第16話 残念がりますね、きっと……
さくらたちがふたりで、
最初に話し始めたのは、沙羅の母親だった。
「あの子ったら、あげないわよ……って、ねぇ……?」
「はぁ……」
ふたりして、思わず笑いがこみ上げてきていた。
「沙羅のことは迷惑をかけたでしょう。あの子、さくらちゃんに何か話した?」
「いえ、沙羅さんのお母さんが入院なさってることは、会話の中に出てきましたけど、それ以外は……」
「そう……。初めから
「でも、この力は沙羅さん自身が体験しないと、きっと信じてもらえないと思います、だから、沙羅さんにはこのほうがよかったのではないでしょうか? それに沙羅さんのお母さんの……」
さくらの言葉が途切れたところで、沙羅の母親が、優しい笑顔と仕草でさくらに向きなおる。
「わたしのことは、そうね……。
「は、はい……」
なぜか、その小百合に見つめられると、いつもの自分でいられないような、さくらはそんな気がしていた。
ここでも慌てて返事をしている。
「あの、小百合さん?」
「ん……? なぁに、さくらちゃん?」
なおも、小百合に見つめられる形になって、身動きすらままならなくなっているさくら。自分の意識で体を動かせない。何か、別の力に支配されている感覚だけが、さくらの体中を駆け巡っている。
別の力……?
さくらがその力の正体に思い当たった。
「小百合さんも……?」
さくらの様子の異変に、小百合も気づいたようだ。ベッドの横に作りつけられていた棚に手を伸ばす。そこに置かれていた眼鏡をかけて、さくらに向き直る。
「さくらちゃんには影響してしまったみたいね……。ごめんなさい」
小百合が、ベッドの上で深々と頭を下げた。
顔を上げた小百合は、優しく微笑む。
「さくらちゃんは、もう解ったかしら……? わたしも志乃ちゃんと同じような力を持ってるわ……。さくらちゃんも……よね?」
「小百合さんも、魔法使いなのですね?」
「そうよ……。志乃ちゃんみたいに、何でもできるって訳ではないけど」
「母みたいに……って、魔法使いにも違いがあるっていうことですか?」
「そうねぇ……。わたしは、もともと、目を通して視ることの力が強かったのね。その力に魔力を加えて、増幅してる感じかしら……。現代社会では催眠術や幻術って言われているわ。一方、志乃ちゃんは、それこそなんでもできるタイプ。なかでも世間で超能力っていわれる部類を得意としてたわ」
そう言って、小百合がまた微笑んだ。
「そうですか……。魔法使いって呼ばれてる人たちは、母みたいに、何でもできると思っていました」
さくらは、そうひとり言のように呟くと、腕組みまでして考え込んでいる。
そんなさくらを見ては、小百合が言う。
「わたしも、とりあえず何でもできるわよ……。ただ、得意としていないだけ……。それで? さくらちゃんは……? あなたも、志乃ちゃんの血をひいてるのよね?」
「はい」
「さくらちゃんは、何ができるのかな……?」
「はい、母からは、魔法は想像力が大切って言われてきました。そして、その力は周囲が優しくなれることに使いなさい……って」
「志乃ちゃんらしいわね」
「はい、それから、他の人が、魔法の力を使わずにできることには、自分で精一杯の努力をして、魔法は使うなとも……」
「それも、志乃ちゃんらしいわ……」
「はい、だから、まだこの魔法の力で何ができるのか、よくわからないままで。ただ、母が想像力って言ってましたから、きっと、何でも、割とできるのかな……って、思えたりもして……。ところで、小百合さん?」
笑顔を絶やさないまま、さくらの話を聞いていた、小百合に問いかける。
「ん……? 何かな……?」
「さっきまで、体の自由がきかなかった感じがしたのには、魔法は使われてなかったですよね? 感じ取れませんでしたし……」
「そうね。昔から言うでしょ。目は口ほどにものを言う……って。わたしの場合、もとから、その力が強かったのね……。だから普段は、こうしてフィルター代わりに眼鏡をかけてるのよ」
「でも、沙羅さんは平気そうでしたけど……」
「魔力を持たない人には、わたしが意識して魔法を使わなければ、効果はないみたい。そこは沙羅にはわたしの力が遺伝していないのよね……」
そう言いながら笑っている。
さくらもそれにつられて笑い出す。
「そうですか。沙羅さんがそのことを聞いたら残念がりますね、きっと……。それから小百合さん? 他にはどのような……?」
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