chapter3 フチョウ攻略 ~ココちゃん編

act.11 ギルドマスターはレクチャーします

 前回のプレイベント期間中、参加したギルドメンバーの中で唯一、ただの一度も猫にならなかったクロウ。

 あれが本当にただの確率ならそれも仕方がない。

 いちプレイヤーにどうにか出来ることじゃないとわかっていても釈然としないものは残るんだけれど、終わったことをいっても仕方がないとも思う。

 思うんだけれど……一番納得してないのがクロウっていうのはどういうこと?

 ねぇ、ちょっとクロウ、何が気に入らなくてまた元のだんまりに戻っちゃうわけ?

 せっかくちょっとだけ喋るようになったと思ったのに……。

 ひょっとしてだけど、わたしが人間に戻ったのが気に入らないとか?


 まさか……よね?


 だってわたし、元々人間だし。

 これが本来の姿だし。

 それなのにわたしのこと、勝手にペット扱いして!

 わたしに言わせれば、クロウが一度も猫にならなかったことの方が面白くない。

 そんな化け猫屋敷イベントが終わって、運営からは


 【近く、大きなイベントを計画中!】


 そんな中途半端な公式発表アナウンスが出た。

 もちろん出るのは全然いいんだけれど、まだ計画中なの?

 近く大きなイベント開催予定とかだったらわかるんだけど、計画中ってなに?

 そんな中途半端な公式発表アナウンスなんて要らない。

 用意が出来てから告示して。

 変に期待を煽って、また化け猫屋敷みたいな半端さだったら怒るわよ。

 イベントを考えてくれてるってことはユーザーとして評価するけど、具体的な内容が告示されてから参加は検討することにして、今日はギルドメンバーのクエストのお手伝いをします。

 ココちゃんに頼まれてね。


「【フチョウ】 って、このあいだ行ったところですよね?」

「そそ、トール君がギルドに入ってすぐくらいに行ったところ」

「の~りんさんに案内してもらいました」


 ほんとトール君っていい子よね、礼儀正しくて。

 そんなトール君の要望リクエストなら、【フチョウ】 でも 【トチョウ】 でもOKです。

 なんなら全部わたしがやっつけてあげる! ……ということはもちろんしないけれど、【中部・東海エリア】 から 【フチョウ】 がある 【関西エリア】 に移動するあいだ、前から気になっていたことを訊いてみる。


「そういえば、トール君ってアギト君と知り合い?」


 仮想現実ゲームの世界では、自分から話すならともかく、現実世界リアルのこと聞き出してはいけないとか、触れてはいけないみたいな暗黙のルールがある。

 でもどうしても気になって訊いてしまうわたしに、クロエやクロウはいつもと変わらないんだけど、ココちゃんにはちょっと非難するような顔をされちゃった。

 ごめん、でもちょっと必要だったから。


「いえ、全然。

 あの日……えっと、初めてログインしてすぐに、【ナゴヤドーム】 で向こうから話しかけてきたんです。

 話した感じで慣れた人かと思って、誘われるままにダンジョンに行って……」


 その先はあの日、クロエから聞いた。

 でもその出会い方って、トール君を初心者と思って話しかけたってことじゃない?

 つまりアギト君はカモを探してたってこと?

 もちろんただの偶然ということもあるんだけれど、あのアギト君のことだから……そんなことを考えているうちにあの時のことを思い出して、またもやもやしてきたからアギト君自身のことは考えないことにする。


 実はトール君のこととは関係ないんだけど、あのあとアギト君を見掛けることがあって、ちょっと気になってセブン君と話したんだけど……


「アギト君?

 うちのギルドの新人さんだね。

 グレイさんの知り合い?」


 もうちょっと詳しく聞いてみたら、アギト君から 【鷹の目】 に加入申請があったらしい。

 わたしが 【鷹の目】 のことを訊きたがるのが珍しかったからか、セブン君は訊かれるままになんでも答えてくれたんだけど……


「ひょっとしてグレイさん、アギト君のことを気にしてるの?

 泣くぐらい嫌な思いしたのに、相変わらずお人好しだね」


 どうして知ってるのっ?!


 自分じゃ平静を装ったつもりだったのに、顔に出てたみたい。

 セブン君に同情されるとか……落ち込む……。


 誰よ、喋ったのは!


 このあと気になってギルドメンバーに鎌を掛けて回ったら、あの時いなかったメンバーまで話を知っていたっていうね。


 お喋り犯、許さん!


 もちろん見当はついている。

 誰かなんてきかずともしれているクロエね。

 他に誰がいるっていうのよ、人の恥ずかしい話を触れ回るなんて悪趣味が。

 あとでピエロの餌食になってもらおうかしら。


 でもアギト君、もうログインしてないんだって。

 【鷹の目】 は廃課金の廃装備ギルドだけど、廃人ギルドでもあるからとっくに切られちゃったって。

 トール君もフレンド登録してなかったから、今はもう連絡を取る手段もない。


「リア友だったら申し訳なかったなって思って。

 次の日から気まずくなっちゃうじゃない」


 それで現実世界リアルでの、トール君とアギト君の関係が気になったの。

 アギト君、最初からトール君のことを 「トール」 って親しげに呼んでたから余計に気になって。

 一応 【鷹の目】 にいたことも教えてあげたんだけど、やっぱりクロエは知ってたし。


「あそこは廃課金だし、廃装備もらえると思ったんじゃない?

 あの子の考えそうなことじゃん」


 なんて言ってるけど、あんた、余計なことまでセブン君に話しちゃったでしょ。

 主催者の恥までさらさないでよ。


「でも廃課金の連中ってさ、そもそもどうやってゲーム内通貨を稼いでるか知ってる?」


 課金装備がある分、装備を作るための素材集めに時間を費やす必要がない廃課金プレイヤーたち。

 でもアイテムの中には課金じゃ購入できないものもあって、どうしてもある程度ゲーム内通貨が必要になる。

 彼らは不要になった課金装備を、バザーや個人取引で売ることでゲーム内通貨を稼ぐっていう、どこまでも課金頼りのプレースタイルなの。


「だからさ、最初は物珍しさでちょっとはくれるんだろうけど、なんでもかんでもってわけにはいかないんじゃないかな?

 あの子、思い通りにならないとすぐに癇癪起こすから、そのうち相手にされなくなったんでしょ」


 セブン君からアギト君が 【鷹の目】 に入ったってきいて、うちでの経緯を話して、そういう性格だから心配はないってセブン君に助言したらしい。

 やっぱりクロエが喋ったんじゃない。

 絶対ピエロの餌食にしてやる!


「そういえばあいつ、色んなゲームやってきたっていってました。

 たぶん、今も別のゲームやってるんじゃないですか?」


 えっとトール君、それはあれかな?

 アギト君の一件を気にしてるわたしを慰めてくれてるのかな?

 だとしたら本当にいい子ね。

 クロエとは大違い……と思いつつじっとりと恨めしげにクロエを見てみたんだけど、わたしがセブン君と話したことも知ってたみたい。

 楽しそうに笑ってるし。


 ムカつく!


 八つ当たりよろしく、華奢なメイス装備で出てくるNPCを殴り倒す。

 文字通り殴り倒したんだけど、それを見て……って、【関西エリア】 に入ってからずっとそうだったんだけど、今更気がついたらしいトール君が驚いてる。

 えっと、いったい今まで何体倒してきたと思ってるの?

 今更驚くの? ……って、なにに驚いてるの?

 ごめん、そこがわかってなかった。


「グレイさん、メイス使えるんですか?」


 あ、そこ。

 そこですか。

 まぁ確かにメイスは打撃武器。

 魔法使いのわたしが使うのはちょっと珍しいのかもしれないけれど、理屈を考えれば全然驚くようなことじゃないの。


「使えるわよ」


 ちょっと自慢するようにメイスを軽く振ってみせる。

 だって理屈は簡単だもの。

 ちなみにこれはわたしに限らず、一緒にいる回復系魔法使いのココちゃんにも当てはまることなんだけど、打撃と斬撃は初期スキルだから。

 だいたい素手だと殴るしかないわけで、クロウやクロエも武器を外せば打撃です。


「そうなんですか?」

「そうなんです」

「実際トール君もさ、その剣の耐久がなくなったら殴るしかないわけでしょ」


 クロエが補足のつもりで言ってくれたんだと思うけど、それ、全然補足になってないから。

 剣士アタッカーは元々打撃と斬撃で戦ってるからね。


剣士アタッカーはその二つの初期スキルレベルを上げて、新たなスキルを取得して、ステータスをSTRメインに振っていくでしょ?

 魔型は初期スキル二種類を使ってレベルを上げて、ステータスをINTに振って最初の魔法ファイアーボールを取得。

 で、そこからINTメインにステータスを振って、同じように育成していくわけ。

 STRにステータスを振らないから威力がないだけで、打撃も斬撃も、使えばスキルレベルだけは上がるのよ」


 わたしなんてメイスを振り回すから、初期スキルのくせに打撃のスキルレベルだけは上がってるのよね、徐々にだけど……。

 当たり前の知識だと思ってたからこれまで説明したことなかったんだけど、トール君は本当に初めて知ったみたい。

 そんな顔をして驚いていた。

 ひょっとしたらこのゲームの初心者っていうだけじゃなく、VRMMORPGの初心者かもしれない。

 ちょっと注意してみておいたほうがいいのかな?

 大丈夫だとは思うけど、マメ二号になるのは可哀相だもんね。

 残念キャラ二人っていうのも、ギルドとしても重いもの。

 あれだけ面白いのはマメ一人で十分です。


 わたしの腹筋が崩壊


「そういえば、魔法も」

「うん、撃てるわよ」


 メイスのままファイアーボールを撃ってみせると、当たった食虫花が一瞬で炎に包まれる。

 この食虫花、どこからか蔓を伸ばしてきてプレイヤー足を引っかける。

 で、そのままズルズルと引っ張っていって、花の中に突っ込まれてがっぷり食われる。

 あえて言わなくてもわかるだろうけれど、いつもマメが食われてる。

 仕方ないからマメごと燃やしてあげるんだけど、今日はいないから見せられなくてごめんね。


「どういう仕組みなんですか???」

「んーとね、極論を言えば、武器なしで攻撃が出来ないのは銃士ガンナーだけかな」

「そうだね」


 銃士クロエが頷く。

 もちろん初期スキルの打撃と斬撃は持っているから、全くなにも出来ないわけじゃないけれど銃は撃てない。

 装備してないないからね。

 簡単な理屈だと思う。


「でも魔法は杖が撃ってるわけじゃなくて、魔法使いプレイヤーが撃ってるスキルだから杖がなくても撃てる」


 だから今、わたしはメイスでも撃てるってわけ。


魔法使いわたしたちが持ってる杖にしても、トール君やクロウが持ってる剣にしても……増幅器ブースター代わりみたいな感じ?

 スキルの威力を増幅ブーストするのが主な役割だと思う。

 攻撃に武装が必要なのはたぶん銃士ガンナーだけ」


 もちろん魔法にもINTが一定以上ないと発動しないとか条件はあるし、斬撃にもそういう条件はあると思う。

 特殊スキルの一部には特定の条件下でしか発動しないとか、武器依存スキルだってあるしね。

 でも絶対装備してなきゃ、職種クラス別スキルを一つも使えないわけじゃない。


「それって、銃士ガンナーは不利じゃないですか?」

「そうでもないのよ。

 大きな魔法ほど詠唱に時間がかかっちゃうから、断然銃士ガンナーのほうが攻撃速度アクションは速いし。

 でもスキルの発動条件が武器の装備。

 連射には装填時間クールタイムっていう二つの縛りがある」

「同じ遠距離攻撃といっても、銃士ガンナーのほうが断然射程も長いしね」

「ああ、それが一番の違いかもね。

 魔法使いは、遠距離っていうより中距離だもん」


 もちろん範囲魔法の中には、かなり広範囲に影響を及ぼすものもあるんだけど、まぁそれはこれからおいおい覚えてくれればいいかな。

 一気に詰め込んだってトール君も覚えられないでしょうし。

 そもそも剣士アタッカー志望だし。

 まずは剣士アタッカーとしてスキルを増やして、スキルレベル上げて、装備を調えるって感じかな?

 それでも十分やることてんこ盛り。


 楽しみね


「これ、大阪府庁ですよね?」


 廃墟と化したIインスタンスDダンジョン 【フチョウ】 を前にしてたったトール君は、その荒廃ぶりを見上げてちょっと顔を強ばらせている。

 確かにちょっと不気味だけど内部は愉快よ。

 今日はココちゃんのクエストとしてこの 【フチョウ】 をクリアします。

 ホームのナゴヤドームを出発する前、の~りんが 「一緒に行こうか?」 って声を掛けてくれたんだけど、の~りんはすでにこのクエストをクリアしている。

 まだのトール君を案内しておきたいことを話したら、クロウがいるとはいえ、魔型三人は辛いってことでの~りんは辞退。

 代わりにクロエが一緒に行ってくれることになった。

 の~りんはちょっと柔らかすぎるのよね、このあいだも言ったけど。


「モデルはそうね。

 でも内装は違うんじゃない?

 ダンジョンっぽく改装してあるわよ」


 【中部・東海エリア】 を出る前にパーティは組んである。

 だから主賓であるココちゃんが、ウィンドウを開いてクエストを選択するのを待って彼女を先頭に 【フチョウ】 に入る。

 まず入り口エントランスで出迎えてくれるのは曲芸中のアシカ……いや、トド?

 ひょっとしたらオットセイ?

 あれ、オットセイってどんなのだっけ???

 ん? んん? 待って、ごめんなさい。


 わたし、ヒレあしの区別がつかないっ!!

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