1-6. 魔石の秘密

 結局死闘の末、三回殺されながら、何とかアイテムの効果でオーガを倒すことに成功したヴィクトルは、ステータスを確認する。


 ヴィクトル 女神に愛されし者

 大賢者 レベル 15


「おぅ! やったぁ!」

 思わずピョンと跳ねるヴィクトル。

 なんと、レベルは一気に15まで上がっていた。これで少なくともゴブリン一匹にはおびえなくて済みそうだ。暗黒の森で初めて見えた光明。ヴィクトルはグッとガッツポーズをして薄氷を踏むような死闘の勝利を味わった。

 しかし……、何とか見出した活路ではあったが、それでも五歳の少年には前途多難な状況に変わりはなかった。

 街に戻っても入れてくれないだろうし、他の街に行ってもただの浮浪児として乞食扱いだ。何とかこの暗黒の森の中で生活していくしかない。だが、それは少しレベルが上がっただけで解決できることではない。

 ヴィクトルは現実の厳しさに気が重くなり、大きく息をつくと、

「強く……。ならなきゃ……」

 と、ギュッとこぶしを握った。


 薄暗がりの中には二つの光る魔石が転がっている。真っ赤に光るオーガの魔石と緑色に淡く光るゴブリンの魔石……。魔物は倒すと身体は消え、こうやって魔石を落とす。

 ヴィクトルは魔石を拾い、ジーッと眺めた。

 魔石には魔力が含まれていて、普通はギルドが買い取って燃料にしたり道具に加工したりしている。しかし、街へ行けないヴィクトルにしてみたら宝の持ち腐れだった。


「お腹すいたなぁ……」

 思い返せば昼から何も食べていない。しかしパンは一個しかないのだ。気軽には食べられない。

 何か食べ物を探さねばならなかったが、日も暮れてきて今から探すのは難しそうだった。

「これ、食べられないかな……」

 ヴィクトルは魔石を見つめながらつぶやく。

 魔石には毒が含まれていて、なめたりしてはいけないというのは常識だった。だが、アマンドゥス時代に解毒方法は見つけている。魔石には結晶の方向があり、その方向に沿って解毒剤を染みこませていくと解毒はできる。とは言え、解毒できたからと言って口に運ぶ気も起こらず、そのままになっていたのだ。

「食べて……、みる?」

 ヴィクトルはやぶの中を少し歩いて『毒けし草』を見つけると、その葉っぱでオーガの魔石をくるみ、結晶の方向に沿ってゴシゴシとこすった。

 すると不透明に鈍く光るだけだった魔石は、透明となって向こうが見えるようになり、ラズベリーのような爽やかな芳香を放ちはじめる。

 ほのかに赤く輝く美味しそうな石……。

 ヴィクトルはその香りにかれるようにペロッと舐めてみる……。

「あっ、甘い!」

 なんと、魔石は美味しかった。

 急いでチューッと吸い付いてみると、エキスがジュワッと湧き出して果物のようなジュースが口いっぱいに広がる。

 思わずゴクンと飲み込むヴィクトル。

「お、美味しい……」

 ブワッとヴィクトルの身体が淡い赤い光に包まれる。ヴィクトルは満面の笑みでこの死闘の果実を満喫した。芳醇で豊かな味わいが空腹のヴィクトルに恍惚の時間をもたらす。

 その時だった……。

 ポロロン!

 頭の中で効果音が鳴り響き、空中に黄色い画面がパッと開く。


 HP最大値 +5、強さ +1、攻撃力 +1、バイタリティ +1


「へっ!?」

 ヴィクトルは唖然あぜんとした。なんとステータスが上がっている。

 ステータスを上げる方法など今までないとされていたのだが、そんなことは無かった。魔石を食べればよかったのだ。

 これはすごい発見だった。今までステータスを上げるには経験値を上げてレベルを上げるしかなかったが、これには上限がある。アマンドゥスですら一生上げ続けたのにレベルは二百に行かなかった。しかし、魔石はいくらでも食べられる。魔物を狩り続けるだけでステータスが上がり続ける、まさに人間離れしたステータスへの道が開けたのだった。


「行ける! 行けるぞ!」

 ヴィクトルはこぶしを握り、世紀の大発見に狂喜した。

 魔物を倒し、レベルアップしながら魔石を食べ続ければ世界一の強さを得ることができる。前世の知識も合わせたらまさに無敵になれる。

「やったぞ! ざまぁみろ! れ者どもめ!!」

 自分をこんな所に捨てたあの馬鹿どもに、お灸をすえてやるのだ!

 ヴィクトルは湧き上がってくる高揚感にガッツポーズを繰り返した。


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