第57話 試験の結果

「何よそれー。こんなにあっさり倒せちゃうなんて」

「今まで一度もティアが魔法を放っていなかったから、向こうも警戒していなかったんだろうな」


 シェスの魔法が回り込んで来そうな時は、骸骨王スケルトンキングは必ずシールドや盾を使っていた。


 ティアが魔法を見せていたら、今の攻撃も警戒して防がれていただろう。


「それにしたって……。――っていうか、あんた、核があるって黙ってたわね!?」

「核があるのなんて当たり前だろう。骸骨王スケルトンキングなんだから」

「そうだけど! あたしたちが頭を狙ってたのに気づいてたのに、なんか言ってくれたって……!」

「勝手に勘違いしたのはお前らだろ」

「くっ……!」

「……先入観」

「わたくしも完全に思い込んでいましたわ」


 ティアとシェスはやれやれと溜め息をつき、レナは悔しそうに床を拳でガツンガツンと叩いた。


「でもまあ、とにかくあたしたちは自力で第十階層のボスを倒したのよね。これで正真正銘の第十階層踏破者シルバーだわ」

「ええ!」

「……うん」

「それで――」


 レナが立ち上がった。


「どうなの?」

「何がだ?」

「試験の結果よ!」


 うんうん、とティアとシェスも大きくうなずきながら俺を真剣な顔で見る。三人とも体の前で両手を固く握っていた。


 ああ、試験な。


「それは家に帰ってからだ。帰るまでがダンジョン攻略だぞ。だから今の発言は減点だな」


 ボスを倒したり階層を攻略したりして喜ぶのはわかるし、前回の帰りで俺が先導してしまったのもよくなかったが、無事に地上に戻って来てこその冒険者だ。いくら深く潜れたとしても、戻れなければなんの意味もない。


 三人はがーんとショックを受けたあと、がっくしと肩を落としていた。動作がそっくりだ。チームワークは抜群。加点はしないけどな。



 * * * * *



 行きで全部屋を回ってモンスターを掃討したのもあって、帰りはほぼモンスターと遭遇することなく、俺たちは二日かけて地上まで戻ってきた。


 ギルドで帰還の報告を終えた頃には、夕食にしてはやや遅い時間帯だった。


「とりあえず飯行くか」

「……無理」

「帰るわよ」


 ティアとレナに両腕を抱えられ、ぐいぐいと自宅の方向へと引っ張られる。


「おいおい、飯食わないのか? 干し肉じゃない地上の飯だぞ? 俺は腹が減ってるんだが」


 その場に留まろうとした俺の背中を、シェスが両手で押す。


「先に試験の結果をお聞きしないと、食事が喉を通りそうにありません」


 なるほどそういうことか。それならば仕方がないな。


 俺は引きずられ押されるままに自宅へと向かった。




 玄関に入った途端、三人に詰め寄られた。


「で?」

「……結果」

「不合格なら不合格で早く楽にさせて下さいませ」


 荷物くらい置かせて欲しかったが、それだけこいつらにとっては大事なことなんだろう。


 俺は、えへん、と咳払いをした。


「道中の油断もあったし、ボス戦は思い込みによる作戦ミスで長期戦化。それでも相手の防御を上回る攻撃ができればよかったが、できずに防御を打ち破る事はできなかった。最後のティアの不意打ちが上手くいったからいいものの、あれを防がれていたらさらに長引いただろうな」


 俺のダメ出しで、三人の顔が曇っていく。


「そうなった時の勝てるイメージはあるか?」


 三人は答えない。


 それぞれが何かを言おうと口を開けるが、声になることはなかった。


 俺の見立てでは、フロア内のモンスターの倒し方も悪くないし、女王蜘蛛クイーンアラクネを相手にあれだけ耐えたこいつらなら、十分骸骨王スケルトンキングを倒せるはずだ。


 今回は、最初に変な勘違いをしたのもあって、型にまりすぎた攻撃になっていた。いつも通りに連携攻撃をしていれば、容易にとはいかなくとも、それほど苦労することなく勝てる相手だ。


 だが、不意打ちの攻撃で仕留めてしまったがばかりに、こいつらは骸骨王スケルトンキングに勝てるイメージが逆に持てなくなってしまったんだろう。


 別に毎回不意打ちで倒せるならそれでもいいんだが。シグルドなんて覚醒前にぶち殺すくらいだし。


「なら次やっても同じだろうな。ずるずると戦闘が長期化して、アイテムを大量に消費した末にぎりぎり粘り勝ちするのがせいぜいだ」


 ティアは耳をぺたんと伏せ、レナは唇をぐっと噛みしめ、シェスは眉を下げてうつむいた。


「不合格ってことよね」

「ではわたくしたちは、また第五階層までの訓練をすればいいのでしょうか?」

「……次」

「ええ、次の試験がいつなのか教えて。それまでに骸骨王スケルトンキングを倒せるようになっておくから」

「誰が不合格と言った?」

「「「え?」」」


 三人がぱっと顔を上げる。


「試験は合格だ。試験中の油断はあったがさすがにもうしないだろ。お前ら三人だけで第十階層まで行っても問題ないと判断した」

「いいの!?」

「ああ。第六階層から下の地図の作成が次の課題だ」

「……やった」

「嬉しいです!」


 三人が互いに抱き締め合って喜びを表現する。


 と、ぴこぴこと耳を動かし尻尾を振っていたティアが、顔をこちらに向けた。


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