side高崎明翔3 柳龍二のその後の経過
朝、教室に入ると柳龍二が女子に囲まれ談笑している。
柳って、なんであんなにモテるのに彼女できないんだろう? もしかして、あれモテてるのとは違うのかな。
「おはよう、高崎くん」
「おはよー、柳! あ、ギプス取れたの?」
「うん、もう完治だよ」
「約1カ月か。全治2か月って言われてたのに、ずいぶん早かったね」
「骨折したらどうしたらいいのか、細部に渡りデータを集めて実践していたからね」
もう伊達メガネはしていないのに、メガネを上げるクセだけは残ってしまっている。
「でも、モテるためにメガネはいらなかったみたいだな。メガネしなくなっても特に変わりないじゃん」
「むしろ、メガネしてない方がモテるようになった。ほら、僕って目がキレイでチャームポイントなのにメガネに隔てられてたようだね」
「データだけに頼っちゃダメなんだな」
「そうだね。僕の良さをデータに侵食されていた」
メッセージの受信音がし、柳がスマホをポケットから取り出す。
「あ、
「おー、良かったじゃん。これで万事解決だな!」
「おはよう。片山くんって誰?」
声に振り向くと、黒岩くんが登校してきてカバンを置きながら尋ねている。
「柳が殴り飛ばして病院送りにした男子高の子。頭打ってたから、念のため1か月後に再検査って言われてたんだけど、異常なしだって」
「ああ。そうか、何事もなくて良かったね。被害者と加害者が個人的に連絡取ってたんだ?」
「僕だって被害者だよ。一方的に襲われたんだよ。自己防衛の結果だから、被害届を出されたりなんかもしていない」
「火事場の馬鹿力ってヤツかねえ。柳の手の骨が粉砕するほどの力だったんだもんね」
「そうだね。ほとんど記憶にもないから必死だったんだと思う。いきなりこの顔を殴られて、一生残る傷が付いたり歯が折れて口元にゆがみが出たりしてはいけないと思って」
「大丈夫、キレイな顔を保っているよ、柳くん。本当に僕なんかでいいのかなって思うくらいに」
「何を言ってるんだい、黒岩くん。いいに決まってるだろ。君はもっと自分に自信を持つべきだよ」
「柳くん……」
「何がいいの?」
分からないから聞いただけなのに、柳と黒岩くんが赤くなって慌てている。
「お前は本当に素直でストレートだな。邪魔してないでこっち来い、明翔」
「え? 邪魔? あ! おはよう、深月!」
いつの間にか来ていた深月が俺の頭に大きな手を乗せ、俺たちの席を指差している。
深月がこっち来いだって! 引っ張ってくれるところもいい。
「こういう強引なとこも好き」
「えっ……だって、そりゃ、お前が意図せず邪魔してるから」
「邪魔って?」
「見てごらん、明翔くん。楽しそうだろ」
柳の完治した右手を黒岩くんが両手で包み込んで笑い合っている。
「うん」
「そーいうことだよ」
「どういうこと?」
「明翔、頭はいいのにこういうの鈍いんだよなあ」
鈍い? 俺が?
わけが分からず首をかしげる俺を見て、深月が笑った。
「ま、まあ、なんだ。お前のそういうとこ、かわいい」
「え?!」
普段は声が大きいくせに、めちゃくちゃ小さい声だったけど、俺には聞こえた!
「もっと大きい声で言ってよー。なんでご褒美ボイスがそんな小さい声なのー」
「ご褒美ボイスって何だよ。もー、やめて、明翔!」
深月が困り顔になった。照れ屋の深月がほめてくれた! 超うれしい!
「そういや黒岩くんって、前はちょこちょこ高崎くん好きだぁーって叫んでたけど、最近なくなったなあ」
「は? 黒岩くん、そんなことしてたの?」
「あ、言われてみると深月がいない時ばっかだったかも。廊下で深月待ってた時とか」
「へえー、黒岩くんたら俺のいねえ所でそんなこと言ってたんだ?」
深月が立ち上がって黒岩くんの方へ行こうとする。そのシャツの裾をつかむ。
「邪魔しちゃダメなんでしょ、深月」
微笑む俺と対照的に苦り切った表情を見せる。うーん、と考えて、
「明翔にまるで響いてねえから許してやるか」
と大きな手で頭をポンポンしてくる。
「何を許すの?」
「まったく、お前は」
お前は何? って何回聞いても教えてくれないけど、深月が楽しそうで俺も楽しくなっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます