第80話
ロジカが仲間たちの元へと加わると、ヴィンセントは腰の備えた殺戮の道具を再び鞘から抜き放って、真っ先に目が合った仲間の一人に目配せした。彼女の腕が鋭く上空を往復して、それを見ていた他のブルーカラー達は追い立てられたかのように素早く行動した。自分たちにはまだやらねばならぬことが山ほどある。仲間の救出、地上へ続く通路の確保、補給品の解放と分配、子供や負傷者の避難と隔離、地上に潜伏する仲間達への伝令、武器の調達。これから、自らに課せられた使命を全うするヴィンセントを見守り、いざとなれば助けるという発想は彼等には無かった。
・・・・めしっ・・・!・・・みしっ・・・・!
辺りに人影は一つもなかった。
踏み鳴らされた故郷は、所々で出血し、悲鳴を上げているような気がした。それは、気のせいではなかったのかもしれない。
いつも見ている風景というものは、ほんの些細な違いであっても気が付いてしまうのだ。それが、目に見えない変化であっても。
「・・・」
ヴィンセントは、遠くで聞こえる仲間たちの悲鳴や破壊音に聴力を研ぎ澄ませた。するとやはり、音の伝わり方に違和感を覚えた。
・・・・めしっ!!!・・・・みしっ!!!
「
一閃。十分な
メシッ!!ミシッ!!!
クルードの居住プレートが軋む音と殆ど同時に、ヴィンセントの体は、重力を軽々と
彼は瓦礫の山に叩きつけられて、堆積していた灰や塵や埃が再び巻き上がる。その中で、待った。もし、自分が相手と同じ立場なら必ず止めを刺しに行くはずだ。
メシッ!!!ミシッ!!
「・・・ほうら来たぞ?」
年老いたブルーカラーの男は、いつものように、抑えきれない感情に身を任せて微笑んだ。相手が無防備になり、わざわざ此方の間合いまで寄って来るこの瞬間。
一閃!
ミシッ!!!
「・・・ッ!」
とはならなかった。利き腕が、折れていたのだ。
顔も見せぬ臆病者め。
ヴィンセントは、この時も微笑まずにはいられなかった。
赤く、熱い物が降り注ぎ、彼は、これが雨なのだと思った。走馬灯の裏で鈍化する現実の姿はまさしく武の極致、あれほど望んでいたはずの死が訪れる今際に立ちながらも、体が見せる景色はまだまだ生きろと言っているかのようだ。笑いが止まらい程に愉快な気持ちだ。全く見えていなかった臆病者どもが熱い火花の雨によって姿を暴かれ困惑しているではないか!
エクスプロイターの火花と共に天から舞い降りる天使に、ヴィンセントは刃を与えた。
空中で覗いた刃が獰猛な青白い光を放つ。
着地と同時に、敵が地上に降りたばかりの天使の姿を捕えて打撃を放った。
にもかかわらず、当の天使は身体を縮めてまるで無防備だ。
メシッ‼‼‼‼‼
「・・・そうだヨナ。それでいい」
一閃!!
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