3-11. 兄弟の再会

 ヴィクトルたちはそのままユーベの街へと降りていった。

 宵闇にほのかに明かりの灯る街は、王都に比べたらこぢんまりとしているが、それでも温かい灯りが一年ぶりのヴィクトルの帰郷を歓迎しているようにも見えた。

 シールドを解き、二人はヴィクトルの実家であるヴュスト家の屋敷にそっと近づいた。 木造三階建ての屋敷は、派手さはないが重厚な造りで年季を感じさせる。

 ヴィクトルは次男のルイーズの部屋を探し、窓を叩いた……。

 ルイーズはいぶかしげにカーテンを開き、ヴィクトルが手を振っているのを見て驚いて窓を開けた。

「ヴィ、ヴィクトルじゃないか!」

 ルイーズは今にも泣きだしそうな顔で言う。

「兄さん久しぶり。今ちょっといいかな?」

「もちろん! 入って、入って」

 ルイーズはそう言って、迎え入れると、

「ヴィクトル――――!」

 そう言ってギュッと抱きしめた。

 ヴィクトルも久しぶりのルイーズの匂いにホッとして、背中をポンポンと叩く。

「もう会えないかと思ったよぉ……」

 ルイーズはそう言って鼻をすすった。


      ◇


 落ち着くと、ルイーズは小さなテーブルの椅子をすすめる。


「追放を止められなくてごめん……。僕が知ったのは全て終わった後だったんだ……」

 ルイーズは深々と頭を下げる。

「いいよいいよ、兄さんが止められるような話じゃない。父さんとハンツにはそれなりのつぐないはしてもらうつもりだけど」

 ヴィクトルは淡々と言った。

「ありがとう……。それで……こちらの美しい方は?」

 ルイーズは、ヴィクトルの後ろに立っているルコアをチラッと見る。

「お兄様、私は契りを交わした伴侶でございます」

 ルコアはうれしそうに言い、ヴィクトルはふき出した。

「へっ!? 結婚したの!?」

「ちょ、ちょっと! そう言う語弊のある言い方止めて! ただの仲間だよ仲間!」

「あら、つれないですぅ……」

 ルコアはそう言って、後ろからヴィクトルを両手で包んだ。

「ちょっと離れて!」

 ヴィクトルはルコアに飛行魔法を使って浮かせると、ベッドの方へ飛ばした。

「きゃぁ! もう、冷たいんだから……」

 ベッドで数回バウンドしながらルコアは文句を言う。

 ルイーズはヴィクトルの巧妙な魔法さばきに驚く。飛行魔法で物を操るのは相当高度なことであり、限られた者しかできないのだ。

「えっ! その魔法……どうしたの?」

 ヴィクトルは少し考え、意を決すると言った。

「兄さんにだけ言うけど……、実は僕『大賢者』なんだ」

「えっ!? 大賢者!?」

 ルイーズは目を丸くした。賢者でもかなり稀な職である。さらに大賢者といえば百年に一度現れるかどうかという極めて稀な職なのだ。

「変な小細工したのは失敗だったよ……」

「な、なぜ隠したりしたんだい?」

「僕は目立たずにひっそりとスローライフをしたかったんだよね……」

「スローライフ……? 大賢者として王都で華々しく活躍した方が良さそうなのに……」

「そういうのはもういいんだ……」

 ヴィクトルは肩をすくめ首を振った。

「……、大賢者の考えることは……、僕には良く分からないや」

 ルイーズは少し困ったような笑顔を見せる。

「まぁ、隠したら捨てられるとは思わなかったけどね」

 ヴィクトルはため息をついた。

「追放撤回を父さんに頼んでみるよ」

「いや、そんなのどうでもいいんだ。それより、スタンピードがやってくるよ」

「ス、スタンピード!?」

 雷に打たれたように目を大きく開くルイーズ。

「十万匹の魔物が暗黒の森に集結してる。そのうち津波のように押し寄せてくるよ」

「ま、街は壊滅……じゃないか……」

「いや、それは大丈夫。僕が全部吹っ飛ばす」

 ヴィクトルはニヤッと笑った。

「吹っ飛ばすって……、幾ら大賢者でも……十万匹だよ?」

 すると、ルコアはiPhoneを出して、動画を再生するとルイーズに見せた。

「主さまはね、こういうことできるのよ」

 iPhoneにはサイクロプスを吹き飛ばした時の絶対爆炎ファイヤーエクスプロージョン集中砲火の様子が流れている。

「えっ!? 撮ってたの?」

 ヴィクトルが驚いていると、ルイーズは、絶句して固まってしまった。

 ヴィクトルによって巨大な魔法陣が次々と展開され、見たことも無いような爆発が大地を焦がすその映像は、もはや人間のレベルをはるかに超えている。神話に出てきた魔王とかそういう伝説の存在クラスであり、ルイーズはただ、呆然ぼうぜんとして動画が繰り返されるiPhoneに見入っていた。

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