発見
「おや? エスリンにアスラムに、他に大勢連れてどうしたんだい? こんな夜に騒いで来れば、子供達が起きちゃうじゃないか」
夫のフラミーは優しそうな表情で平然と言っていますが、隣の女の子はその言葉にすら怯えています。
「やぁ、フラミーさん。君が教会の孤児院で浮気をしていると聞いてね。調査をしに来たんだ」
「浮気って……神父さん、そんな事をする訳ないじゃないですか。私はただ、子供達を愛しているだけですよ」
「それはこれから調べて判断するよ。さぁ、少し大人しくしててくれ、いいな?」
そしてフラミーは衛兵に囲まれて、孤児院の調査が始まります。
最初は衛兵の人に抗議していたフラミーも、捜査の邪魔をしたら逮捕するぞと言われ大人しくなりました。
「自分は無実だ! 浮気なんてしてないぞ!」なんて言葉、箱の事を聞かれてよく言えますね。
私だったら恥ずかしくて、そんな言葉は口が裂けても言えません。
そうして捜査が開始され、孤児院を衛兵が見て回ってると子供達が物珍しそうに起きてきました。
「ねぇ、どうして今日は大人の人がいっぱいいるの?」「今日は養子の日なの?」
子供達は口々に私達が何をしに来たのか、不安と期待に溢れた妙な表情をしています。
不思議な事に、私達の所へ来たほぼ全員が養子の事を期待する様に話していました。
孤児院の子供達と言うのは、そんなにも養子を期待するのでしょうか?
「君達、今日は養子の話じゃないんだ。だから部屋に入って寝ていてくれるかい?」
調査をしている所に来た子供達を部屋に帰そうとフラミーは言いますが、それでも子供達の話は止まりません。
そして子供達の内、一人が私の所へやって来て必死な顔をしながら懇願してきました。
「ねぇ、お姉さん。良かったら、僕を養子にしてくれませんか? お願いです、何でも言う事を聞きますから」
「……えぇと、私は別に養子を取りに来た訳じゃないのよ。ちょっとここに用事があってね、それだけよ」
私はそう言って私の所に来た子供を追い返そうとしますが、子供は涙を流してでも留まろうとします。
「……お願い! 大人しくするし、何でも言う事を聞くから! だから僕を養子にして! ここから連れて行って!」
必死の懇願は涙で声が詰まりながらも続き、私にしがみ付いてでも孤児院にいたくないと言っています。
気付けば、他の子供達も口々に近くの衛兵の皆さんへ養子にしてと言っています。
そんな奇妙で恐ろし気な光景は、フラミーの一言であっという間に静まり返りました。
「みんな、今日は夜も遅いからね。早く寝ないと一人一人、”指導”する事になるよ」
フラミーは満面の笑みでそう言ってますが、私にはその表情が余計に恐ろしく見えます。
特に、優しく言った筈の”指導”という言葉で身体をビクッと震わせる様子は、恐怖で寒気すらしてきました。
子供達もフラミーの言葉に脅え、縮こまりながら寝室へと戻っていきました。
少しばかり騒ぎにはなりましたが、落ち着き始めた様子を見て衛兵の皆さんは再び孤児院を調査し始めます。
あちらこちらを見て回り、それでも浮気の証拠は見つからず、次第にアスラムは焦りの表情を浮かべています。
「もう少し詳しく調べたい所だが、これ以上はきちんとした手続きがないと……」
そう独り言を呟いたアスラムは、拳を握り締めながら悔しそうにしていました。
それでも証拠は見つからず、私もこのままじっとしているのも我慢できません。
「アスラム、私も調査を手伝っていいかしら? このまま黙って見てても解決しないし」
「いいのか? ……まぁ、私達だけではこれ以上の調査は出来ないしな。分かった、許可しよう」
有難い事に快くアスラムは許可をしてくれ、私も調査に加わる事となりました。
とは言っても既に孤児院は粗方、調べあげられています。
私が見て回った所で何も見つからないかも……そう思いながら辺りを見て回ると、ふと、本棚が目につきました。
よく見ると本棚の下には微かながら動かされた跡があり、私は近くの衛兵を呼んで本棚を動かして貰いました。
手伝ってくれた衛兵の方は本棚の後ろも調べたけど何もなかったと言いましたが、それでもこの本棚は妙に大き過ぎます。
何とか本棚を完全にどかして貰い、そこをしっかりと確認すると……僅かながら床の色が少し違う事に気が付きました。
そして……ひっそりと隠された取っ手も。
「確かに、本棚の後ろには何もなかったわね。本棚の後ろにはだけど」
「……えぇと、これはたまたま気付かなくて……困りましたね、これは」
本棚の周りを調査していた衛兵は、そう言いながら傍を離れ……孤児院の扉まで走り出しました。
突然の事に頭が追い付かず、逃げるに任せるしか出来なかったのですが、何とかアスラムが身を挺して止めてくれました。
「アスラム、大丈夫!?」
「あぁ、大丈夫だ。……全く、これは思ったより大事になってきたな。まさか私の部下までもが事件に絡んでいるなんて」
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