に出していた。今の私は、声が出せない。どうやって、スキルを発動させたらいいのだろう?初めて、スキルを発動するときに、説明と使い方が頭の中に流れると言っていたけど、魔物は違うようだ。


 困った。

 せっかく、スキルが使えそうなのに・・・。


 ”格納”は、ゲームでよくある名前では、”アイテムボックス”だよ・・・・。


”え?”


--- アイテムリスト

汚れた衣類 汚れたスカート 古いキャミソール 古いタイツ 古いAカップブラジャー 古い汚れたパンツ 古い靴下 靴(中古)

カバン(中身あり)(中古))

新鮮なトウモロコシ

---


 悪意がある説明が出てきた。眺めていたら、消えてしまった。


”アイテムボックス”


 頭の中で念じると、先程でてきた一覧が表示された。

 よく見ると、”アイテムリスト”と書かれている。


 取り出すには、触ればいいのだよね?

 目の前に、ARのようにアイテムリストが広がっている。手があると思って、触ろうとすると、スライムの身体の一部が伸びる。そうか、これが手の代わりになるのか・・・。


 なんとなく、悪意がある説明は無視したい。

 パンツも毎日、しっかりと洗っているから綺麗だ。今日も、家を出る前にシャワーを浴びて、洗ったパンツに替えた。汚れてなんかない!確かに・・・。Aカップだけど、Aカップでも、少しだけ、そう本当に少しだけ余るけど・・・。他の物は、サイズが書いていないのに、ブラだけAカップと書かれるのは酷いと思う。


 あっまたリストが消えてしまった。


”アイテムボックス”


 今度は、消える前に、玉蜀黍に触る。

 触ったら、アイテムリストがあった辺りに玉蜀黍が現れた。


 もしかしたら、目線?で現れる場所を設定できるのかも?

 あっそうだ!


 カバンを取り出した。中身も、記憶通りだ。スマホもある。指紋認証や顔認証は無理だろうから、PINでの認証になってしまうけど、しょうがない。


 そうだ・・・。

 家に帰ろう。カバンの中に鍵があった。無駄に、セキュリティを厳重にしておいてよかった。スマホと鍵があれば家に入られる。

 カバンの中に、”古いキャミソール 古いタイツ 古いAカップブラジャー 古い汚れたパンツ 古い靴下”を入れた。カバンを格納すれば、気分の問題だ。どうやら、アイテムリストに出ていた、”汚れた”は、地面に落ちて”土”で汚れたという意味のようだ。きっとそうだ。パンツとスカートには、土が付いていた。きっとそうだ。


 あぁぁ。さすがに、もう学校には行けないよね。


 うん。無理。考えても、わからないことが多すぎる。もしかしたら、寝たら元に戻るかもしれない。

 ひとまず、家に帰ろう。


 電車と自転車で1時間以上かかる。山越えだと、どのくらいの時間が必要なのだろう?

 わからないけど、電車は使えないだろう。スライムが電車に乗っていたらシュールだろうな。


 この身体だと、自転車も無理だ。


 跳ねていくしかないのか・・・。

 異世界でスライムになって、魔王になった話では、転移が使えたけど・・・。使えないだろうな。そもそも、スライムって魔法が使えるの?

 スキルが使えるのはわかったけど、他に、どんなスキルが使えるの?


 学校の裏の塀に近づいた。最初の難関だ。塀の高さは3メートル。塀を越えたら、山に抜ける獣道がある。田舎の学校でよかった。


 ジャンプは無理だよね。3メートルだから。

 どっかに、側溝とかなかったかな?スライムの身体なら、側溝を抜けられると思う。


 少し、塀沿いに進んだら、プールの場所に来た。夏休みだけど、プールには誰も居ない。水泳部も部活が休みになっている。階段なら、跳ねていけば越えられる。


”ふふふ”


 思い出した。

 女子更衣室の鍵が壊れている。誰が壊したのか、問題になっていたけど、まだ直っていない。鍵の代わりに、女子が中に居るときには、机を置いて鍵の代わりにしていた。今なら開いているはずだ。問題は、どうやって開けるのかだけど・・・。


 手を伸ばしたら、届かないかな?

 スライムならできる!ドアノブを見て、手を伸ばす。


”うわぁ・・・”


 自分でやっておいて、気持ちが悪い。触手のような物が伸びて、ドアに巻き付いた。ノブを回すと、扉が開いた。

 懐かしい、女子更衣室だ。


”え?あっ・・・”


 目線が低いとこういうのに気がついちゃうのね。


 隣のクラスで女子がいじめられていた。パンツを盗まれたとか言っていた・・・。そうか、ロッカーの隙間に投げ込んでいたのね。酷いことをする。取り出すのも違うと思うから、そのままにしておくけど・・・。


”はぁ・・・”


 今度は、これか・・・。女子更衣室で”やる”なよ。男女の営みのが捨ててある。中は、乾燥しているけど・・・。ぱっと見た感じだけど、5-6回分だろう。猿より酷いかもしれない。一組じゃないかもしれないけど、もう少しだけ考えて欲しい。


 プールに出る扉の鍵は壊れていないけど、中から開けられる。

 手を伸ばして、鍵を開ける。扉を開けると、プールに出られる。


 あっ・・・。こんなことをしないでも、横から入れば、柵の下が・・・。

 スライムの身体になっても、人だった時の感覚が抜けなくて、プールに入るには、女子更衣室からだと・・・。固定概念って怖いな。


 男子更衣室を覗きたい気持ちも有るけど、鍵が掛かっているだろうし、きっと後悔するだろうから辞めておこう。


 消毒槽は、水が抜けている。

 跳ねながら通り過ぎる。プールは、綺麗な水が張っている。私が通っていた高校は、幼稚園と小学校と中学校も隣接していて、プールを使うことがあった。そのために、子ども用のプールもある。


 あれ?

 そう言えば、夏休みで今日は真夏日で、学校の周辺では36度近くまで気温が上がるとか言っていた。

 それにしては、暑くない。全裸だからというわけではないだろう。直射日光を浴びているのに、暑くない。もしかしたら、スライムの身体は、熱を感じにくいのかもしれない。適度な気温設定で、エアコンが効いている部屋に居るような快適さだ。


 でも、風は感じる。日差しも感じる。熱も意識すれば、”暑い”と感じる。プールに近づけば、プールの臭いも感じられる。


 全裸になってしまっていることを除けば、スライムボディーは素晴らしく、快適に過ごせるのかも知れない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る