素敵なお茶会にようこそ! ~ギルドマスターは今日もギルドを運営します
藤瀬京祥
chapter1 素敵なお茶会にようこそ
act.1 ギルドマスターは営業します
今日も今日とてログインをするのはVRMMORPG 【the edge of twilight online】。
わたしはここで 【素敵なお茶会】 というギルドを主催しているんだけれど、MMORPGなんて色んな人がいるもんだから、色々と大変よね。
目下、わたしの悩みはギルドメンバーが増えないこと。
それこそ色んな人がいるから誰でもいいってわけにもいかないんだけれど、少なすぎても寂しすぎる。
はじめからぼっちギルドのつもりならいいんだけど、そういうつもりで作ったわけじゃないし、せっかくゲームをしているんだから皆でわいわい楽しくプレイしたいじゃない。
そう思っているんだけれど、これがなかなか難しいのよね。
このVRMMORPG 【
まだまだプレイヤーも少ないから仕方がないといえば仕方ないんだけれど、やっぱり楽しく遊びたい。
だから公式サイトの掲示板で、ギルドメンバー募集のトピックスにも書き込んでいるし、そのためのキャッチーなコピーも色々考えた。
エリアチャットでも、他の人の会話を邪魔しない程度に独り言を装って勧誘というか、宣伝をしていたら、通りすがりのプレイヤーに 「うるさい」 と怒られた。
ちゃんと音量というか、声量っていうの?
配慮したのに、思い出しても腹が立つ。
頑張って考えたコピーも、ギルドメンバーには不評だったし……
「アールグレイ、
アールグレイっていうのがわたしのアバター名。
わたしはギルドメンバーや登録してくれているフレンドに、ログインを知らせる自動表示システムを切っているから自己申告。
周囲に顔見知りは誰もいないんだけれど、片耳にセットしたインカムから、ログインしているメンバーの挨拶が返ってくる。
『グレイさん、こんー』
『グレイさん、こん』
『こんにちは』
うちのギルドは挨拶必須にしているから、自動表示システムでログインが表示されても挨拶はすることになっている。
その挨拶に混じって、わたしに話し掛けてくるメンバーがいる。
『グレイさん、さっきセブン君が探してたよ』
「セブン君が?
どこで?」
『わからない。
そうだなぁ……五分くらい前かな?』
「わかった、ありがとう」
どうやら何人かでパーティを組んで、どこかのダンジョンに潜っているらしい。
集中したいならパーティチャットに切り替えて話すだろうから、おそらくお遊びか、素材集めか。
インカムからは、メンバーたちの楽しそうな会話がだだ漏れしている。
もちろん楽しく過ごしてくれているのなら結構。
わたし自身はあとで混ぜてもらうとして、とりあえずセブン君と連絡を取ってみる。
ウインドウを開いて、インカムを
別に開いたフレンドリストから 【ラッキーセブン】 を選択する。
でもコールしようと思ったら……
「グレイさん、
中央広場にある噴水に腰掛けてウィンドウを広げてたんだけど、向こうから近づいてくる男女が手を上げて 「やっ」 とか挨拶してくるじゃない。
自動表示を切るとギルドメンバーリストはもちろん、フレンドリストでもログイン状況は表示されない。
当然だけれど居場所も表示されない。
一応わたしが自動表示を切っているのには理由があるんだけれど、まずはセブン君の話を聞こうと思う。
たぶん、わざわざ探しに来てくれたと思うし。
「丁度よかった、いまセブン君を呼び出そうと思っていたところ」
サラッサラの黒髪をした中性的なこのプレイヤーは、ラッキーセブンという男性プレイヤー。
だけど見た目はちょっと男か女かわからない中性的な美人なんだけれど……ううん、そうでもないわ。
だって胸がぺったんこだもの。
全然わたしのほうが勝ってるわ……って、男の人を相手に、わたしはなにを言ってるのかしら?
セブン君はギルドメンバーじゃなくて、ギルド 【鷹の目】 の
向こうもわたしのことを 「グレイさん」 って呼んでるけれど。
「さっきカニやんに訊いたらまだ
ストーカーですか?
カニやんっていうのはうちのギルドメンバーで、さっきセブン君のことを教えてくれた声の主。
りりか様っていうのはやっぱりうちのギルドメンバーで、この広場の近くに店舗兼倉庫を構えている生産職。
どうやらその店舗に寄ったらしい。
もう、りりか様ったら口が軽いんだから。
これからは教えないように言っておかなきゃ。
ちなみに「りりか様」がアバター名で、わたしもセブン君も、好きで彼女を様付けしてるわけじゃない。
「様」 までが彼女のアバター名だから。
わたしは必要のないウインドウを閉じ、セブン君を見る。
「何かあった?」
「グレイさんのところにナオキって子がいるよね?」
「うん、新人君。
まだお試し期間だけど、ナオキ君がどうかした?」
「それがね、うちのギルメンに喧嘩売ってきてさ」
セブン君の話を要約すると、双方が好き勝手を言うから喧嘩の原因はわからないんだけど、うちのお試し新人のナオキ君が、【
「俺は 【素敵なお茶会】 のメンバーなんだぞ!
うちのマスターがあの灰色の魔女って知ってるか?」
なんて恫喝めいたことを言ったらしい。
他のメンバーに呼ばれたセブン君はその少し前から仲裁に入っていて……つまりその発言の場に居合わせ、自分の耳で聞いたっていうからまず間違いない。
正直、気分のいいことじゃないし、ギルドの印象も悪くなる。
それでわざわざ忠告に来てくれたってわけ。
焼いてもいい?
もちろんナオキ君を、よ。
ここでセブン君を焼いてもただの八つ当たりだしね。
しかもセブン君は、火力だけなら結構な重火力なのよ。
というか、かなりの重火力なのよ。
正面切ってやり合うには、ちょーっと面倒臭いのよねぇ。
この話では 【鷹の目】 のメンバーがどんな挑発をしたのかはわからないけれど、
だから素直に謝ります。
「ごめん、正式加入はちょっと考えるわ」
「いえ、うちのギルドもちょっとあれだから、よそのことは言えないんだけどね」
わたしが素直に謝れば、セブン君も、ちょっと申し訳なさそうに苦笑い。
まぁ確かに【鷹の目】もあれなのよ。
わかりやすく言えば廃課金の廃人ギルド。
それなりに強いメンバーが多いんだけれど、結構な性悪が……ゲフゲフ……なんでもありません。
うん、まぁ口とか、その、色々と悪いというか。
そんなギルドの
わからないものね
まぁ今回のことは個人同士の喧嘩だし、ギルドとしては特に何かをする必要もない。
ナオキ君が恫喝みたいな真似をしなければ、セブン君だって気にすることもなかったわけだし、お互いに
「セブン」
「や、クロウさん」
背中に大きな剣を担いだ大男が来ちゃった。
この赤毛の男性プレイヤーはクロウっていううちのメンバーで、2メートルくらい身長があって、細身のくせにやたらでっかい剣を背中に担いでいる。
大剣装備ね。
わたしのログインを知ってここに来たんだろうけど、セブン君がナオキ君のことを話しちゃったのは余計だった。
話を聞き終えたと思ったら、おもむろに自分のウィンドウを開いてなにやらポチりだす。
背が高すぎて、すぐ近くにいてもわたしには手元が見えないんだけれど、丁度わたしもウィンドウを開いてギルドメンバーリストを見ていたんだけど……ナオキ君の位置情報を確認しようと思ってね。
すると不意に、そのウィンドウの上にインフォメーションが出る。
information ナオキ がギルドを脱退しました
「ちょっとクロウ、なにやってんのよ!」
思わず大きな声を出しちゃったじゃない!
新たなメンバーの加入には方法が二つあって、その一つが加入希望者から出された申請をギルド側が受理するというもの。
但し受理は権限を持つプレイヤーにしか出来なくて、その権限を持つのは
脱退にも方法が二つあって、その一つとして
ギルド脱退の表示は一律 「脱退しました」 となっていて、本人の自由意志なのか、ギルド側が強制退会にしたのかわからないようになっているんだけど、今のは絶対にクロウの仕業でしょ?
疑う余地なんてないじゃない。
それなのにクロウったら、いつもの表情乏しい顔のまんま。
「どうせお前には切れないだろうから、代わりに切ってやっただけだが?」
「そうじゃなくて、普通は切る前に本人と話さない?
ちゃんと正式メンバーに出来ない理由とか、説明しない?
するわよね?」
「必要ない」
あぁ~
もう、これで何回目よ?
嘆くわたしに同情しながらも、セブン君は 【
『グレイさん、今メンバー消えたけど?』
『なんかあったのー?』
気づいたメンバーが、インカムを通して声を掛けてくる。
うん? 今のクロウの話、聞いてなかったの? ……って思ったらクロウ、インカム外してるし。
インカムどころか、いつものかっこいい
「ちょっとクロウ、装備一式は?」
「りりかに預けてきた」
先程も出て来たけれど、【素敵なお茶会】 に所属する生産職、りりか様のお店はこの近くにある。
わたしを回収しに来るついでに、りりか様のお店に装備一式を
でも剣だけは出し忘れたのか、背負ったまま。
いや、装備外すのに背中の剣は一度下ろさないと駄目か。
出し忘れじゃないわね。
「インカムはしておきなさいよ、運営からチェックされても知らないわよ」
「はじめから外れないようにしておけばいいだろう」
言いたいこともわかるけれど、ただのMMORPGならともかく、VRMMORPGでそこまでアバターに自由度がないと面白くないと思うのよね。
だから外せる仕様ではあるけれど、外しちゃいけないと思う。
面倒くさがりながらも一応掛けてくれたけれど、クロウだけ外れない仕様にしてくれないかしら?
『クロウさんが何かしたんだ』
今まで声がしなかったから、てっきりログインしていないと思っていたクロエの声が聞こえてくる。
クロウと同じ、三人いる
「よくおわかりで」
『僕、思うんだけど、今日
「なに、その消えてたメンバーって?」
心当たりがなくてウインドウを開いてみたんだけど、確かにメンバーリストから、ナオキ君以外にもう一人減ってるじゃない!
でもクロウを見上げてみれば、いつもの表情乏しい顔のまま。
まるで割れ関せずって顔をしてるんだけれど、間違いないわよね?
「これはどういうこと?」
「活動しないメンバーを置いておく必要はない」
やっぱり……
だからちゃんとクロウには説明したのよ!
前にも同じことをやられたから!
一週間ログインしなかったらメッセージを送って、それでも一週間ログインがなかったらメンバー解除通告を送り、その翌日に解除するってちゃんと説明したのに!
だって人間色々あるじゃない。
急に仕事が忙しくなってログインできなくなったとかさ。
だから二週間くらい猶予を置くって説明したのにこれだもの。
誰が
人がせっかくギルドを大きくしようと思って営業してるのに、お試し期間もへったくれもなく切っていくんだから!
そりゃログインしないとか問題行動とかやってくれちゃってるわけだけど、いきなり切るのはなしでしょ?
それは人としてどうかと思う。
あとでナオキ君、探して話さなきゃ。
「誰かナオキ君とフレンド登録してない?」
『してません』
『会ったこともないし』
律儀に返事をしてくれるメンバーたちだけれど、その内容は芳しくないものばかり。
これはナオキ君を見つけるの、大変かも……。
『グレイさんの営業努力も、クロウさんには蚊に刺されたほどもないんじゃない?』
「斬られたいか?」
なるほど。
いつでもどこでも誰でも斬れるように、剣だけは
でも剣だって耐久があるから、そんなに斬りまくったら耐久削れるから。
しかもクロエはかなり固いから、耐久の削れた剣で迂闊に斬ったら剣が折れるかも。
そのぐらい固いかも……。
『怖い怖い。
そんな可哀相なグレイさんに朗報』
「なになに?」
ちょっと期待していたら、わたしの居場所を聞いてきた。
「現在地?
ナゴヤドームの中央広場」
そう、ここは 【中部・東海エリア】 にある 【ナゴヤドーム】 の中。
見回した景色は広い広場なんだけど、頭上高くには天井があって建物の中だとわかる。
このゲームのスタート地点でもある安全地帯で、ここを拠点にして活動しているギルドがほとんど。
もちろんうちのギルドもここをホームにしている。
だからわたしもここにいたんだけど、クロエも口が減らなくて。
『いつもの場所でクロウさんとデート中?』
「え? ちょ、待って、急になに?」
そんな切り返しをしてくるとは思わなくて、驚くというか、狼狽えてしまった。
『ちょっと移動に時間がかかりそうなんだけど、待ってて。
そっち行くから』
インカムの向こうで誰かと話しているような気配がある。
ギルドチャットに参加していないということは……そう考えてちらりとクロウを見上げたら、わかってくれたみたいで大きく頷かれた。
「いいわ、そこで待ってて。
りりか様の店に寄ってクロウの装備を回収してから行くわ」
わたしはウィンドウを閉じると、先に歩き出したクロウを追いかけた。
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