第6話 土屋ゆう気
裁判長と案内人は「土屋ゆう気」とラベルに書かれているビデオを見ていた。
丁度、屋上で彼女が夜風に吹かれている場面になっている。
真っ青な顔をして、彼女はよろめいている。
足を踏み外す。
洗濯物が干された物干し竿に捕まろうと、もがいているが、手が届かない。
そのまま彼女の体は宙を舞い、道路へと落ちて行った。
ーー彼女は自らを殺そうとした、と話していたが、どうやらそれはウソのようだ。
事故だ。
なぜか彼女は嘘をつき、自分を悪者のように語っている。あんな呑気な調子で話してるのに、、。
彼女が地面に叩きつけられる少し前、、。
「ーーこっちへおいで」
と言う男の声が入っている。
それが誰の声か、は分からないが、、。
彼女は地面に叩きつけられた。
ーー死のうなんて思ってなかった、、。
言い訳の様なゆう気の心の声が、映像越しに流れている。
きっと、ほんとはまだ死にたくなかったのだろうが、、あくまでも自分を殺そうとした、と生死裁判の中では訴えている。
そのウソをつく理由は、それは、もう死んでもいい、という思いからだろう。
彼女のウソがわかった。
しかし、なぜこんな大事な場面でウソをついたのか?その理由が分からなかった。
裁判長は、案内人に言った。
彼女がなぜウソをついたのか?ーー現世に行って調べてきなさい。と。
「はい。かしこまりました」
案内人は頭を下げると、すぐに現世に向かった。その途中で、どうやって調べればいいものかと、考えを巡らせた。
案内人は、まず恋人である大介の病室に行ってみる事にした。
上半身を起こし、座り込んでいた彼の目の前の丸イスに、案内人は座った。
「ーー??」
不思議そうに彼はマジマジと案内人の顔を見た。
「ーーお久しぶりです。あちらの世界にいた案内人です」
「ーーあー!どうりで見覚えのある顔だと思ってたんですよ」
「ーーところで、あなたは土屋ゆう気さんの事をご存じですね?」
「はい。ゆう気、どうかしたんですか?」
「今あなたと同じように生死裁判を受けているんですが、彼女はどうやらウソをついてます。ーーなぜ彼女が、こんなウソをつくのか?それを確認しにきました」
「ーーどんなウソなんですか?」
「事故でこの病室の屋上から落ちて、あちら側に行ったのに、なぜか彼女は自分で自分を殺そうとした、と言っているんです」
「ーーそれ、もしかして、、昔の話じゃないですか?」
「ーー昔の?」
「はい。昔、彼女は自殺を計った事があると言っていました。理由はわかりませんが、、」
「ーーそうですか、、ご協力ありがとうございます」
「あの、、多分とても辛い出来事があったと思うんです。なので、その事には触れないであげてください」
大介は頭を下げた。
「どれくらい前の事か分かりますか?」
「ーー20才になった頃の事だと聞いてます」
「もしかして、その内容知ってますか?」
「ーーはい。でも僕の口からは言えません」
「では、調べてみます」
大介に頭を下げて、案内人は元いた世界に戻って行った。
ーー中間世界。
口ひげを撫でながら、裁判長はうなっている。
「ーーうーむ、なぜ彼女は不利になる事を語ったのか、、」
「ーー裁判長、調べてきました」
「なぜ、彼女はウソをついたんだ?」
「ーーウソではないようです。昔、彼女は本当に自殺をはかった事があるとゆう事です。彼女の彼氏の山本大介氏に聞いてきました」
「そうか、、それならばいーだろう。彼女の判決は生にしよう」
「はい」
「だが、その自殺をはかった理由も知らねばならん」
ビデオを巻き戻す。
19才の彼女は、性犯罪に合ったようだ。
そして、彼女がまだ20才になったばかりの頃から一年間の映像だ。
山本拓海による日常的な暴力。
生きている意味を見失ったのだろう。
彼女は自分を殺そうとした。
「うーむ。彼女に非はないだろう。やはり生でいい。判決を出してやれ」
「はい。わかりました」
こうして彼女は生の判決を受け、現世に帰って行った。
ーー一体何が起きたのだろうか?
ゆう気は目覚めると、周りは白いカーテンで覆われていた。
少しずつ記憶を辿る。
屋上に行くまでの長い階段を上り、夜風に吹かれていた。その後、何が起きたのかは考えてもわからなかった。
「ーーどうですか?体調は?」
看護師がゆう気に聞いた。
「私、どうしてここにーー?」
「屋上から謝って落ちてしまったんですよ」
大介の事を不意に思い出した。
「ーーあ、彼はどうなんですか?」
「ーーもう大丈夫です。彼もあなたの事を待ってますよ」
看護師は笑った。
ーー良かった。また会えるんだ。
そう思ったら突然涙が溢れ出してくる。
「今から一緒の部屋に移動しましょうね」
看護師に連れられて、ゆう気は大介のいる病室に入っていった。
大介は座って外を見ていた。
「ーー大介?」
声が震えている。
「ーーゆう気、、やっと会えた」
大介の目には大粒の涙が溢れている。
「看護師さんに聞いても、ゆう気は来てないって言うし、、もう会えないんじゃないかと思って、、寂しかったよ、、」
大介はゆう気を抱き寄せる。
「ーー私も、、。もー離れないで」
二人は固く抱き合って、大介は優しいキスをした。
ーーもー二度と離れない。
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