第14話 綺麗な人だなって思って……
「それでは、
「えっ……?」
「えぇぇぇっ?」
ここまでの静かな雰囲気を壊すかのような、沙羅とマリ、ふたりの揃った反応。
いつもはおとなしすぎるくらいの、マリの反応が大きいことのほうが、珍しいことではあった。
「さくらちゃん? ひとつずつ解決ってぇ、どぉゆうことよぉ」
「えぇ、ですから、言葉のとおりで、沙羅さんの心配事をですね……」
さくらのその言葉に、驚きを隠せないまま、顔を見合わせていたふたりが、さくらに詰め寄っていく。
「今、沙羅ちゃんが言ったばかりでしょ。なんにも言ってないって」
「そうよ、さくらちゃん。わたし、まだなにも言ってない」
「そうだったですか? マリ姉も言いましたよ。魔法で治せないのって」
「あっ……」
今しがた、さくらと小声で話していたことだった。そのことに気づいて思わず声をあげてしまったマリ。
「どうかしたの? さくらちゃん? 魔法がどうとか……」
一方の沙羅の頭の周りには、疑問符がたくさん浮かんでいるようだ。
「いえ、なんでもないです。そうだ、沙羅さん、この魔桜堂を知ってるっていう、沙羅さんのお母さんに、お会いしてみたいと思うのですけど……。お見舞いに一緒に行ってもいいですか? 今日もこれから、行かれるんでしょ?」
沙羅は少しだけ言われたことを考え、さくらに笑顔で答える。
「もちろん、いいに決まってるよ。お母さんも喜ぶと思うし」
沙羅と話をしているさくらの袖口を、マリが掴んで呼び止める。
「さくらちゃん? そんな突然病院まで押しかけて行ったら失礼だと思うよぉ。さくらちゃんのことだから、なにか考えがあると思うけどぉ」
「マリ姉だって言ってたでしょう。沙羅さんのお母さんが、本当に母と同じ症状だったなら助けてあげられます」
「それって、沙羅ちゃんのお母さんも魔法使いかもってこと?」
「えぇ……。しのぶさんが、沙羅さんをどこかで見たことがあるって言ってたでしょ。それって、この写真のことだと……」
そう言いながら、カウンターの奥に置かれてあった、さくらが母の写っている写真を手に取った。
その写真を見たマリが声をあげた。沙羅の顔と写真の顔を交互に見比べている。
「この写真の人って、沙羅ちゃんだよねぇ……」
「いえ、沙羅さんにそっくりですけど、一緒に写ってるのは母ですし……、沙羅さんじゃないと思います。だとしたら、沙羅さんのお母さんではないでしょうか?」
「沙羅ちゃんのお母さんが、魔桜堂に来たことがあるってことだよねぇ……」
「はい、それも、母とも仲がよさそうですし、一度だけここに来たっていう雰囲気ではないですよね?」
「そぉだねぇ……。それを確かめるために、お見舞いに行くって言ったのぉ?」
「それもありますけど……。沙羅さんのお母さんが、ホントに魔法使いだったら、具合が悪いのは魔力の枯渇化のせいです。完全にゼロになる前に、回復か受け渡しかをしなければ、母と同じ結果になってしまいますから……」
病室のドアを、沙羅が小さくノックする。中から小さな声で返事が聞こえてきた。
「お母さん、入るわよ」
沙羅が病室の中に入っていく。その病室のドアの脇には、
さくらを連れてきたことを説明している沙羅の姿が、ドアの隙間から見えている。
「さくらちゃん、入っておいでよ」
沙羅に呼ばれても、さくらは病室の入り口で、入るのを
ベッドに起き上がって、さくらを迎えてくれたその姿は、病気のせいか、色白の肌が際立って見えた。病室の白い壁と、変わらないくらいの色をしている。
しかし、とても綺麗な人だった。沙羅も、もう十年もすると、こうなるのだろうか。さすがに親子だと思えるほど、雰囲気はそっくりだった。
沙羅の母親が、病室の入り口で、未だに
「さくらちゃん、よければお入りください……」
「はっ、はい。お邪魔します……」
さくらが、見つめられた瞳に、吸い寄せられるようにして、病室へと入っていく。
沙羅が、椅子を用意してくれた。
促されるままに座るさくら。その一連の様子を、不思議そうに隣の沙羅までもが見つめている。
「どうしたの? 今までとは、人が変わったみたいよ」
「そうですか? いえ、沙羅さんのお母さんて、綺麗な人だなって思って……」
「そぉ? それで、見とれてたの? さくらちゃんは?」
ふたりのやりとりを、沙羅の母親は微笑みを浮かべたまま聞いている。
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