第38話 異変の報告
「あ、あ、あ……」
いや、言葉になっていないから、まだ回復はしていないんだろうか。
シェスとティアも、よろよろと体を起こした。三人で地面にぺたりと座り込んでいる。
ファイヤ・ボールくらいなら抑えられるんだが、レベルの高い魔法を唱えるとどうしてもあふれ出てしまう。
「 ……
「
「あ、あ、あ、あんたが! なんで!?」
お、喋れるようになったか。
「まあ、そういうことだ」
「そういうこと……って、どういうことよ!?」
どうもこうもないだろ。そういうことだっての。
「まさか
「……びっくり」
「驚くなんてレベルじゃないわよ! 紅の魔法使い様がこいつ!? こいつなの!?」
レナが俺をビシビシと指差す。
だから人を指差すな。
「わたくしは、クロトさんが
「……同意」
「百歩譲ってそれはいいわよ! 剣士だもの! でも、剣士で魔法使いだなんてことある!?」
「……あった」
「ですわね。あれだけの魔力ですし、伝説級の魔法を使うのですもの。紅の魔法使いの二つ名に
「そっ、そうだけど! そうだけどっ!」
ティアとシェスは案外あっさりと受け入れたようだが、レナは受け入れがたいようだった。
「私の、私の中の紅の魔法使い様のイメージが……」
レナが両手で顔を覆った。
悪かったな、すらっとした
「そろそろいいか。お前ら
「はっ! そうだったわ! 第十一階層まで行かなくちゃ!」
「そうですわね」
「……行く」
三人はぱっと立ち上がった。
いつの間にやら部屋の中央には穴が開いていて、階下へと続く階段があった。
そこを降り、突き当たりの扉を開ける。
これまでの階層とは違い、ここは床が地面になっている。壁と天井は一面ツタで覆われていた。
モンスターが居ないことを確認して、レナが恐る恐る第十一階層の地面に一歩踏み出した。
そこにシェスが続き、ティアがぴょんっと跳び降りる。
三人とも胸元からタグを取り出した。
「やった! やったわ! 私たち、
「……感動」
「わたくし、涙が出そうですわ」
三人は抱き合って喜び合った。
「喜んでいる所、悪いんだが――」
「だからあんたはなんでそう、空気を読まないのよ!」
「悪いが急いで戻りたい。クイーンアラクネのことをギルドに報告しないとならないからな」
「そうだったわ。無事に戻ってこその称号よね」
「そうですわね」
「……頑張る」
真剣な顔で三人は気を引き締めていた。
「これまた意気込んでいる所悪いが、帰りは俺が先導する。警戒しながら進んでいる暇はない」
「それでは、自力踏破とは言えないのではないでしょうか。わたくしたちはあくまでも自力踏破を目指しているのです。結局、ボスは倒せませんでしたが……」
「そうか。なら、後からゆっくり来い。俺は先に行くから」
「え!?」
じゃあな、と俺は片手を上げて剣を抜き、身体強化をした。
こいつらにはもうバレたから、遠慮なく全開にする。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「……待って」
「待って下さい」
三人が俺の上着をつかんだ。
「ああ、契約は俺から
報告のための致し方ない解約なわけだから、ギルドがもってくれるだろう。
「そうじゃなくて! 行くわよ! あたしたちもついて行くわ!」
「……行く」
「ええ、行きますわ」
「そうか」
俺はオーラを抑えた。全力を出すといつらを振り切ってしまう。
一応案内人だからな。来るっていうなら仕方ない。
「じゃあ、まずはお前らの荷物を取りに休憩部屋に行くとするか」
階段を駆け上がる。
「ちょっ」
「……速い」
「途中の安全は俺が確認するから、とにかく走ってこい。特にシェス、頑張れよ」
シェスは身体強化ができないから、俺についてくるのは大変だろう。
それでも急いでもらうぞ。これが最大限の譲歩だ。
* * * * *
「――というわけだ」
あの後、俺たちはダッシュで地上まで戻った。
俺が先導し、運悪く立ち
身の
「なるほどね」
冒険者ギルドの二階の一室。そのソファで向かい合って座っているのは、亜麻色の長い髪を一本の三つ編みにし、眼鏡をかけた
一見ひ弱そうに見えるが、これでも
俺は今、そいつに今回のダンジョンの異常について報告したところだった。
「で、
「その名前で呼ぶのはやめろ。変な二つ名をつけやがって」
「我ながらいいネーミングだと思うけど? 黒いオーラをまとい、
俺はうんざりとした視線を向けた。
もう一回殴りかかってみようか。
「では別の呼び方をしよう。――
「そっちもやめろ」
「最高難度の魔法を軽々と扱う魔法使い。あふれた膨大な魔力はさながら炎のごとく――」
「だからやめろって。魔力制御が下手なだけだって何度も言ってるだろ」
制御できずに魔力を垂れ流して無駄に消費しているのだから、不名誉でしかない。
くすりとシグルドは笑った。
「それでは、
俺はため息をついた。
気取った言い方は気に食わないが、その称号は真実だから文句は言えない。
「大厄災の前兆――と考えるべきだと思う」
「そうか」
シグルドは一転深刻な顔をして腕を組み、ソファに深くもたれて天井を
「大厄災の
「俺だって混乱している。あまりにも早すぎるからな。
「そうであって欲しいと願うけどね。
やれやれ、とシグルドが頭を振る。
「それじゃ、俺は帰って寝るわ」
「ああ、情報助かった」
立ち上がり、ごきごきと首を鳴らす。腹が減っているが、それより今は眠い。身体強化も魔法も疲れる。帰りも走りっぱなしだったしな。
「見返りはいつものようにしてくれ。今回の案内人としての報酬も」
「……もう、いいと思うけどね。君は十分に
「それじゃあ俺の気が済まないんだ。俺が今こうして生きていられるのは、あの人のお陰だから」
よろしく、とシグルドに手を挙げて、俺はギルド長室を出た。
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