外伝8.幸せな物語は語り継がれる(最終話)
5年経って、僕はあまり大きくならなかった。パパみたいに手足が長くなって背も高くて、力持ちになると思ったのに。がっかりする。
「俺はずっと抱っこできて嬉しいぞ」
パパはそう言って僕を抱き締めた。人間は毎年大きくなる。天使は1年で大人になって、後はずっと同じなんだって。悪魔はゆっくり育つみたい。人間の何倍も時間が掛かる。すぐ大人になって、皆を手伝いたかったんだけど。
「今のままで十分、皆を幸せにしているから安心しろ」
アガレスやマルバスも同じことを言う。こないだはミカエル達も4人で遊びに来て、似たような話をした。僕の体は小さいけど、影響力は大きいって。影響力って、幸せと関係あるのかな。
いろいろとお勉強もしてるけど、一度にたくさんのことを学ぶと混乱する。パパは急いで大人になるなと言った。子どもの時間は貴重で、とても大切。子どもの間に幸せをいっぱい受け止めないと、優しい大人になれない。だから今は幸せな子どもでいなさいと言われた。
「僕はパパと一緒なら幸せだけど、皆も幸せなの?」
「ああ、皆がカリスを大好きだ」
なんだか嬉しい。役に立ててるなら、もう少し子どもでいたいな。パパと「あーん」をしながら食べるご飯は美味しいし、お膝に乗るのも大きくなったら出来ない。抱っこしてもらって移動も、体が大きくなったら無理だよね。
「そうだな、あと500年はこのままでいい」
パパはうーんと唸りながら、僕がこのままでいていいと頭を撫でた。気持ちよくて目を閉じて、パパの首筋に顔を埋める。僕より白い肌は、温かくてすべすべしていた。
くーん、鼻を鳴らすベロの声がして顔を上げた。最近のベロはまた大きくなって、二つの頭で僕に頬擦りする。もうパパの肩に届くくらい大きいの。お座りしてるのに、立った僕より大きいのは狡いと思う。
「ベロ、お名前二ついるかな」
「どうしてだ?」
「頭が二つだから」
右と左でお名前違うよね。どっちが元のベロだろう。ベロは左右の顔でお互いを見た後、鼻を鳴らしたり吠えたりした。ごめんね、何て話してるか分からないの。伸ばした手で鼻筋を撫でると、うっとり目を閉じた。
「ケルベロスは1匹で二つの頭だ。このままでいいと思うが」
「ケルとベロに分ける!」
それなら二匹でケルベロスになる……あれ? スはどうしよう。大きなベロは尻尾をぶんぶん振りながら僕を見つめる。大きな赤い目が綺麗。あ、尻尾にスとつければいいや。
パパは笑いながら「いい考えだ」と褒めてくれた。無視されたと思ったのか、ニィがベロ達の背中に飛び乗って顎を突き出す。ニィも大きくなって、僕が抱っこすると、後ろの足が床についちゃう。べろんと伸びるんだ。
「明日、ウリエルが来ると言っていたが、何か約束したか」
「ウリエルとガブリエルが来るの。僕の描いた絵が欲しいんだって」
「またか」
あまり絵や書いた文字を渡すな。パパがむっとした顔でそう呟く。ダメなのかな。首を傾げたら、困った顔をされた。
「ダメならごめんねする」
「カリスが書いた文字も描いた絵も、すべて手元に残しておきたい。俺は心が狭いからな」
心が狭いの? じゃあ僕、大きくなるのを我慢する。そうしたら、ずっと小さいまま、パパの中にいられるよ。
「これは参った。大切な息子の成長を妨げては、親失格だな」
僕のパパは、バエルパパだけ。ずっと一緒だよ。にこにこしながらパパの頬にキスをする。お返しは頬じゃなくて額だった。
「だーいすき、こんなくらい」
大きく手を振り回して示したら、パパは嬉しそうに頷いて僕の頬にキスをくれる。ずっとずっと、僕とパパは幸せに暮らすの。もう痛いことも悲しいことも起きませんように。
「愛している、我が息子カリス」
「僕もパパが一番好き! ずっと一緒ね」
約束は色褪せることなく、互いの命が尽きるまで違えられることはない。幸せな物語はいつでも、この言葉で終わるもの――めでたし、めでたし。
The END……
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最後までお付き合い、ありがとうございました(o´-ω-)o)ペコッ ここで外伝も終わりとなります。早朝の更新にもかかわらず、お読みいただきましたことに重ねて御礼申し上げます。
また新作でお会いしましょう!
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