二度目の探求者

逆義

プロローグ

プロローグ―1

 深夜一時、人気がない公園のベンチで仰向けに寝転がり、闇夜を照らす満月を拝む。吐息を漏らすと月光に当てられて白く染まり、酒気を帯びて鈍くなった感覚では寒さを忘れてしまう。

 所謂、自棄酒というものだ。コンビニで買った缶ビール数本と肴を片手に、近場の公園で一人呑み。

 高校卒業後にまともな定職に就かず、フリーターとしてぼんやりと生きる人間に飲み仲間など作れやしない。語り合える程の話題が無ければ、友人を作る資格もない。


(眠い……このまま寝ちまおう、死んだらその時はその時だ。俺の代わりなんて幾らでも居る、から解放されるのなら万々歳だ)


 酒気と疲労から来る強烈な睡魔が瞼に重くのしかかり、微睡みと現実の狭間で心地よい酩酊感に惑わされる。

 関東でも冬に防寒具も無しに眠りに落ちれば、翌朝には立派な凍死体の完成だ。冬にうたた寝から凍死する事例はそう珍しくなく、身近に起こる可能性がある死の一つなのだ。


(それに死後の世界を観測できる良い機会だ……後は……野となれ……山となれ―――)


 睡魔に身を委ね、意識を落とす。生きる目標を見失った人間が未練を抱くこともなく、最後に思い浮かぶのは母親の顔だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る